メニューをスキップ
HOME > 世界の子どもたち > ストーリーを読む
財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2003年11月27日掲載>

大きく広がるボランティアの輪: サミルの恩返し
<ブラジル>


サミル・サンドヴァル・リベイロ・サントスを初めて見る人は、彼がまさか小さいときに栄養不良だったとは思いもつかないでしょう。ブラジルの貧困家庭の末っ子として、1990年1月に生まれた彼は、初めは体重も3キロあり、健康そうでした。ところが、みるみるうちに体重が減り、命さえ危ぶまれる状態になってしまったのです。

 彼を救ってくれたのは、ブラジルのNGO「パソトラル・ダ・クリアンサ(子ども牧師の意)」でした。

 ユニセフが支援するこの組織から、たまたまボランティが回ってきて、サミルの栄養状態を見て、「マルチミストゥーラ(ビタミン補給剤)」をくれたのです。これは乾燥した野菜とフルーツの皮からできた栄養たっぷりの粉で、今では地元の市場でも買えます。パストラルは、この後もときどきサミルのようすを見に来てくれて、社会サービスを提供したり、発育状況を観察したりしてくれました。そのおかげで、サミルは徐々に体重が増え、健康に育っていったのです。6歳になるまでサミルの発育観察は続けられましたが、その後はその必要もなくサミルは順調に育ちました。

 サミルは、7歳のときからパストラルのボランティアになり、その活動に参加しています。子どもの命を救ってもらったサミルの両親は、今やパストラルのコミュニティ・リーダーを務めており、サミルは、近所の家の扉を叩き、小さな子どもたちの成長状態を見て回っているのです。

 「ぼくが生きていられるのはパストラルのおかげなんだ」とサミル。「ぼくが赤ん坊の頃からお母さんはパストラルにいろいろと教わった。だから、今度はぼくがみんなを助ける番なのさ。パストラルのボランティアとして、いろいろな家族を訪問して、小さな子どもたちの成長や健康を見守っているんだ。ぼくが守られたように、ほかの子どもたちのことも守りたいんだ。できれば、ずっとこれを続けたいと思っているよ。」

 サミルはモンテス・クラーロスというブラジル東部の町で、ミナス・ジェライス州の北部にある町にお母さんと一緒に住んでいます。お父さんはサミルが小さいときに家を出ていってしまいました。サミルは学校に通い、地元のスーパーで働いています。

 今では青年になったサミル。ほかの若者と同じようにスポーツ、特にサッカーが大好きです。クルゼイロ・エスポルテ・クラブの熱烈なサポーターで、ブラジルの有名サッカー選手ロナウジーニョの大ファン。できれば、自分もサッカーの選手になりたいと夢みています。その彼が、まさかユニセフに選ばれて、ロナウジーニョに同行してミラノの試合に行けるなんて誰が想像したでしょうか? サミルは、その旅で、カメラにも臆せず、テレビにまで堂々と出演して周囲をびっくりさせました。

ブラジルのアラゴアス州のパストラル・ダ・クリアンサは母親は家族に子どもの成長と発達についてのガイダンスを提供している。写真はバタルハの母親たちが話し合いをしているところ。 サミルが生まれるずっと前から、ユニセフは、子どもの生存と開発のための活動を行っていたNGOパストラルを支援してきました。実際、1983年にパストラルが誕生したきっかけは、ユニセフの打ち出したビジョン「すべての子どもの健康な成長」にあったのです。その後のパストラルの成長は目覚しいものがありました。ブラジル南部のパラナ州フロレストポリスで始まったパストラルは、今や国中の33,000のコミュニティに広がり、毎月、155,000人のボランティア・ネットワークを通して、160万人の貧しい子どもと76,000人の妊産婦に手を差し伸べています。その結果、パストラルは、ブラジルから2001年のノーベル平和賞候補に選ばれ、今年も政府から同様の指名を受けています。

 1987年までの4年間、パストラルを資金面で支援していたのはユニセフだけでした。それも最初はたったの数千ドル。その後、パストラルの名前が広まり、多くの人たちに認識されるようになると、国内で資金を得ることができるようになり、ユニセフへの依存度が減ってきました。今日のパストラルの財源2,400万リエル(約8億9,499万円/1BRL=37.2916円換算)の大半はブラジル政府から拠出されています。

パストラル・ダ・クリアンサでは毎月「体重測定の日」を設けて、ブラジル中の32,000コミュニティで子どもの体重測定を行い、子どもの成長と発達についての学習をしている。 少額のユニセフ支援が、国中に広がるようなイニシアチブにつながり、効率的で、持続性のあるものになった成功例だと言えます。それもパストラルの場合は、国内だけにとどまらず、コミュニティを中心とした子どもの生存と開発のプロジェクト・モデルとして国際的にも広がっています。ラテンアメリカ(アルゼンチン、ボリビア、チリ、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ベネズエラ)でも独自のパストラルができ、そのビジョンは、アフリカのアンゴラにも伝播、ギニア・ビサウやモザンビークにまで広がりを見せています。アジアでは東ティモールやフィリピンにも同様の動きが見られます。パストラルの活動は、本来なら国が実施しているような規模で行われているため、普通のNGOの活動には見えません。

 パストラルは、規模的には拡大していますが、運営コストは低く抑えられ、子どもひとりあたりのコストは21.6リアル(805円)と推定されています。こうして運営費が少なくてすんでいるのは、ボランティアの協力のおかげです。ボランティアがいるからこそ、国から入ってくる助成金を子どもの命に大きな影響を与える健康、栄養、教育といったイニシアチブに回すことが可能なのです。パストラルの活動が入っている地域では、子どもの死亡率、栄養不良率、下痢性疾患、肺炎や感染症の罹患率が、パストラルの活動が入っていない地域や、政府のコミュニティ保健員が回っていない地域よりもはるかに低くなっています。

パストラル・ダ・クリアンサのボランティアはプログラムに参加している家庭1世帯1世帯を毎月訪問して回る。その結果、毎月100万家庭を回っている。 ユニセフは現在、パストラルと協働して、小さな子どもたちの「全体的な」ニーズ(社会的、情緒的、言語的開発、認知能力面での開発)を満たす形で、家庭を支援し、パストラルの活動自体を広げていく努力をしています。また、子どもたちの保護の問題にも焦点をあてるようにしています。例えば、パストラルは、こうした子どものニーズが満たされるように、母親や家族が使えるような開発資料を作成し、コミュニティのリーダーたちが子どもたちを支援できるようにしています。

 パストラルはサミルのような子どもたちを何百万人も救っています。でも、もっと、もっと多くのブラジルの子どもたちが、人生の最良のスタートを切れるように、支援の手を待っているのです。

2003年11月24日
ユニセフ・ブラジル事務所
Florence Bauer

トップページへコーナートップへ戻る先頭に戻る