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財団法人日本ユニセフ協会

ライブラリー プレスリリース

女性の権利の推進はイラク復興に不可欠
ユニセフ『世界子供白書』、子どもと国家に利する女性の完全平等を呼びかけ

【2006年12月11日 アンマン発】

「イラクの女性たちは、権利を守り推進するための措置を緊急に必要としている」 ユニセフ・イラク事務所は、女性の平等な権利こそがより強い社会をつくるのに不可欠だとした『世界子供白書』の発表を受け、12月11日(現地時間)このような声明を出した。

ユニセフ創立60周年記念日に発表された『世界子供白書2007』は、ジェンダーによる差別をなくし、女性のエンパワーメントを進めることが、世界中の女性の生活に大きな影響を与えるばかりでなく、子どもたちの生存と福祉の推進にもつながるという“二重の恩恵”を生み出すとしている。また、近年は女性について著しい進展が見られるものの、いまだに何百万人もの女の子や女性が差別と無力化、貧困の影響を受けているとも指摘している。

イラク社会は伝統的に女性を尊敬し、エンパワーメントを進めてきた。しかし、今日のイラクは女性と女の子にとって極めてきびしい時代である。家庭や学校、職場、政治の分野などで女性の権利が脅かされている。

「未来のイラクでは、女性は平等なパートナーとならねばならない。しかし権利を保護するための積極的な活動がなくては、彼女らの権利はどこかに消えてしまうくらい危うい」と、ユニセフ・イラク事務所代表ロジャー・ライト氏は指摘している。「今こそ、女性の平等な参加がイラクの復興に欠かせない」

ライト氏は、イラクに蔓延する暴力と不安定が女性の自由を抑圧し、一方で貧困もヘルスケアなどの基本的なサービスにアクセスできない原因となっていると述べた。もし女性が健康で、教育を受けることができ、意思決定に平等に参加できるとしたら、子どもたちは力強く育ち、地域社会も繁栄するだろうということを強調した。

ユニセフは今一度、イラクにおいて女性の地位の保護に尽力しようと呼びかけている。また、イラク女性と女の子たちが直面している深刻な5つの問題に取り組むことで、それをバックアップしていくことにしている。

  1. 世帯主が女性の家庭を対象としたライフ・ライン
    イラクの全世帯の約11%は女性が世帯主であり、その数は現在も続く暴力の結果、増加している。毎日数多くの女性が寡婦となり、多くの家庭が稼ぎ手をなくしていることが、地域の社会サービスを圧迫し始めている。女性が就職できることはまれで(世界食糧計画の2006年調査によると、16〜60才の女性の就業率はわずかに14%であり、それに対して男性は68%である)、仕事をさがすために家を離れることは、女性と子どもを危険に陥れる。追い詰められた多くの女性は慈善団体に身を寄せ、自分と子どもたちのめんどうをみてもらっている。
  2. 女の子の学習を促進する
    イラクは伝統的に、男女ともに教育熱心な国であった。しかし暴力の頻発と抑圧的な雰囲気のなかで、多くの女の子の通学が困難になっている。通学する女の子への脅しが増え、娘のために教育か安全かという選択を迫られる家庭が増えている。2003/4年の国勢調査では、60万人の子どもたちが学校に通っておらず、その74%が女の子であった。女の子の出席率は、イラク中央部のアンバール県、バグダード県、ディヤーラー県で急激に減少している。もっとも貧しい南部地方は、女性の教育率がイラクでもっとも低い。
  3. 母親の健康を維持する
    妊産婦の死亡率が過去15年間に急増している。1989年の出産時死亡率は出産10万件当たり117であったが、最近の調査では193〜290となっている(近隣のヨルダンの死亡率は41)。イラク人女性の多くが栄養状態が充分でなく医療支援がないままに妊娠するのは、貧困と地域の保健ネットワークの弱体化が原因である。
  4. 女の子を暴力から守る
    あまりにも多くのイラク人女性と女の子たちが、本来なら彼女らを守るはずの地域社会のなかで生活を脅かされている。イラクでは、いわゆる“名誉殺人”や“便宜的婚姻”(数日で解消できる短期の婚姻)がまだ行われており、ほとんどが刑罰の対象となっていない。早婚率も相対的に高い。ユニセフの協力で実施された2004年国勢調査では、15〜24才の既婚女性の60%が18才未満で結婚していた。またこれらの早婚の19%は、女の子が15才未満での結婚であった。
  5. 政府により多くの女性の声を
    イラク政府の女性代表の割合は、きわめて低い。新政府の大臣37人のうち、女性はわずかに4人である。またイラクの女性議員は全体の25%にすぎない。

「われわれの国と子どもたちの未来についての重要な決定に、女性たちも参加してもらわねばならない。それが、すべての市民が繁栄する公正な社会への唯一の道である」と、イラクの女性問題省大臣ファティン・アブドル・マフムッド氏は述べている。

女性問題省があらたに編成されたことは、女性のための対策を国家の優先事項のひとつと位置づけるイラク政府の積極的なステップの一つである。政府は、ユニセフやその他の国連諸機関、より広範な活動をする開発コミュニティなどと協力しながら、女性と子どものニーズに対処するために前進している。

ユニセフと教育省が支援している学習推進プログラムは、学校に通いそこなった女の子たちがカリキュラムに追いつき、試験を受けることができるようにするものである。また、鉄分と葉酸を加えて小麦粉の栄養価を高めるための全国プログラムは、女性の栄養状況を改善し、出産時の死亡原因となる貧血を予防する手助けとなる。

しかし、ニーズはさらに多くある。今後ユニセフは、以下の重要な3点でイラク政府を支援していくことにしている。

  1. 女性と子どもへのサービスを改善するために国家予算を増やす
  2. 女性の基本的な法的社会的権利を保護するための法律を整備する
  3. 地方および中央レベルでの政策決定に女性の充分な参加を推進する

「イラクの女性は、必要とする支援を受けるためにもっと安定した時代が来ることを待つことはできない。彼女らのエンパワーメントを進め、国全体の明るい未来を実現するために、われわれは今動かなくてはならない」ロジャー・ライト氏は述べた。

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