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日本ユニセフ協会
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日本ユニセフ協会からのお知らせ

広告とメディア
子どもをめぐるビジネスの責任と可能性
第4回CSRセミナー実施

【2016年1月  東京発】

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© 日本ユニセフ協会/2015

当協会は、2015 年、日本弁護士連合会との共催で、『子どもの権利とビジネス原則』をテーマとしたセミナーシリーズ「ビジネスで守る子どもの権利」を開催しました。11月26日(木)の第4回セミナーでは、広告やメディア、情報通信技術(ICT)関連企業などの子どもに対する責任や新たな可能性等について議論しました。

広告・メディアによる子どもの権利侵害の可能性

EY Japanの牛島慶一氏は、対象やコンテンツとして「子ども」を扱う広告やメディアが、子どもが本来持つ様々な権利-心身の健康の促進を目的とした情報の利用、搾取からの保護、教育、年齢に適した遊び等-を侵害する可能性があると述べ、ネットいじめ、援助交際、児童虐待、ネット詐欺等を例に挙げました。

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© 日本ユニセフ協会/2015

企業がルール作りや先駆的な取り組みにより世界をリードしていくことの重要性を強調するEY Japan牛島氏

実際に権利侵害につながった事例として、ベトナムで募金を集めるための報道から子どもが誘拐されてしまった事例を挙げ、(実名を出さなくても)身元が明らかになるような報道は子どもを危険にさらしかねないと指摘。また、スイスの企業がイメージバンクサイト上の子どもの写真を無断でダウン症検査キットの広告に使用した事例(母親の要請により削除)では、SNSの普及等から写真を使うことに対する心理的障壁が低くなる一方で、影響は非常に大きいため、写真を使う側も提供する側も十分に注意する必要があると述べました。

さらに、川崎市の中一男子生徒殺害事件に関しネット上に加害者情報が出回ったことを例に、今は「誰もが報道に携われる」時代であるため、“プロではない人々”のリテラシーの養成が社会的課題である、としました。また、児童ポルノと少年犯罪の実名報道についての各国制度を比較し、児童ポルノについては単純所持が禁止されたもののまだ課題が残ることを指摘。実名報道については、各国がそれぞれの価値観に基づき、相反する「知る権利」と「子どもの権利・プライバシーへの権利」の間のどこかで線を引いていると説明し、日本の対応が問われている、と述べました。

企業にできること

牛島氏は、企業ができることとして、子どもの搾取や利己的利用につながりかねない“親の抱える問題”(貧困、ひとり親家庭の困難等)まで遡って考えること、「子どもの権利とビジネス原則」や「インターネット上の子どもの保護に関する企業のためのガイドライン」等を参考に、子どもの権利に関する方針を策定しバリューチェーン全体で共有すること、ステークホルダーとしての子どもや子どもの声を代理する団体の声をきくこと、などを挙げました。最後に、技術の進歩に伴い利便性、快適性が向上する中で、企業がそれらを追求しすぎると、規制が導入されかえって自らへの制約を招いてしまう(個人情報、タックスヘブン等を例に)と述べ、企業自らがルールを作っていくことの重要性を強調しました。

ケータイと子どもたちの安心安全

ITで子どもの悲しみをなくし、夢をかなえたい、と語るソフトバンク齊藤氏

© 日本ユニセフ協会/2015

ITで子どもの悲しみをなくし、夢をかなえたい、と語るソフトバンク齊藤氏

ソフトバンク(株)CSR室の齊藤剛氏は、携帯電話が子どもたちにリスクと恩恵を同時にもたらす中で、子どもから携帯を取り上げるのではなく、安心安全に携帯電話を使えるようにすることが事業者の責任である、と述べました。そして、有害サイトへのアクセスを年齢に応じて制限するフィルタリング、「正しい知識を身につける」ための学校、PTAや地域の協議会向け学習教材の配布、啓発教室、“ネットあんぜん検定”の実施等の取り組みを紹介し、地域、学校、親や非営利団体等の協力も不可欠であることにも言及しました。

ITで子どもの悲しみをなくし、夢をかなえる

齊藤氏は、以上は携帯電話サービスを提供する事業者としてあたりまえに行うべき「社会的責任」であるが、同社はそれに加えて「事業を通じた社会発展」にも取り組んでいると述べ、障がいのある子どもたちのために、特別支援学校などに携帯情報端末を無償貸与して学習・生活を支援し、その活用事例を研究する “魔法のプロジェクト”について説明。参加した子どもの声を紹介しつつ、ITが持つ可能性でバリアフリーを進め、子どもたちの悲しみをなくし夢を叶えていきたい、と述べました。また、東北の子どもをユーザーとともに継続的に支援する募金“チャリティホワイト”や、携帯電話を活用した様々な社会課題解決のための募金プラットフォーム“かざして募金”を紹介し、これらが、ユーザー数、決済の簡易性等を要因に、継続的な募金や新規寄付者の開拓につながっていると述べました。

子どもの権利を推進する広告 -「行動する」企業・商品をデザイン

最も大事なのは子どものために企業・商品が生活者と「ともに」「行動する」こと、と述べる電通・並河氏

© 日本ユニセフ協会/2015

最も大事なのは子どものために企業・商品が生活者と「ともに」「行動する」こと、と述べる電通・並河氏

電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表の並河進氏は、子どもの権利を推進するために広告会社にできることとして、3つのかたちを提示しました。1つ目は、「企業(クライアント)を出発点としたとき」。従来の広告が、商品が「よく見える」ように伝えるものであったのに対し、並河氏は10年ほど前から、企業や商品が「行動する」ことでマーケティング、ブランディングにつなげていく広告に関わっています。その例として、“nepia 千のトイレプロジェクト”(トイレットペーパーの売上の一部でユニセフを通じて東ティモールのトイレ作りを支援)、Yahoo!検索“Search for 3.11”(検索数とリンクさせた東北の子どもたち支援)、イケアSCHOOL FOR SCHOOL(中高生が商品を使って世界の子どもの課題の啓発ポスターを作成)、トヨタエスティマ「ドリームリレー・ムービー」(小学生が作った脚本をプロが映像化)を紹介し、コーズリレーテッドマーケティング(CRM)とよばれる取り組みは、売り上げの一部を寄付するということにとどまらず、より広く、「コーズ=大義」に共感して商品を選んでもらうマーケティングである、と説明しました。

また、広告に関する考え方も紹介。かつてのマーケティングでは人を「消費する存在」ととらえていたのに対し、最近では「全人格的存在」としてとらえられている(フィリップ・コトラー「マーケティング3.0」)と述べ、自身の提唱する行動モデルMASUG(Meet 消費者が企業に出会う→Act 行動をともにする→Share 自分ごととしてシェアする→Unite 絆を確認→Grow ともに育つ)を紹介し、最も大事なのは、子どものために企業・商品が生活者と「ともに」「行動する」ことである、と強調しました。

広告と社会課題の関係

子どもの権利を推進する広告の2つ目のかたちは、「NPOを出発点にしたとき」。NPOが行う子どもの権利に関する啓発活動を、広告の技術でサポートする取り組みとして、手洗いの大切さを啓発する「世界手洗いダンス」などを紹介しました。3つ目は、「社会課題を出発点にしたとき」。広告会社が主体となる新しい取り組みとして、インドで日本企業の製品とともに衛生・健康に関する啓発活動を行う移動映画館の取り組みを紹介し、広告(会社)には様々な役割、可能性があることを示しました。

広告の役割について、従来は「お金」と「モノ・サービス」との交換を促すものだったが、それを最優先するがためにひずみ等も生まれたため、これからは、「子どもの権利を守る」など「社会をよりよくする」ために、お金や知恵、時間、アイデア、モノ・サービスが集まることを促すものにしていきたい、と述べました。また、それぞれの社会課題が、一部の人が気づいている状態(児童労働など、子どもの課題の一部はまだこの段階)から世の中に広まり合意形成(例えばエコについてはもうこの段階)に至る過程で、後の段階に進むほど企業のマーケティングと結びつけやすくなるが、本当は早い段階から取り組むからこその意義もあるはず、と提言しました。

社会貢献活動をいろいろな“文脈”でとらえる

広告やメディアが子どもの権利を尊重、推進できる可能性について、活発な議論が行われました。

© 日本ユニセフ協会/2015

広告やメディアが子どもの権利を尊重、推進できる可能性について、活発な議論が行われました。

後半のパネルディスカッション(司会:日弁連企業の社会的責任と内部統制に関するプロジェクトチーム副座長 高橋 大祐 弁護士)の中で、このような広告に取り組んだきっかけを問われ、子ども向け商品のCMを作っていた時に、CMを作るだけではない、本当に子どものためになる、もっと違う活動があるのではないか、と模索を始めた、と答えた並河氏。CSRを意識した広告は効果がすぐに出にくいのでは、との質問には、瞬間の効果としては受け取る(参加する)方々の気づきにつながることをめざしていて、企業側とは、長期的・世界的視野で「企業としてやるべきこと」という視点と結果を出すことの両方の話をする、と説明しました。

各登壇者から高く評価された「魔法のプロジェクト」について齊藤氏は、東大の中邑 賢龍(なかむらけんりゅう)教授の「世の中にすでにある技術でハンディを埋める」という考え方と同社の思いが合致して生まれた、と説明。このような社会貢献活動は企業利益への貢献が見えにくく広告費が出にくいという課題について、並河氏からは、このようなインクルーシブ(誰もが使える)デザインの取り組みを、社会貢献活動としてだけではなく、商品開発や社員教育など複数の“文脈”でとらえることで、企業がその活動に取り組む意義も大きくなり、また社会からの共感が得られる、と提案しました。

民間が動いて世界をつくる

広告・マーケティングを通じた子どもへの悪影響が日本に特有のものなのか問われた牛島氏は、欧米との価値観の違いや、社会として子どもを育てようという環境の違いを指摘しました。また、「人権」を狭くとらえがちな日本において、企業がガイドライン等を作成して日常的に“しくみとして”人権に配慮することは重要だが、外からのコピーではなく、策定のプロセスに関係者を巻き込み内容に“魂を込めて”いくことが何より重要である、と強調しました。並河氏は、広告づくりに関わる人は、商品の「いいところ」を言うことを得意としているが、これからは、必要があればクライアントに対して、商品の「悪いところ」もきちんと指摘していくべきなのではないか、それでこそクライアントと本当にパートナーになれるのではないか、と述べました。

最後に牛島氏は、“トップランナー”である両社が作るであろうスタンダードや価値観を、社会が受け入れマーケットを作っていくこと、その過程で人々を巻き込んでいくことへの期待を示し、「民間が動いて世界をつくっていくこと」の重要性を強調しました。

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