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日本ユニセフ協会

ストーリー

シリア:貧困で奪われる教育
ユニセフの支援で学校に戻ったアフマド
「将来は教師になって、子どもたちを助けたい」

2023年3月16日クネイトゥラ(シリア)

「他の子どもたちが学校に行っている間、僕は羊の世話をしていたんだ」と、シリア南部のクネイトゥラ県クセイベ村に住むアフマド(13歳)は2年前の生活を振り返ります。当時、アフマドは11歳という幼すぎる年齢で、一家を支えるという大きな責任を背負っていました。

学校を辞めて、生活費と治療費を稼ぐ11歳

建設現場でおったケガで足が不自由な父親のモハメッドさんに寄り添い、階段を降りるのを助けるアフマド(シリア、2022年5月24日撮影)

©UNICEF/Syria/2022/Johnny Shahan
建設作業中に負ったケガで足が不自由な父親に寄り添い、階段を降りるのを助けるアフマド(シリア、2022年5月撮影)

アフマドの父親と兄は、日雇いの作業員として建設現場で働いていました。2人のわずかな収入で、一家6人はなんとか生活している状態でした。

一家は、シリアでの紛争によって何度も居場所を変えながら、2018年にようやく故郷のクセイベ村に戻ることができましたが、経済的にとても困窮していました。「自宅の家屋はひどく損傷していて、僕ら家族は叔父の家に身を寄せていました。自分たちで修理するためのお金さえもなかったから」とアフマドは語ります。

そんな中、2020年に、父親が作業中のビルの屋上から転落するという事故が起きました。アフマドは、「あの日のことは忘れない。事故が起きたとき、僕は学校にいたんだ。お父さんは大けがをしてしまって……」とうなだれます。

この事故により、父親は一時的な麻痺状態に陥りました。松葉杖をついて歩けるようになるまでに、繰り返し手術を受けなければならず、もとの仕事に復帰することは不可能でした。それでアフマドは父親のかわりに働くため、学校を辞めなければならなかったのです。

「毎日毎日、朝早くから夕方まで、近所の住民が飼っている羊の世話をしていたんだ。大変な仕事だった。でも、一番悲しかったのは、学校を辞めたこと。友だちにも会えなくなってしまった」とアフマドは回想します。アフマドは、家族を養うために働き、父親が必要とする治療と薬の費用を払い続けました。

悲しみが消えた、人生で最高の日

2021年夏のある日、支援が必要な子どもがいないかを確認するため村に来ていた2人の若いボランティアが、アフマドの家を訪れました。そして、クネイトゥラにあるユニセフが支援する総合学習センターで、教育支援プログラムを受けられることを、アフマドに伝えました。そのプログラムは、子どもや若者が学習を続けること、それとともに就業に必要なスキルを身につけることをサポートしています。

「ボランティアの人が僕に学習センターに行くことを勧め、母親にもそのプログラムについて説明し始めたとき、心の中にあった悲しみが消えていくのを感じたんだ。母も、僕がセンターに通うことを強く望んでいるようだった。あれは人生で最高の日でした」とアフマドは振り返ります。

ユニセフが支援する総合学習センターでアラビア語の補習授業を受けるアフマド(シリア、2022年5月24日撮影)

©UNICEF/Syria/2022/Johnny Shahan
ユニセフが支援する総合学習センターでアラビア語の補習授業を受けるアフマド(シリア、2022年5月撮影)

 

ユニセフが支援する総合学習センターで、教師からアラビア語を教えてもらうアフマド(シリア、2022年5月24日撮影)

©UNICEF/Syria/2022/Johnny Shaha
ユニセフが支援する総合学習センターで、教師からアラビア語を教えてもらうアフマド(シリア、2022年5月撮影)

 

アフマドは、学校に通っていない子どもたちが学習不足を補うために特別に用意された自己学習プログラムに参加し始めました。また、センターでのライフスキル研修やレクリエーション活動にも参加しました。

「学習センターで再び学べることが信じられなかったけど、それだけじゃなかった。そこで同年代の友だちと出会い、スポーツや工作、絵を描くことなどの活動をすることで、『普通の日常が戻ってきた』と感じたんだ」とアフマドは言います。「自分に自信が持てるようになったし、すべてを喜べるようになりました」

村の学校へ再入学、将来の夢は...

「センターに通い出してから3カ月後、村の学校に再び通うことができるようになりました。この村では、僕を含めて21人の生徒が、同じように学校に戻ることができて授業を受けています」と、アフマドは誇らしげに語ります。彼は7年生として学校に再入学しました。2022年5月にアフマドに会ったとき、彼は試験を控えていました。

勉強時間を確保するため、アフマドは放課後と週末だけ羊の世話をすることにしました。「仕事に行くときも本を持って行って、合間に読んだり宿題をしたりしているんです。2年間、学校で勉強できなかった分を取り戻すために頑張らなくちゃいけないから」

アフマドは今も、ユニセフが支援する学習センターに通い、アラビア語、英語、数学、科学、物理、化学など主要科目の補習授業を受けています。「将来は教師になって、自分の村で、学校を辞めてしまった子どもたちを助けたい。一人ひとりをサポートし、勉強を教えて、僕の人生が変わったように、彼らの人生を変えてあげたいんだ」

©UNICEF/Syria/2022/Johnny Shahan
羊の世話をしながら期末試験の勉強をする13歳のアフマド(シリア、2022年5月撮影)

 

羊の世話をしながら期末試験の勉強をするアフマド(シリア、2022年5月撮影)

羊の世話をしながら期末試験の勉強をするアフマド(シリア、2022年5月撮影)

 

 


ユニセフが支援する総合学習センターでは、学校に通っていなかったり、退学の危機にある若者や子どもたちに、さまざまな選択肢を提供し、彼らが学習を継続でき、就業のためのスキルを身につけるサポートをしています。支援が必要な子どもや若者を見つけ出すため、専門の訓練を受けたボランティアやスタッフが約20のチームに分かれ、各地の村々をまわっています。

ユニセフが支援する総合学習センターのレクリエーション活動で描いた絵を手に、微笑むアフマド(シリア、2022年5月24日撮影)

©UNICEF/Syria/2022/Johnny Shahan
ユニセフが支援する総合学習センターのレクリエーション活動で描いた絵を手に、微笑むアフマド(シリア、2022年5月撮影)

2021年以降、ユニセフはシリアに設置した12の総合学習センターを通じて、4,000人近くの子どもたちに包括的な教育支援を届けています。例えば、レクリエーション活動、補習授業、自己学習プログラムなどの教育支援のほか、9年生(中学3年生)と12年生(高校3年生)を対象に、国が実施する試験を受験するためのサポートを行っています。