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日本ユニセフ協会

報告会レポート

オンライン開催報告
TICAD8公式サイドイベント
危機下にあるアフリカの子どもたちのために
日本とユニセフのパートナーシップ

2022年8月30日東京

2022年8月8日(月)、ユニセフ報告会『危機下にあるアフリカの子どもたちのために-日本とユニセフのパートナーシップ』をオンラインで開催しました。

アフリカの開発をテーマに、日本政府が主導し、様々な国際機関や企業、NGO等が集う「第8回アフリカ開発会議」が、8月27日よりチュニジアで開催されます。この公式サイドイベントとして、アフリカで活動するユニセフの日本人職員が、アフリカの子どもたちを取り巻く様々な問題と、日本のみなさまとのパートナーシップに支えられているユニセフの活動についてご報告しました。 

 

開会ご挨拶 (全文)

ロベルト・べネス UNICEF東京事務所代表 

ロベルト・べネス(UNICEF東京事務所代表)

©日本ユニセフ協会/2022
ロベルト・べネス(UNICEF東京事務所代表)

皆さんこんにちは。TICAD8公式サイドイベント「危機下にあるアフリカの子どもたちのために ~日本とユニセフのパートナーシップ」にようこそ。UNICEF東京事務所代表のロベルト・べネスです。

本イベントでは、世界のすべての子どもたち、特にアフリカの子どもたちにとって、日本の皆さまのご支援がいかに重要か、そして、皆さまのご支援によってユニセフが子どもたちの生活をどのようにより良いものにしているのかをご紹介します。

日本政府や国民の皆さまは、世界中のユニセフの活動を支える大切なサポーターです。日本の皆さまの寛大なご支援と子どもたちのためのグローバルなリーダーシップに感謝いたします。

本日はユニセフを代表してアフリカで活動する日本人職員が登壇し、気候変動や新型コロナウイルス感染症の影響、食料価格の高騰、ウクライナにおける紛争の影響等アフリカの子どもたちが直面する状況を皆さまにお伝えできればと思っております。現場で活動する日本人職員の報告を聞くことで、アフリカの多くの地域で子どもたちに影響を及ぼす、複合的な課題をより理解して頂けると思います。

TICADは冷戦後の1993年、日本政府によって初開催されました。「どうしたら世界がアフリカに目を向けることができるのだろうか」という問いを投げかけ、アフリカの発展を支援する方法をともに考えるため、数年ごとに開催されています。9,000キロ以上も離れている日本にとって、なぜアフリカは重要なのでしょうか。この問いは非常に重要です。なぜ、日本は政策の中心にアフリカを据えたのでしょうか。

その重要性は、データが物語っています。2055年には、アフリカには10億人の子どもが暮らし、今世紀の終わり頃には、世界の子ども人口の約半分をアフリカの子どもが占めると推定されています。アフリカはまさに、世界の未来を握っているのです。近いうちに労働人口となるアフリカの子どもたちに投資することは、何億人もを極度の貧困から救い出し、平和と安定をもたらすでしょう。

子どもたちたちのための成果をもたらすため、ユニセフはパートナーシップの力が重要だと考えています。そして多国間における協力で、日本は重要な役割を担っています。ユニセフはこれまで、日本の人々や政府との力強い協力関係を築き上げてきました。私たちは、アフリカの子どもたちが人生でより良い機会を手にすることができるよう、力を合わせることができます。本日は、日本の支援を通じたユニセフの活動の成果や子どもたちのための日本のリーダーシップについてご紹介します。

このイベントが、皆さまにとって、アフリカの子どもたちに対する新しい知見を得る場となれば嬉しく思います。そして、私たちが力を合わせて、どんな行動をとっていけるのかをともに考えるきっかけになることを祈っています。

本日はご参加頂き、ありがとうございます。私自身も、イベントを通じて皆さんと一緒に学んでいけたらと思います。ユニセフや世界の子どもたちのよき理解者でいてくださる日本の皆さんに心より感謝申し上げます。

 <日本と世界の子どもの栄養課題>

 暴力・搾取・有害な伝統や慣習からの子どもの保護

ユニセフ東部・南部アフリカ地域事務所  子どもの保護専門官 鈴木 惠理

鈴木 惠理(ユニセフ東部・南部アフリカ地域事務所 子どもの保護専門官)

©日本ユニセフ協会/2022
鈴木 惠理(ユニセフ東部・南部アフリカ地域事務所 子どもの保護専門官)

「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ東部や周辺地域で、過去40年間で最悪の干ばつが起きており、少なくとも1,000万人の子どもたちが影響を受けています。栄養の状態が悪いなかで長い距離を歩き、汲んだ汚い水を飲むことで、下痢などの普段なら予防可能な病気によって子どもたちが命を奪われてしまっています。また、2,000万人が消耗症(急性あるいは重度の栄養不足によって死のリスクに直面している状態)の治療を必要としています。ユニセフの「モバイルクリニック」という支援では、医師と栄養専門家のチームを村に派遣し、子どもたちの栄養状態を確認したり、緊急の栄養治療食を配布したりしています。

気候変動や紛争などの社会の大きな動きによって、栄養や保健の危機だけではなく、学校や家庭の「子どもを守る」機能が働かなくなってしまいます。また、水を汲みに行く距離が長くなることで、移動中に性暴力に遭う危険性も高まります。

今回の干ばつでもっとも憂慮している問題は、18歳未満の子どもの結婚(児童婚)や、結婚前の女性器切除(FGM)の数が増えていることです。なぜ児童婚が増えているのかというと、生活することが経済的に厳しい家庭にとっては、娘を嫁がせることで、相手側から結婚の持参金を得られたり、養う家族の人数が減ることで食事等の負担を減らせるからです。また、娘を少しでも裕福な家に早く嫁がせてあげたいという親の愛情もあります。

エチオピアの3つの地域(ソマリ州、オロミア州、南部諸民族州(SNNP))では、2021年から2022年の1年間で、子どもの結婚の数が2倍以上に増えました(ユニセフの支援で設置した現地政府の調査システムより)。エチオピアでは「ガールズクラブ」といって、学校で女の子たちがクラブ活動をする中で早婚がどんな悪影響を及ぼすのか(貧困の連鎖、暴力に遭う可能性や妊娠・出産のリスクが高まるなど)について学ぶプロジェクトがユニセフによって行われています。また、ユニセフは、コミュニティのリーダーがFGMをもう二度と行わないことを宣言するイベントも行っています。

コロナ流行や干ばつなどを受けて最近非常に強く感じるのは、世界は繋がっているということです。今回の干ばつでは、遠いウクライナで起きている紛争が非常に大きな影響を与えています。気候変動が誘発している干ばつとも言われていますが、干ばつが起きている地域の二酸化炭素の排出量はとても少なく、ソマリアは世界全体の0.01%しか排出していません。その中で、気候変動の影響をものすごく受けてしまうことは不公平なことであると言えます。このように、私たちの生活が色々な所に影響を及ぼし、私たちも色々な所で起きていることの影響を受けていることを強く実感しています。

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安全な水と衛生施設の確保

ユニセフ・ケニア事務所 水と衛生担当官 小杉 穂高

小杉 穂高(ユニセフ・ケニア事務所 水と衛生担当官)

©日本ユニセフ協会/2022
小杉 穂高(ユニセフ・ケニア事務所 水と衛生担当官)

世界の人口の4分の1にあたる約20億人が安全に管理された飲み水を利用できていません。そして、世界の人口の半分近くの人々が衛生的なトイレを利用できない状態です。このように、途上国には安全な水・衛生設備がないために予防可能な病気によって命を落とす子どもたちも少なくありません。持続可能な開発目標(SDGs)では2030年までに世界で達成すべき目標のひとつとして、「すべての人が安全な飲み水・衛生施設にアクセスすること」を目標として掲げています。

ユニセフは、世界各国で、清潔な水が届けられるように井戸などの給水設備を作ったり、衛生的な生活が送れるようにトイレを設置したり、学校教育や保健所を通して石けんを使った手洗いを推奨するなどの活動を進めています。

遊牧や農耕によって生計を立てている住民の多いケニア北部の地域では、今回の干ばつによって多くの人々が生活の基盤を失っています。また、子どもの教育機会が失われたり、感染症や児童婚のリスクも増加しています。そのうえウクライナ危機の影響も深刻で、小麦粉などの食料価格の高騰が特に貧困層の生活を苦しめています。

日本政府や日本のみなさまからの支援によって、ユニセフ様々な事業を行っていますが、例えば2020年から2021年にかけて、計127の小学校に給水施設・トイレ・手洗い場などの施設を設置しました。また、衛生啓発によって、3,577のコミュニティで住民みずからトイレを建設し、野外排泄が根絶されました。日本企業やNGOとの連携も行っています。企業とのパートナーシップにより、コミュニティでの衛生的なトイレや手洗いに関する啓発や衛生分野の人材育成のほか、これまでにケニア国内で約270万人に安全で清潔なトイレを届けることができました。

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アフリカでの女子教育

ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所 教育専門官 清水 育子

清水 育子(ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所 教育専門官)

©日本ユニセフ協会/2022
清水 育子(ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所 教育専門官)

アフリカでは、学校を建てて教育の質を改善するだけでは、女の子が継続して学校に通うことはできません。また、女の子が教育を受けられないことが、児童婚など他の分野の課題の改善も阻害します。保健と栄養、教育、子どもの保護、水衛生、社会保護、の5つのユニセフの目標課題すべてにおいて、最大の原因は貧困であることから、貧困層の子どもたちをサポートし、彼らの人権を守っています。

2021年4月以降、サヘル地域での人道的ニーズは670万人から1,000万人の子どもを含む、1,470万人へと急増しています。さらに、この地域は慢性的な飢餓に悩まされ続けていますが、ウクライナ危機を受けて問題は顕著化しています。

中央サヘルでは、100万人近くの子どもたちが深刻な急性栄養不良に苦しむと予測されています。この問題を加速化させているのが、ウクライナ危機による食料価格の高騰です。ベナン、セネガル、ガンビアなどの国々は主食である小麦の輸入割合の半分以上をロシアとウクライナに依存していました。

ウクライナ危機は栄養分野だけでなく、教育にも多大な打撃を与えています。もともと西部・中部アフリカ地域は教育指標でもっとも遅れをとっており、女子教育に注目すると、小学校レベルでは女の子の4人に1人、中学校レベルでは3人に1人が学校に通っていません。そして、「学習の貧困」といって、10歳の子どもの8割以上が基本的な文章の読解や計算ができないという現実があります。つまり、学校に通う子どもたちの多くが実際に学んでいない現状です。

このような中で、新型コロナやウクライナ危機による物価上昇を受け、多くの家庭が「学校か、食事か」という選択肢を迫られています。

このような状況下、日本は最も信頼できる継続的なパートナーとして、大変ありがたく受け止められています。例えばブルキナファソでユニセフが実施しているスクール・フォー・アフリカ(School for Africa)プログラムでは、日本の皆様からのご支援で、2014年から2020年までに2008校の小学校で「子どもに優しい学校モデル」が導入され、46万人以上の子どもたちがより良い環境で学習ができるようになりました。さらに今年からユニセフとJICAが協力して学校建設を行っています。

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<質疑応答> 

 〇 児童婚の数はどうやって調査・把握しているのでしょうか。

鈴木さん: 普段は世帯調査の手法を使って数年に1度把握していました。しかし、今回は子どもの結婚をなくすためのユニセフのプログラムが地域の自治体・政府と一緒に調査のシステムをたてました。それのおかげで、リアルタイムでデータをとれるようになりました。これはユニセフが政府や自治体をサポートしているものです。

 

〇 気候変動の影響を受けている地域と武装勢力による紛争が起こっている地域は重なっているように見えます。干ばつによって紛争が起きているのか、紛争があるから干ばつが進んでしまうのか、どちらが先という問題なのでしょうか。そもそも貧困が原因なのでしょうか。また、解決のためには何が必要なのでしょうか。

清水さん: 非常に複雑な問題です。すべての問題が悪循環に陥っているので、何が最初に起こったか明確にすることは難しいと思います。紛争の大きな問題は自然資源をめぐる対立です。特に干ばつになって土地の争いなどの対立が激化しています。革新的な魔法のような解決策はないと思いますが、やはり基本的には、教育など人的投資を通じた長期的な解決策を探すことが一番重要です。教育に関しても、隔たりのない知識、普遍的な価値をどれだけ早く子どもたちに伝えるかが大切です。

 

〇 トイレの建設のあと、しばらくすると使われなくなってしまうという事例を聞いたことがありますが、野外排泄の断絶を継続するためにどのようなことを心掛けていますか。

小杉さん: ユニセフがとっているアプローチとして、ユニセフがトイレを作るのではなくて、住民の間でトイレの重要性を理解してもらうところから始めます。なので、住民の方々にトイレを継続して利用してもらうことが可能になります。またユニセフは、コミュニティヘルスボランティアとして活動する地域住民の方々に、衛生啓発活動のトレーニングを行っています。ボランティアがコミュニティを巡回しながら、トイレの利用状況を確認し、トイレの必要性を継続して伝えていくことで、野外排泄根絶の維持に貢献しています。

 

(右上から時計回りに)戸田淳子(UNICEF東京事務所TICADコンサルタント)、小杉 穂高(ユニセフ・ケニア事務所 水と衛生担当官)、清水 育子(ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所 教育専門官)、鈴木 惠理(ユニセフ東部・南部アフリカ地域事務所 子どもの保護専門官)

©日本ユニセフ協会/2022
(右上から時計回りに)戸田淳子(UNICEF東京事務所TICADコンサルタント)、小杉 穂高(ユニセフ・ケニア事務所 水と衛生担当官)、清水 育子(ユニセフ西部・中部アフリカ地域事務所 教育専門官)、鈴木 惠理(ユニセフ東部・南部アフリカ地域事務所 子どもの保護専門官)