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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

マダガスカル
採掘場から教室へ
児童労働から子どもたちを守るために

【2016年4月4日  ベロバカ(マダガスカル)発】

マダガスカルでは、貧困などの理由から、多くの子どもたちが学校へ通えずに労働に従事しています。児童労働の状況と、子どもの保護に関するユニセフの取り組みに関する、ユニセフ・マダガスカル事務所の野本瑠衣 子どもの保護専門官による報告です。

* * *

マダガスカル北西部に位置するボエニー県マハジャンガ市から車で20キロ程の距離に、ベロバカという小さな村があります。この村では、多くの家族が砕石場で働きながら生計を立てています。その多くが、干ばつや深刻な貧困、ダハロ(武装強盗団)から逃れるため、マダガスカル南部から仕事を求めて北部に移住してきた人々です。

危険な粉砕場で働く子どもたち

ベロバカの砕石場。多くの幼い子どもたちが家計を助けるために働いている。

©UNICEF Madagascar/2015

ベロバカの砕石場。多くの幼い子どもたちが家計を助けるために働いている。

砕石場では、大人だけでなく、子どもたちも両親を助けるために働いており、マミタスアくん(14)も、砕石場で働く子どもたちの1人でした。両親とともに朝から夕方まで毎日働き、当然ながら、学校に行くことは出来ませんでした。

「両親を助けるために、10歳から砕石場で働き始めました。仕事は、お母さんと一緒に小さな石を砕くことでした。時々お父さんを手伝って、大きな石を運びましたが、僕には重すぎて足を怪我してしまいました。」と、マミタスアくんは言います。

マミタスアくんの母親のヘニンツーアさん(38)は、「私には9人の子どもがいます。私自身は読み書きができません。これまで20年間砕石場で働いてきました。当時、7人の子どもたちも私と一緒に砕石場で働いていました。砕石1立法メートル当たり5,000アリアリ(約178円)をもらうことができます。でも、それでは日々の食べ物を買うことさえ出来ません。息子が5歳の時、石で頭をぶつけたことがあり、砕石場での仕事は、子どもたちにとって大変危険であることは知っていました」と語ります。

児童労働から子どもたちを守るために

学校で地学の授業を受けるマミタスアくん。

©UNICEF Madagascar/2016

学校で地学の授業を受けるマミタスアくん。

ベロバカの砕石場で児童労働が行われていることを知ったユニセフは、他の支援機関と協力して地方自治体と話し合いを持ち、郡長や村長、砕石場を管轄する司法関係者を説得しました。そして、砕石場付近に住む家族や子どもたちへの聞き取りを行い、各家庭を訪問し、現地調査を実施しました。その結果、75世帯が支援を必要と認められ、それらの家庭の子どもたち112人(女の子56人、男の子56人)を児童労働から解放するとともに、必要な支援を行うことになりました。

ユニセフはベロバカにある6つの学校当局と話し合い、112人すべての子どもたちが学校に通うことが出来るようになりました。入学にあたってユニセフは、子どもたちと家族を対象にした心理カウンセリングの提供、学用品一式の配布、入学金および授業料の支援、入学に必要な出生登録書の入手のための行政手続き支援、砕石場で病気にかかった子どもたちへの医療支援、貧困家庭の為の生計向上支援、子どもの権利および児童労働をテーマにしたコミュニティにおける話し合い、などを実施しました。

子どものより良い未来を願う両親

「子どもたちが砕石場での仕事を辞め、学校に行き、楽しそうに学んでいる姿を見ることが出来た時、これまでの苦労が報われた思いでした。この成果は、労働から解放され教育の機会を得ることが、子どもたちにとっていかに大切かということについて、両親が理解することなしには成し遂げることができませんでした」と、ユニセフ・マダガスカル事務所のアニータ・インガビール子ども保護部門チーフが言います。

ユニセフの支援により学校に行くことが出来るようになった、マミタスアくん(右から3人目)と4人の兄弟。一番左は母親のヘニンツーアさん。

©UNICEF Madagascar/2015

ユニセフの支援により学校に行くことが出来るようになった、マミタスアくん(右から3人目)と4人の兄弟。一番左は母親のヘニンツーアさん。

ユニセフの支援により、マミタスアくんも学校に通うことが出来るようになりました。「学校に行くことで、勉強が出来るようになっただけでなく、友だちもできました。もう毎日砕石場に行く必要がないので、安心しています。学校では、算数や地学の授業が好きです。将来は学校の先生になりたいです」(マミタスアくん)

マミタスアくんの両親も、ユニセフの生計向上支援を受けて、砕石場での仕事に加え、白米の販売を行うようになりました。母親のヘニンツーアさんは言います。「ユニセフから支援を受けるようになって以来、5人の子どもたちは働くことをやめ、学校に通うことが出来るようになりました。私は子どもたちに、より良い未来を贈りたいです。子どもたちが学校を続けることができるよう、出来ることは何でもするつもりです」

マダガスカルの児童労働の状況

マダガスカルでは、2009年3月の政変に端を発する暫定政権期間中、ドナーの支援額や民間投資の減少等による経済の停滞の為、国家予算が不足し、貧困が深刻化しました。その結果、今日においても、国民の90パーセントが1日2ドル以下で暮らしています。このような状況下で、5~17歳のうち28%の子どもが何らかの労働に従事しており、さらにそのうち95%の子どもが、鉱山や砕石場、バニラやカカオ農場、商業的性的搾取(買春)など。最悪の形態の児童労働に従事しています。

鉱山や砕石場で働く子どもたちの多くは、自分の土地を持たない地方の貧しい家庭で暮らしており、働いている子どものうち10人に2人しか学校に通えていません。学校に行っていない子どもたちは、平均で週に47時間働いています。

病気や怪我と隣り合わせの労働

ベロバカの砕石場で働いていた幼い子どもたち。

©UNICEF Madagascar/2015

ベロバカの砕石場で働いていた幼い子どもたち。

鉱山や砕石場で働く子どもたちの多くが、適切な防具や衣服も与えられず、高い気温の中、有害な煙や埃に長時間さらされることにより、呼吸器疾患、下痢、皮膚病や脱水症状、石の破片の飛散による目の怪我、重すぎる荷物を背負うことによる背中や筋肉の障害、また、終日屋外にいることにより、蚊によって伝染するマラリアの危険にもさらされています。

さらに、地盤管理がほとんどなされていない鉱山では、常に落盤の危険があります。呼吸をする為の酸素を入れたプラスチックの袋を持って、地下15メートルまで潜り、狭い坑道の中で働く子どもたちもいます。

また、貧困により、ストリートチルドレンとして路上で物乞いをする子どもの数も、首都や地方の大都市で増加しています。2014年には、首都だけで4,500人のストレートチルドレンが保護されました。ストリートチルドレンの多くが、他に稼ぐ手段がないことから、買春などの最悪の形態の児童労働に従事したり、人身売買の被害に遭う可能性が高くなっています。2013年の調査では、首都で売春婦として働く1,237人中1,132人が、18歳未満であることが明らかになっています。

 ユニセフの取組み

ユニセフは、ボエニー県を含む、特に子どもの保護の必要性が高いマダガスカル内の5県(首都のあるアナラマンガ県、ボエニー県、ディアナ県、アツィナナナ県、アツィモ・アンドレファナ県)において、暴力や搾取の危険にさらされている子どもたちをいち早く見つけ、保護し、必要なサービスを提供することが出来るよう支援を行っています。具体的には、子どもの保護に関する国家政策の策定支援、支援が必要な子どもたちに提供するサービスの質の向上、サービスに関わる人材開発の為の技術・資金協力、子どもの保護分野における支援団体間の調整の強化、コミュニティ内での子どもの権利に関する啓発活動などを行っています。

また、ユニセフと国際労働機関(ILO)の支援を受け、マダガスカル観光省が作成した「商業的性的搾取と闘う為の行動規範」は、ホテル・旅行・観光業界に幅広く受け入れられ、多くの観光業者が遵守を約しています。

ユニセフはまた、国内に750人以上いる「子どもの保護ネットワークメンバー」への支援も行っています。「子どもの保護ネットワークメンバー」は、子どもへの社会福祉サービスの提供と子どもに対する暴力や搾取の防止を強化する為に、マダガスカル政府がユニセフの支援により、2004年から構築しているネットワークで、メンバーには警察官、裁判官、医師、社会福祉士、NGO代表,市長や区長などがおり、国内すべての行政区に配置されています。ユニセフは、コミュニティや学校、家庭内で暴力の被害に遭った子どもたちが、「子どもの保護ネットワークメンバー」によって、いち早く保護され、速やかに適切なサービスにつなげることが出来るよう、メンバーへの定期的なトレーニングを行っています。

ユニセフは、現在、支援対象の5県と共同で、一人でも多くの子どもを暴力や搾取の危険から守るため、そして、子どもたちが安心して過ごすことのできる社会を作るために、子どもの保護分野における2019年までの活動計画を策定しています。また、政府や他の援助機関、市民社会組織、コミュニティ、家族、そしてこの国の未来を担う子どもたち自身と密に話し合いながら、子どもたちにとって真に意義のある活動計画を策定し、推し進めるべく、日々活動しています。

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©UNICEF Madagascar/2015

子どもの保護活動計画策定会議にて子どもの保護ネットワークメンバーと、野本さん(前列、右から2人目)。

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野本瑠衣(のもと・るい)専門官は、子どもの分野で国際協力を担うことのできる若手の人材を養成することを目的とした、日本ユニセフ協会の「国際協力人材養成プログラム」を通じて、2013年にユニセフ・カンボジア事務所でインターンをしていました。インターン体験記も併せてご覧ください。

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