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日本ユニセフ協会

お知らせ

ユニセフ「日本型CFCI実践自治体」紹介
Vol.05 宮城県富谷市
~子どもにやさしいまちは誰にでもやさしいまち、
そして「住みたくなるまち日本一」へ~

2022年5月9日発

5回に渡り、自治体のご担当者へインタビュー形式でユニセフ「日本型CFCI実践自治体」をご紹介しています。
最終回は宮城県富谷市です。富谷市でCFCIを担当されている、保健福祉部子育て支援課の浅場悟さん、猪股純子さん、二階堂愛美さん、高橋望さんにお話をうかがいました。

富谷市にとっての「子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)」とは

Q. CFCIに関わる、富谷ならではの取り組みを教えてください。

猪股さん:富谷市は、「住みたくなるまち日本一」を目指しております。そして昔から子どもをまちの宝として育んできた土壌があります。市長室の一番目立つところに、「富谷には大きな山もない、大きな川にも恵まれていない、海にも接していない、豊かにあるのは未来を担う子ども達」と書かれた額が飾られています。子どもたちが生まれ育ったまちに愛着や誇りをもっていられる。そこは大事にしているところです。そこの部分などが、CFCIの特徴と共通していた。つまり、子どもに愛着や誇りをもってもらうまち、と口で言っただけではそうなることは難しい、どんなことをすればそうなるのかという視点がCFCIでつながったのかなと思います。

市長が座長となり子どもから直接意見を聴く「とみやわくわく子どもミーテイング」の中では、小学校5,6年生から「富谷市に住んでよかった」「学びやすい」「住んでいて気持ちがいい」という言葉がたくさん出てきます。まちの将来について、「まちがどうなったらいいですか?」という質問にも、テーマに沿って真剣に考えてくれます。安心して意見が表明できるというところからも、いいまちだと思ってくれるといいなと思います。

わくわく子どもミーティング 写真提供:富谷市

Q. CFCIは富谷市の市政運営に、どのような影響がありますか

猪股さん:CFCIの目的は、子どもの権利条約を具現化することにありますので、当初は、子ども関連の施策としてとらえていました。しかし加えて、子どもを持続可能なまちづくりの当事者としてとらえるということもあり、これまでの行政運営にはなかった視点を取り入れられたと思います。事業としては全庁に関わってくるので長期的な意識の醸成が必要ですが、子どもにやさしいまちづくりは、誰にでもやさしいまちづくりにつながるということを伝えてきましたので、そういう意識は少しずつ芽生えてきていると思います。子どもが多い富谷市ですが、最近は、子どもの数も微減になっており、いじめや不登校、貧困問題などの子ども関連の課題にも取り組む必要がある中で、CFCIを通してそれらを俯瞰してとらえることができるのはとても良いと思っています。

Q. CFCIは平時と緊急時で違いがありますか?

猪股さん:新型コロナウイルスの感染拡大によって、交流や人との関わりがある事業は中止や延期にせざるを得なくなりました。特に、調理であったり飲食を伴うような交流事業は少なくなっています。学校も一時休校となり、スポーツ少年団や部活動の実施も難しく、うつうつとしていた時期がありました。本来であればそれぞれの年齢・時期で経験して身に着けてほしい様々な機会が失われつつあります。だからと言って災害時と平時で、根本的な部分の違いはないと思います。大変な時期にこそ子どもの権利についてとか、基になることを考えるのにはいい機会でありますが、いつでも考えていなくてはいけないことなんじゃないかなと思っています。

CFCIの難しさと成果

Q. CFCIは子どもの権利を地方自治体が訴求する取り組みです。この点に関し難しさはないですか?

子育て支援課 浅場悟さん(右)、とみや子育て支援センター 猪股純子さん(左) 写真提供:富谷市

浅場さん:私は子育て支援課に配属になって一年目ですが、初めに「子どもにやさしいまちづくり」と聞いたときは、「どんなことするの?」というのが率直なところでした。子どもの権利ということを考えたことは、これまであまりなかったように思います。ですが約一年間関わってきて、CFCIというのは、様々な事業を進める中で「この事業で子どもについて取り入れることはないの?」という、子どもについての意識付けを職員に浸透させていく事業なのかなと今は感じています。そうして、常に見直しながら事業を進めていくという取り組みなのだという風にとらえています。

猪股さん:CFCIの目的は子どもの権利条約の具現化、という部分を理解してもらう難しさがあります。また法的な位置づけがあるわけではないので、どこが担当するのかという迷いもあります。さらに市には子育て支援課、子育て支援センターがあり、子どもの施策や教育関係の事業もたくさんある中で、CFCIに取り組むことは、事務的な業務が増えたり時にはプラスアルファの業務になったりすることも正直なところです。ただ、子どもの権利条約に基づいているということを押さえた事業なので、時にはヒントになったり、新たな視点が生まれていることは実感しています。

Q. CFCIでは、分野横断的に取り組んでほしいと言っていますが、異なる部署との連携に課題を感じている自治体もあるようです。この点で苦労されていることはないですか?

猪股さん:富谷市は、この事業の開始当初から、推進庁内連携会議を行いながら進めています。チェックリストに基づき評価をお願いしていますが、その対象は23課(局・室)になります。これ以上増えると作業が大変になるなと思いますが、自治体の規模としては浸透しやすいですし、多岐にわたって話し合いができるのかなと思います。

また、子どもということで教育現場にCFCIが浸透しているかという点は、現在のところチェックリストの評価の内容でうかがう範囲なので、まだ十分ではなく、これからの課題であると思います。ただ、わくわく子どもミーティングに参加する子どもを見ていると、まちのことも自分のことも友だちのことも、子どもたちの世界の中でちゃんと考えているんだなと感じています。色んなところで、子どもにとって一番いいことが浸透していけばいいと思います。

浅場さん:分野横断といえば、会計課、上下水道課、議会事務局というようなところは、子どもにやさしいまちづくりについてと言っても、あまり関係ないなという感じでした。でもそうではなくて、まずそれぞれの事業の実施にあたって、子どもを思い描いてくださいと話しています。事業を色々な切り口で見た時に必ず子どもに関係する部分があるはずなので、子どもに対してわかりやすいか、使いやすいか等に注目して仕事を進めてもらえばいいのかなと思っています。今は大きい事業はありませんが、何年も何十年も続けていって考え方が浸透していけば、CFCIを基礎とした部署横断的な大きな事業を立ち上げていけるのではないかとも思っています。

Q. CFCIでは、他の自治体や団体と取り組む事業はありますか?

猪股さん:普段は他の自治体と一緒に事業を実施したり、連携したりする機会は少なく、CFCIについても同様です。ただ今回、CFCIの検証作業に取り組む北海道から奈良県まで普段は連絡を取り合わない自治体の方に相談したり、お話ししたりできたことは良かったことだと思います。他の自治体の先進的な取り組みを知ることもできました。

また、例えば子どもオンブズマンやコミッショナーという部分は、富谷の弱いところなのですが、そういう部分も今後、子どもに関わる団体とも関係するなどして検討していければと思っています。子どもの居場所づくり、子ども食堂などもそうですが、まちの中で、CFCIの理念に基づいて、思いをもって賛同してくれる方々と連携しながら進められたらいいと思います。

Q. CFCIに取り組んできて成果はありますか?

猪股さん:富谷市では、2017年に企画政策課がCFCIについて最初に話を聞いてきたのですが、はじめはどんなことだかがよくわからないという状況でした。子どもの権利ということでとっつきにくさも感じていました。取り組み始めてからの一つひとつを成果としてとらえるとすれば、この事業は分野横断的にやっていくものだということで、まず推進庁内連携会議を立ち上げ、2018年に「富谷市子どもにやさしいまちづくり宣言」を行いました。翌年2019年には、「子どもの権利とスポーツの原則」に賛同したスポーツ少年団の監督・コーチが、子どものスポーツを権利のところから意識し、取り組みを進めていきました。さらに「とみやわくわく子どもミーティング」を開催し、子どもの声を聴くことを大切にしました。そういうことが少しずつ浸透して、3年目の2020年には、富谷市総合計画の後期基本計画(2021~2025年)にCFCIの視点を加えて策定することになりました。この総合計画審議会には、中学生がオブザーバーで参加しております。また、子どもの尊厳を重視した取り組みの一つとして、妊娠がわかった母親(父親)に母子手帳を交付する際に、子どもの権利条約と富谷市子どもにやさしいまちづくり宣言文を記したカードの配布を始めました。そして、2021年度は実践自治体として承認されました。2022年からは、「富谷市子どもにやさしいまちづくり推進庁内連携会議」の要綱を改正して、会議の内容を全課に伝達できるよう、構成委員を各部の部長クラスにするなどの動きが生まれています。このように、階段を半段づつ上るように、少しずつ浸透するような工夫の中で変化が生まれてきていると思っています。

母子手帳と一緒に渡す「子どもにやさしいまちづくり宣言カード」。母子手帳に挟んでずっと持っていてもらえるように、母子手帳と同じサイズにしている。  写真提供:富谷市

Q.  CFCIを進めてきて、子育て支援センターの現場にいらっしゃる中でお感じになっていることを教えてください。

保健師 二階堂愛美さん(右)、臨床心理士 高橋望さん(左) 写真提供:富谷市

二階堂さん:保健師として、社会的なサポートが必要な方との関わりや、それ以前の予防的な関わりが主な仕事なので、普段いろんなお母さんと接する中で、根本的には子どもの権利を考えて仕事していたつもりでした。ただCFCIと関わることで、やはりこの仕事で求められていることは、子どもの権利の具現化なんだなということを、改めて実感しています。とても勉強になっています。個人的には、まだ自分の子どもが小さいので日々育てることで精一杯の中、CFCIとの関係が実感できていない部分もありますが、仕事でCFCIに関わりながら自分の子どもを見ていると、この子にはこの子の考え方があるんだと感じることがあります。

高橋さん:臨床心理士として普段、発達がゆっくりだったり、障がいがあったりその可能性があるお子さんや親御さんともお会いする機会が多くあります。うまく意見を出せない、伝える手段をもたないようなお子さんであっても、言葉が使えないから意見がないのではなく、どんなお子さんでも意見を伝える権利はあるのだと思います。ジェスチャーや泣き声などで発信しているものをおとながきちんと汲み取って、その子が歩んでいく道を見ていく必要があると思っています。これはこれまで漠然と思っていたところではあるのですが、CFCIに関わることによって形をもって見えてきたという実感があります。自分の子どもには、本人がやりたいもの、やりたくないもの等、意見を出しながら、自分でどうやって生きていくのかを選んでいける子になっていってほしいと、最近は思うようになりました。

今後の展望と取り組みを検討している自治体へのメッセージ

Q.  CFCIの今後に取り組みたい計画について、短期的なものと長期的なものを教えてください。

猪股さん:短期的な目標としていたものに、子どもにやさしいまちづくり事業評価報告書の子ども向け版を作成することがありました。「子どもにやさしい」まちづくり事業ですから、CFCIのこと、そしてその中でまちが行っている取り組みやその状況を、子どもが理解できることは必要だと思います。そして先日、令和2年度の子ども向け評価報告書(PDF.)が完成しました。小学生は生活科や社会科の中で、学年が進むにつれて、家庭や地域のことから身近な行政や日本の国、世界の中の日本などについて学習するとうかがったので、5,6年生には理解してもらえるようにはなっていると思います。

富谷市子どもにやさしいまちづくり事業評価~子ども向け版~(PDF.)

またCFCIは、土壌改良みたいなそういう地道な作業だと感じています。長期的にはこの取り組みが、いずれはまちや組織の文化になり、まちづくりに大きく関わって、富谷が掲げている日本一住みたくなるまちにつながるといいなと考えています。

Q.  これから取り組もうとする他の自治体に伝えたいことはありますか?

猪股さん:それぞれの自治体で状況も異なるので、取り組むべきと言うことはできませんが、CFCIに取り組むことで視点が新しくなると思います。子どもの権利を見つめ直すとか、子どもの視点で考えるというのは、自治体に子どもがいて、子どもが成長する場である以上必要なことで、大きな取り組みだと思います。また、ユニセフ日本型CFCIの取り組みは参加自治体の自立性が高く、自治体の自主性が重んじられているところも大きな特徴ですので、取り組みにくさは感じません。自治体向け実施マニュアルも作成されております。

子どもにやさしいというのは、全ての人にやさしいということ。すべての自治体で短期間にこれをやったからこうなるという、目に見えて事業と成果が直結するようなはっきりしたものがあるのかはわかりませんが、行政活動全般に「子どもにとって一番いいこと」という意識をもち、子どもの権利条約をより具現化することは、市民である子ども一人ひとりを「まちの宝」として大切にしていることなので、まず間違いではないのかなと思っています。


富谷市基本情報(令和4年3月現在)

人口:52,374人(うち、18歳未満10,222人)

世帯:20,007世帯

面積:49.18k㎡

 

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