財団法人日本ユニセフ協会



モザンビーク大洪水被災地から 
ユニセフ現地事務所職員 根本[][おう]さんの報告

【2008年2月27日 ムタララ発】

モザンビーク地図

昨年末からアフリカ南部で降り続く大雨により洪水の被害が拡大するモザンビーク。ユニセフは、日本人職員を含む緊急支援活動の専門家を被災地に派遣して、女性と子どもたちに医療や栄養補助の支援活動を展開しています。現地から、根本[][おう]さんが報告してくれました。

この地域は、2007年初めにも洪水の被害に見舞われました。今年は、モザンビーク国内だけでなく、ザンベジ川上流に位置するザンビアやジンバブエでの大雨が流れ込み、河川の[みず][かさ]は通常よりも最大7mも上昇。この流域では、多数の被災者がでています。

ユニセフは、まず2008年1月初めに保健・栄養、水と衛生、そして教育と子どもの保護を専門とするスタッフから構成される調査チームを派遣し、政府の緊急支援部隊と共に、子どもと女性を中心とする現地の被害状況を調査しました。今年1月中旬より、ザンベジ川周辺に3つのベース・キャンプを設置して、他の国連機関に先立って緊急支援を始めました。

私は調査チームの一員として、まずムタララという街に入り、子どもの保護と教育分野の被害状況を調査しました。モザンビークとマラウイの国境近くに位置するムタララは、ザンベジ川とシレ川という2つの大きな河川の合流地点に位置しますが、両河川の[みず][かさ]が増した結果、街の半分が水に浸かることに…。ムタララと対岸の町をつなぐ道路は冠水し、ザンベジ川にかかる橋も使えなくなりました。更に、電線が冠水して停電が発生し、いわゆるライフ・ラインが完全に遮断されてしまいました。

こうした中、私たちユニセフの緊急支援チームは、まず政府が用意した人員救命用のゴム・ボートでザンベジ川を渡り、河岸からは徒歩でムタララ入り。ここに緊急支援のためのベース・キャンプ(ザンベジ川流域に3つあるうちの1つ)として、仮設のオフィスと倉庫(テント)を設置しました。スタッフの宿泊施設の確保も不可欠ですが、部屋数が足り無いことも多く、そうした場合、屋外にテントを張って寝泊りしながら支援を続けました。また、通信手段を確保するため、現地で活動するNGOと協力し、VSATと呼ばれる衛星回線を利用して、emailなどのコミュニケーション手段を確保しました。

ユニセフの緊急支援活動は、保健・栄養、水と衛生、教育、そして、子どもの保護といった様々な分野にわたります。その中でも、教育と子どもの保護を担当する私は、政府の緊急支援部隊の他の人道支援団体と協力し、ムタララ周辺にある避難民キャンプで被害状況を調査し始めました。キャンプ内にどれくらいの子どもがいるか確認し1人1人登録をする作業をはじめ、学校施設の再建や教材の提供といったニーズがあるか、先生が職場復帰できる状況にあるかどうか、孤児や親とはぐれてしまった子どもがいないか、子どもや女性に対する暴力・虐待が報告されていないか、キャンプ内に適切な水汲み場やトイレがあるかといったことを、手分けして20近くあるすべてのキャンプ内で行っていきます。交通手段が完全に断たれてしまった地域へは、ヘリコプターで飛び、被害状況を調査しました。

こうした調査を基に、ユニセフとしてどのような支援を、どれだけ、どの地域に行っていくか、政府とともに計画を立てていきました。特に自然災害の緊急支援下では、ユニセフは「水と衛生」、「栄養」、そして「教育と子どもの保護」の分野における、他の支援組織の活動を取りまとめる役目も担っています。時間との勝負でもある緊急支援下では、早急に各組織の計画をまとめあげ、十分な資金と人員、そして最低限の物資流通を確保し、計画の実施に移っていく必要があります。そのため、朝早くから夜遅くまで政府やNGOと交渉を続けることも。電気も水もない場所でのこうした作業は、容易ではありません。

ユニセフの緊急支援物資は、ヘリコプターで被災地に届けられています。
© UNICEF Mutarara/2008/Nemoto
ユニセフの緊急支援物資は、ヘリコプターで被災地に届けられています。

洪水により陸の孤島と化したムタララには、緊急支援開始1週間後、ユニセフが借り切ったボートと、国連のヘリコプターにより、緊急支援物資が届き始めました。この時点で、ムタララ地域には合計20か所以上の避難民キャンプが設置され、約40,000人が不自由な生活を余儀なくされていました。まずユニセフとして確保する必要があったのは、キャンプ内での安全な生活用水と飲料水。大量の水を保管することのできるプラスティック・タンクや、水をくみ上げるポンプ、浄化装置、さらに子どもの衛生環境を保つため、石鹸なども必要でした。また、マラリア予防のための蚊帳や栄養補給食、経口補水塩といった最低限の保健・栄養物資も運ばれてきました。

ときには、支援物資を自転車に積んで運ぶこともあります。道は洪水に流されてしまいました。
© UNICEF Mutarara/2008/Nemoto
ときには、支援物資を自転車に積んで運ぶこともあります。道は洪水に流されてしまいました。

その後しばらくして、学校の再開に備え(モザンビークでは1月末から新しい学年度が始まります)、スクール・テントや生徒のためのスクール・バッグなどが入ったキット、先生のための教材などが、対岸からザンベジ川を越えてボートで届き始めました。こうした物資はいったんムタララにあるユニセフの倉庫に保管されますが、そこから1つ1つ確実に公平に避難民キャンプの子どもたちに届けるために、トラックやボート、バイクや自転車(!)などを確保して、各学校に送るのは至難の業です。例えば、およそ100人の生徒を収容できる巨大なスクール・テント1つは、5つの木箱に入って送られてきます。これをキャンプに運び、そこで組み立てていかねばなりません。時には、校長先生にお願いし、生徒たち自身にこうした物資を担いでもらい、冠水した道路を水に浸かりながら歩いて学校まで届けるといったこともありました。

ユニセフは他の人道支援団体スタッフと綿密に協力しながら、緊急支援を継続しています。
© UNICEF Mutarara/2008/Nemoto
ユニセフは他の人道支援団体スタッフと綿密に協力しながら、緊急支援を継続しています。

2月に入ると、ムタララでは水と衛生環境の悪化から、コレラが発生し始めました。伝染病であるコレラのこれ以上の蔓延を防ぐため、周辺5か所にCTC(コレラ治療センター)と呼ばれる隔離施設が設置されました。これまでに合計700人以上の患者が確認され、うち13人(こども5人)が命を落としました。コレラには、下痢などの症状を緩和させる薬はあるものの、特効薬はありません。経口補水塩などを飲ませながら、ウイルスが体内から出て行くのを待つしかありませんが、これは特に抵抗力の弱い子どもたちにとっては致命傷です。

そのため、ユニセフは保健省と協力し、各避難民キャンプに2−3人配置された、保健衛生のボランティアに対するトレーニングを行い、こうしたボランティアが各キャンプで啓発活動を行えるようにしました。また、移動式劇団(地元NGOの1つ)と協力し、キャンプ内の学校を回り、歌を交えた劇を通じて、子どもたちにわかりやすくコレラ予防のためのメッセージ(「食事の前には手を洗おう」、「トイレに行った後は必ず手を洗おう」など)を伝えていくようにしました。さらに、インターネットやテレビ、新聞が普及していないこの地域では最も身近なメディアである地元のコミュニティーラジオで、コレラ予防の呼びかけを行ったりしました。ムタララには、公用語であるポルトガル語を話せない人も多いため、現地語のセナと呼ばれる言葉でメッセージを伝えるように工夫もしました。

モザンビークの大洪水被害のため緊急支援チームとして派遣された根本さん。子どもとの触れ合いに笑顔がこぼれます。
© UNICEF Mutarara/2008/Nemoto
モザンビークの大洪水被害のため緊急支援チームとして派遣された根本さん。子どもとの触れ合いに笑顔がこぼれます。

洪水により家を失い避難を余儀なくされた子どもたちにとっては、同年代の友だちと一緒に安心して勉強したり遊んだりすることができる場所があることが、一番の心のケアです。その意味でも、避難民キャンプでの学校の再開を急ぐことが急務でした。 これまでに、ムタララ周辺のキャンプにいる10,000人以上の子どもたちにスクール・キットを配りました。2月中旬に入り、川の水嵩が減り始めてきたため、ようやくアクセス可能になったキャンプでは、キットの配布が今も続いています。教育省やNGOのスタッフと一緒にキットを持って避難民キャンプの学校を訪れた際、子どもたちが笑顔で歌を歌いながら出迎えてくれたのは、忘れられない光景です。

また、子どもたちの心のケアの一環として、「子どもに優しいスペース」と呼ばれる安全な場所を避難民キャンプ内に確保し、レクリエーション・キットを配り、子どもたちが学校から帰って、あるいは、週末に、友だちと自由に遊んだりスポーツをすることができる環境を整えたりもしています。孤児など特別な保護が必要な子どもたちには、政府やNGOのソーシャル・ワーカーが訪問し、きちんと学校に通っているかどうか、公平に食糧配給を受けているかどうか、虐待のケースが無いかどうかなどをチェックし、こうした子どもたちがキャンプの中で疎外されないよう、モニタリングのシステムを作っていっていくのです。

こうしたモザンビーク・ザンベジ川流域でのユニセフの緊急支援は現在も続いていますが、大きな課題が3つあります。まず、これまでの緊急支援の結果をどうモニタリングして、必要であればどのようにフォローアップしていくか。そして、ユニセフがムタララを撤退後(exit planを練っているところです)、政府がどうやって私たちの支援を引き継ぎ、中・長期的な復興開発へとつなげていくか。さらに、そのための活動資金をどう確保するかです。

世界中で自然災害、及び、紛争が続き、子どもたちが支援を必要としている中、メディアの注目をなかなか集めにくいモザンビークでの洪水被害は、支援のための資金がまだまだ足りません。これは、例えば、避難民キャンプで子どもたちに配るマラリア予防のための蚊帳を調達できなくなり、学校に通う際に使うスクール・バッグを届けるためのヘリコプターを手配することができなくなってしまうことを意味します。

昼夜無く避難民キャンプとオフィスを行き来する毎日ですが、こうしたモザンビークの子どもたちの現状を、日本の支援者の皆さまに少しでも知っていただけたらと思い、報告いたしました。避難民キャンプのすべての子どもたちが学校にもどり、校庭を元気に駆けまわるようになるまで、ここムタララでのテント生活は、まだもうしばらく続きそうです。 (報告者 ユニセフ モザンビーク・ムタララ事務所 根本[][おう]