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財団法人日本ユニセフ協会



パキスタン緊急募金 第64報
多難な前途

【2011年11月21日 パキスタン発】

© UNICEF Pakistan/2011/Page
シンド州のユニセフが支援している栄養支援センターで深刻な栄養不良の子どもをあやす女性。

パキスタン南部に暮らすモハメド・アリちゃんは、もちろんあの伝説のプロボクサーではありません。しかし、本当の‘ファイター’です。モハメドちゃんは、まだわずか2歳半。パキスタンのシンド州ジャムショロ郊外の小さな村に暮らしています。彼は、重度の急性栄養不良による合併症で生死の境をさまよった後、困難に打ち勝ち続けているのです。

9月初旬、モンスーンによる洪水被害でモハメドちゃんの家や住んでいた村は、壊滅的な被害を受けました。10人家族のモハメドちゃん一家は、わずかな所持品さえも置き去りにせざるを得ませんでした。彼らは自宅を離れ、数キロ先の高台に暮らす親戚のところへ避難しました。田畑も失い、清潔な飲料水もほとんどない中、8人きょうだいの末っ子のモハメドちゃんは、急激に体重が減少。すぐにジャムショロの病院へ送られ、深刻な栄養不良と診断されました。命を脅かす下痢性疾患に陥る可能性もあったのです。

「モハメドちゃんがここに運ばれて来たとき、体重はわずか7キロしかありませんでした。あんなに厳しい状態では、助かるかどうかもわかりませんでした。」ジャムショロ病院のズリファル医師はこう話します。

モハメドちゃん一家が体験したような経験は、シンド州では珍しいことではありません。シンド州を襲ったこのモンスーンによる洪水被害は、既に重篤な栄養不良状態に陥っていた540万人の人々(その半数以上が子どもたちで占められています)が置かれている状況を更に複雑なものにしてしまいました。洪水により、家は破壊され、商売はできず、家畜は死に、作物は枯れ、食糧の確保もままならない状況です。少なくとも220万エーカーの農地が浸水。16の地域の作物の75パーセント近くが壊滅状態、もしくは大きな被害を受け、家畜の3分の1以上が洪水で失われたか売り払われてしまいました。今、人々に仕事はなく、農家も、自分たちの子どもたちにでさえ十分に食べさせられなかった土地さえ失ってしまったのです。

こうした厳しい状況に加え、この地域に蔓延している貧困や、一家に10人以上の子どもがいることも珍しくないこの地域の特性も、問題を複雑にしています。食糧がほとんどない状態に陥っているのです。さらに、シンド州の多くの人々は、2010年にこの地を襲った大洪水の影響で、既に慢性の栄養不良状態にありました。そうした状況が回復しないまま、今回の災害にみまわれたこの地域の人々は、つまり、2重の災難に見舞われているのです。

危機的な栄養状態

最近の食糧危機に襲われる以前に実施された本年度の栄養に関する全国調査によると、平均で、パキスタンの家庭の58パーセントが食糧不足で、十分な食糧を確保できていないことが分かりました。全国の子どもたちの約3分の1は低体重で、農村部の子どもたちは、さらに深刻な状況です。急性栄養不良率(15.1パーセント)は、世界保健機関(WHO)が、人道支援が必要な危険域として定める15パーセントに達し、深刻な急性栄養不良率(5.8パーセント)も、非常に高くなっています。

ユニセフは、パートナー団体と共に、地元政府と密接に連携しながら、シンド州の被災地全域に治療用食品や医薬品を含む栄養支援物資を、医療施設や食糧配給センターに提供しています。またユニセフは、新たに外来治療給食プログラムの支援を開始しました。このプログラムは、深刻な洪水被害を受けた地域の栄養支援の一環として実施。2010年度の洪水被害対策を通じてシンド州全域に設置された454箇所の施設に加えて、新たに設置される59箇所の施設を通じて提供されます。こうした支援を通じ、重・中度の栄養不良状態にある3万人以上の子どもたちが栄養支援を受けています。

また、栄養不良状態の妊婦と授乳期の女性1万800人以上が、世界食糧計画(WFP)と共に実施している栄養補助支援を受けています。数十万人の女性が、幼児と幼い子どもたちの食事習慣に関する学習会に参加し、完全母乳育児や産後すぐの母乳育児の開始や年齢にふさわしい補助食の重要性等を学んでいます。

多難な前途
© UNICEF Pakistan/2011/Page
シンド州のユニセフが支援している栄養支援センターで、息子のモハメド・アリちゃんを抱く母親のヌール・ボノさん。

ユニセフが提供している入院患者向けの治療用食事支援を受けた1週間後、モハメド・アリちゃんの容態は大きく改善し、体重も増え、健康な状態に戻りつつあります。現在、週一回の検診と治療用の食事を提供する外来治療給食プログラムに移行する準備が進められています。

現在、モハメドちゃんと母親のヌールさんは、以前暮らしていた村に戻り、生活を立て直そうと奮闘しています。モハメドちゃんは力強く回復していますが、モハメドちゃんの家族は、困難に直面し続けています。モハメドちゃんのきょうだい7人は、栄養不良と、皮膚病や呼吸器感染症といった病気に苦しんでいるのです。また、近くの川から引いた汚染された水を生活用水として使用せざるを得ない状況です。

しかしながら、ヌールさんは、彼女達の人生は良くなっていくと強く信じています。

「息子のモハメドが危険な状態を脱しましたから、とにかく嬉しいんです。」「今は、他の何を置いても、モハメドには教育を受けてほしいと思っています。いつか、こうした状況から子どもたちを助けられるような医者にもなれると思います。」

2011年度の国連のパキスタン洪水緊急対応計画の一環として、ユニセフは、今後6ヵ月間、栄養支援をはじめとする子どもたちに緊急に必要な支援を届ける役割を担っています。そして、それらの活動のために、総額5030万米ドルの支援を必要としていますが、現在までに、例えば栄養支援で必要な金額(1070万米ドル)については、そのわずか25パーセント(270万米ドル)しか集まっていません。栄養不良や危険な状態にある子どもたちに総合的な栄養支援を届けるためには、追加の資金援助が緊急に必要です。