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日本ユニセフ協会
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世界の子どもたち

「シリア紛争から逃れて」 後編
命を懸けた旅路
今も苦悩を抱える母親

【2017年3月17日  ミスラタ(リビア)発】

シリアの長引く紛争から逃れるため、リビアを経由してイタリアを目指そうとしたマフムードさん家族。リビアに到着後、密航業者たちによって、海のそばのコンクリート製の建物に、閉じ込められました。お腹を空かせた子どもたちに与えてあげられる食べ物もありません。(前編はこちら

* * *

 

イタリアへ向けて

シリア難民のファウジアさん(39歳)。

©UNICEF/UN053154/Romenzi

シリア難民のファウジアさん(39歳)。

ある夜、密航業者がやって来て、待機している人たちを20人から30人のグループに分け始めました。

「海岸に連れて行かれ、離れたところに停泊してある木造の船に乗るために、まずは小さなゴムボートに乗せられました。真っ暗な海から砂浜に打ち上げる波の音を聞いたとき、夫の方を向いて言いました。『もうイタリアへは行きたくない。とっても怖い』」と、ファウジアさんは言います。

ファウジアさんはあまりの恐怖に叫び出しましたが、密航業者の一人に無理やり引きずられ、子どもたちと一緒にゴムボートに押し込まれました。

それが、長い苦しみの始まりでした。大きな木造の船に到着したとき、ファウジアさんはあることに気づきます。海の上にも、階級制度が存在していたのです。

「私たちのようなシリア人は、船の甲板に乗せられ、追加料金を払えば救命胴衣を渡されました。甲板の下には、何百人ものアフリカ人の若者や子どもたちが押し込められていました。救命胴衣も着用していません。狭い場所にぎゅうぎゅう詰めにされ、息をするのも大変そうでした」

船は真夜中にイタリアへ向けて出発しましたが、その後まもなく、船内に水が入ってきたのです。

浸水した船、失われた命

ファウジアさんは、甲板の下で、水が入ってきたことを伝える叫び声がしたのを覚えています。恐怖に怯え、死にたくないと叫んでいましたが、密航業者は聞こえないフリをし、そのまま進み続けました。

その後、衛星電話を使って海岸で待つ仲間に連絡した密航業者は、波に揉まれる船に何百人もの人たちを残したまま、迎えの船で立ち去りました。

この日の出来事は、ファウジアさんにとって思い出したくもない経験です。こらえるようにうつむき、携帯電話の画面に目線を落としながら、不安そうに話してくれました。画面に表示されていたのは、命を落としたタラルくんの写真です。

密航業者たちが立ち去った後、船は大量の浸水で傾き始めました。

「海の中に振り落とされました。一番下の息子、バラルをしっかりと抱きしめましたが、それ以上どうして良いか分かりませんでした。出発前、船に何か起きた場合の対応について、密航業者からの説明はありませんでした。その後のことは、何も覚えていません。何も考えられませんでした。生き延びられるように、祈るだけでした」

救出と悲劇

シリア難民のバラルくん(5歳)。

©UNICEF/UN053159/Romenzi

シリア難民のバラルくん(5歳)。

ファウジアさんは一晩中、バラルくんを抱きしめていました。水の中で、生死の境界をさまよいました。

「眠りそうなバラルの頬を、何度も叩いて起こしました。とても重くて、手を離してしまいそうでした。『いつになったら休めるの?』とバラルが聞くので、自分がウソをついてることを承知で、『もうすぐよ』と言いました」

ファウジアさんは、海中でつかまるものを探しました。「何か丸いものを見つけましたが、亡くなった人の頭でした」

何時間も海を漂いながら、通り過ぎるボートに必死に助けを求めましたが、止まってくれる船はありませんでした。そしてようやく、リビアの沿岸警備隊に救助されたのです。

海岸にたどり着いてすぐ、家族を探し始めました。数時間後に、夫と娘のシャムちゃんを見つけることができましたが、タラルくんだけ見つかりませんでした。

ファウジアさんが最後に覚えているのは、倒れて運び込まれた病院の風景です。点滴治療を受けた3日の間ずっと、ファウジアさんはたった一つの質問を何度も何度も繰り返しました。「私の子どもはどこにいるの?」

その度に、医師は「後でね。明日にしよう」と言いました。

「3日間、誰も何も教えてくれませんでした。そして、恐れていたことが現実になってしまったのです。医師が見せてくれたのは、亡くなったタラルの姿が写った写真でした」(ファウジアさん)

どんな母親もすべきでない選択

ファウジアさんは、その後一度も海を見ていません。ファウジアさんは、タラルくんが、救命胴衣を奪おうとする他の移民に殺されたのだと考えています。「タラルの頭に傷がありました。誰かが殺したのです」

ファウジアさんに安眠が訪れることはありません。タラルくんとの記憶が、頭を離れないのです。そして、何百もの人を見捨て死へと追いやった密航業者たちの行為への理解に苦しむと同時に、自分自身がとった行動も許すことができません。

しかし、ファウジアさんが直面した選択は、世界中のどんな母親も経験すべきでないものです。自分の子どものうち、一人だけを選んで助けるという選択。一人を選び、その他の子どもが自分自身の力で生き延びてくれると強く祈ることしかできないのです。

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