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日本ユニセフ協会

プレスリリース

ユニセフ報告書「レポートカード17」発表
先進国の子どもの環境と幸福度 意思決定に子どもの声を

2022年5月24日フィレンツェ/ニューヨーク

ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所は本日、先進国の子どもの状況を比較分析する報告書シリーズ「レポートカード」の最新版を発表し、裕福な国の多くは、世界の子どもたちにとって不健康で危険、かつ有害な環境を作り出していると指摘しました。

環境と子どもの幸福度

「レポートカード17:場所と空間-環境と子どもの幸福度(原題:Places and Spaces: Environments and children’s well-being)」は、経済協力開発機構(OECD)または欧州連合(EU)に加盟する39カ国が、子どもにとって健全な環境をどれだけ提供しているかを比較したものです。

大気汚染、農薬、過度の湿気、鉛などの有害物質、明るさ、緑地、道路の安全、気候危機への寄与、資源の消費、電子廃棄物の処理などの指標を用いて、「子どもの世界」「子どもを取り巻く世界」「より大きな世界」に分けて評価しています。

© Pierre/Emmanuel Lyet/garance illustration llc

ユニセフ・イノチェンティ研究所所長のグニラ・オルソンは、日本について、「日本の子どもたちの環境は、他の裕福な国々と比べて比較的よい方ですが、レポートカード17の結果は、他のすべての国々と同じように、日本の子どもたちに最善の環境を提供するためには、仕組み、サービスや政策にまだ改善の余地があることを示しています。その意味で、現在日本の国会で行われていると聞いている、こども家庭庁やこども基本法についての議論を大変喜ばしく思っています。これは、意思決定において、子どもの幸福度に着目し、子どもや若者の声を反映させることを求めるすべての政府にとってのよい事例です」と述べています。

今回のレポートカードが示すランキングの総合順位で上位を占めるのは、スペイン、アイルランド、ポルトガルの3カ国ですが、これらの国を含め、OECD・EU諸国は、すべての指標においてすべての子どもに健全な環境を提供できているわけではありません。オーストラリア、ベルギー、カナダ、米国など最も裕福な国々の一部は、CO2排出量、電子廃棄物、一人当たりの資源消費量などから見て、地球環境に深刻かつ広範な影響を与えており、また、自国の子どもに健全な環境を整えることについてもよい順位ではありません。一方、OECD・EU諸国のうち、ラテンアメリカや欧州の比較的裕福ではない国々が国外に与える影響は、はるかに小さくなっています。
※日本は総合順位で13位でした。

「経済的に豊かな国の多くは、自国の子どもに健全な環境を整備できていないだけでなく、世界の他の地域で、子どもたちの環境を破壊することに関わっています。国内では比較的健全な環境を整備できている国が、国外の子どもたちの環境を破壊してしまう汚染物質の、主要な排出国になっているケースも見られます」(オルソン)

その他の懸念事項

© Séverine Assous/garance illustration llc

報告書は、さらに以下についても指摘しています。

  • 調査対象国で2,000万人以上の子どもが、血液中の鉛濃度が高い。鉛は最も危険な環境有害物質の一つ。
  • フィンランド、アイスランド、ノルウェーは、自国の子どもに対する健全な環境の整備においては上位3分の1に入っているが、国外への影響に関する、CO2排出量、電子廃棄物、消費レベルに基づく順位では下位3分の1に入る。
  • アイスランド、ラトビア、ポルトガル、イギリスでは、5人に1人の子どもが過度の湿気やカビのある住環境で生活していて、キプロス、ハンガリー、トルコではその割合が4人に1人を上回る。
  • 多くの子どもたちが、屋外、屋内の両方で、有毒な空気を吸っている。大気汚染によって失われる健康寿命は、メキシコでは子ども1,000人あたり7年と最長であり、フィンランドと日本が0.2年と最短となっている。

ユニセフの提言

© Jing Zhang/mutanthands

ユニセフは、子どもたちの環境を守り、改善するために、以下のような取り組みを呼びかけています。

  1. 政府や州・地方自治体は、廃棄物、大気・水質汚染を削減し、質の高い住宅や周辺環境を整備することによって、今日の子どもたちの環境を改善する取り組みを主導する必要がある。
  2. もっとも弱い立場にいる子どもたちの環境を改善すること。貧しい家庭の子どもは、裕福な家庭の子どもに比べてより環境被害に晒される傾向があり、すでにある不利な状況や不平等が固定化したりさらに悪化したりする。
  3. 環境政策を、子どもに配慮したものとなるようにすること。各国政府、政策立案者らは、意思決定の中に確実に子どものニーズが組み込まれるようにすべきある。
  4. 将来の主たる当事者である子どもたちに関与してもらうこと。子どもたちは、今日の環境問題と最も長い期間向き合うことになるにもかかわらず、及ぼすことができる影響力は最も小さい。親から政治家に至るまで、あらゆるおとなは、将来の世代により大きな影響を与えるような政策を立案する際には、子どもの意見に耳を傾け、考慮しなければならない。
  5. 政府と企業は、2050年までに温室効果ガスの排出を削減するという公約を守るため、即座に効果的な行動を起こすべきである。また、気候変動への適応も、政府と国際社会にとって、また教育からインフラに至るまで様々なセクターにおいて、最優先で取り組まれるべきである。

「子どもたちが健やかに成長できる、よりよい場所や空間を創ることは、私たち自身と未来の世代に対する義務です。廃棄物の増加、有害な汚染物質、天然資源の枯渇は、子どもたちの心身の健康を損ない、地球の持続可能性を脅かしています。私たちは、子どもや若者が最も大きく依存している、自然環境を保護していくための政策や取り組みを追求しなければなりません」(オルソン)

日本のランキング発表

■ユニセフ・イノチェンティ研究所について

イノチェンティ研究所は、ユニセフのリサーチ部門です。子どもの課題に関する調査研究を行うことで、ユニセフおよびパートナーの戦略的方向性、政策およびプログラムを支え、子どもの権利や発達に関する世界的な議論を促し、すべての子どもたち、特に最も弱い立場にある子どもたちのための調査や政策課題の形成を支えています。

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