日本ユニセフ協会の主な活動—啓発・アドボカシー活動

日本ユニセフ協会が国内で展開する主要な活動の一つが、子どもに関する課題への理解を広げ、子どもの権利の実現に向けて取り組む、啓発・アドボカシー(政策提言)活動です。
1955年に始まったユニセフ学校募金のネットワークを通じた全国の学校への啓発活動に加え、90年代初頭からはユニセフ本部と連携し「子どもの権利条約」の日本政府による批准をはじめ、子どもの兵士、子どもの人身売買や商業的性的搾取をなくすキャンペーン等のアドボカシー活動を実施してきました。

現在は、こども基本法にも書かれた「子どもの権利条約」のさらなる普及と実施、「子どもにやさしいまちづくり」や、「子どもの権利を大切にする教育」、子どもの課題に焦点をあてたSDGs(持続可能な開発目標)の推進にも取り組んでいます。
2022年の活動報告ハイライト
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こども基本法・こども家庭庁誕生を応援
国会議員への働きかけや情報提供、こども家庭庁準備室との連携、広報活動等を通して、こども基本法、こども家庭庁の誕生を応援しました。日本の子どもの幸福度(ウェルビーイング)の課題を提起し、子ども参加の重要性を伝えた「レポートカード16」は、国会でも何度も取り上げられこの動きを大きく後押ししました。
6月のこども基本法とこども家庭庁設置法の採択直後、ラッセル事務局長の歓迎メッセージをこども政策担当大臣に届けました。また、いっそうの子どもの権利の推進に向け、こども政策担当大臣と文部科学大臣宛に要望書を提出しました。10月、フルショフ事務局次長の来日時には、こども政策担当大臣を訪問し、直接歓迎のメッセージを伝えたほか、子ども政策の推進における今後の連携強化について協議しました。
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子ども参加の推進
こども家庭庁準備室が進めていた、こども政策への子どもの意見反映の仕組み作りに、ユニセフ本部や各国ユニセフ協会の協力も得て、諸外国の事例を提供するなどして協力しました。「レポートカード16」は、報道でも継続して取り上げられ、NHKの「子どもの声を聴く」大型特別企画にもつながるなど、子ども参加の社会的気運を高めました。
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「子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)」に関する取り組み
2021年に「ユニセフ日本型CFCI 実践自治体」として承認された5つの自治体によって、子どもにやさしいまちづくりの実践が進められました。6 月にこども環境学会との共催でオンラインフォーラムを開催。小児医学と子どもの権利の専門家を招き、CFCI 実践自治体の町長、市長などと共に、長期化するコロナ禍や変化の大きい社会で子どもたちが健全に育つ環境をどう守るか討論しました。フォーラムに参加した自治体向けに、10月にオンライン説明会を実施しました。
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子どもの権利を大切にする教育
子どもたちの権利が尊重される教育環境や学びの推進に向け、ウェブサイト『子どもの権利が守られた学校・園づくり』を公開し、『ユニセフCRE実践記録 子どもの権利が守られた学級づくり「私たちの学級研修」をつくってみよう!』をまとめ、全国の学校・園に配布しました。子どもたちの自己肯定感の向上や多様性の尊重、意見表明などの課題の解決にもつながる活動として展開しています。
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SDGs(持続可能な開発目標)の啓発と推進に関する取り組み
SDGs 副教材『私たちがつくる持続可能な世界~SDGsをナビにして~』を全国の中学3年生に配布しました。17の目標、169のターゲット、「前文」および「宣言」の一部を子ども訳にして掲載した学習ウェブサイト「SDGs CLUB」の2022年度の閲覧数は約1,950万にのぼり、学校だけでなく企業等からも、様々な資料等に引用や参考として活用されています。
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気候変動・環境問題と子ども
5月、先進国の子どもの状況を比較するイノチェンティ研究所「レポートカード」シリーズの最新版、「レポートカード17:場所と空間-環境と子どもの幸福度」が公表されました。子どもにとって健全な環境をどれだけ提供しているかの順位で、日本は先進39カ国中13位でした。
国連子どもの権利委員会に協力し、「子どもパブコメ2022」として、環境問題・気候変動に関する日本の子どもたちの声を募集し、寄せられた1500以上の意見を英訳して委員会に提出しました。日本を含む世界の子どもたちの声は委員会からも公表され、気候変動・環境問題に関する同委員会「一般的意見26」策定に生かされました。
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子どもに対する暴力をなくす
政府の「子どもに対する暴力撲滅行動計画」および「子どもの性被害防止プラン」の実施に、引き続き関わっています。
12月に民法が改正され、当協会が2010年、2021年に意見書を提出し訴えてきた内容に沿って、虐待を容認する可能性が長く指摘されてきた「懲戒権」の規定が削除されました。
関連ページ
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子どもの幸福度~「レポートカード16」
2020年に発表した報告書「レポートカード16」で指摘された、日本の子どもの精神的幸福度(well-being)の低さは、政府「子供・若者育成支援推進大綱」(内閣府ホームページ)や「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(内閣官房ホームページ)などに引用され、引き続き多くの報道でも取り上げられました。「子どもの幸福度」の考え方が広まってきています
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子ども政策への働きかけ
11月に国内外の専門家や国会議員の参加を得てオンラインで開催した「日本子どもフォーラム」などを通じて、子どもの権利を基盤とする子ども施策や「子ども基本法」の実現を訴えました。ユニセフ事務局長からも、日本への期待を示すメッセージが寄せられました。「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」決定に先立つ有識者ヒアリング(内閣官房ホームページ)にも参加しました。
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子どもに対する暴力をなくす
当協会が策定に参加し、8月に公表された「子どもに対する暴力撲滅行動計画」。その「子ども版」の作成にも協力しました。策定過程で子どもたちからの意見を募集した「子どもパブコメ」については、「令和3年度版子供若者白書」で、政策決定過程に子どもたちの意見が反映された事例として詳細に紹介されました。
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子ども参加の推進
「日本子どもフォーラム」には子どもたちが参加したほか、事前に募集した子どもの声を登壇者に届けました。また、ユニセフが21カ国で実施した子ども・若者の意識調査「変わりゆく子ども時代プロジェクト」にも参加するなど、子どもの権利条約が重視する子ども参加の推進に努めました。
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「子どもにやさしいまちづくり事業」に関する取り組み
ユニセフ「子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)」が6月に正式に開始されました。2年間のユニセフ日本型CFCIモデルの検証作業を成功裏に完了した5自治体(ニセコ町、安平町、富谷市、町田市、奈良市)は12月17日付でユニセフ日本型CFCI実践自治体として当協会CFCI委員会から承認を受け、覚書を締結しました。これは、「子どもにやさしいまち」の実現のために、ユニセフの基準に基づき、推奨される手法を実践していることを承認するものです。この承認期間は3年間で、各自治体は、子どもにやさしいまちの実現に向けて様々な取り組みを行います。
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子育て支援策比較レポート、ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
6月に公表された、報告書「先進国の子育て支援の現状」について積極的に広報し、父親の育休制度がもっとも充実している一方で、育休取得が進んでいない日本の現状について、多くの報道で取り上げられました。
競技団体等と連携して、引き続き「子どもの権利とスポーツの原則」の普及に努めました。
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子どもの幸福度~「レポートカード16」
先進国の子どもの状況を比較・分析するユニセフ「レポートカーシリーズ」の最新刊、「レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」を発表。日本の子どもの精神的幸福度の順位が最下位に近いという結果は、報道やSNS等を通じて大きな反響を呼びました。
*日本政府が2021年4月6日に決定した「子供・若者育成支援推進大綱」で、レポートカード16で指摘された日本の子どもたちの幸福度(well-being)の低さが、子どもを取り巻く社会状況の課題の一つとして言及されました。
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子どもに対する暴力をなくす
関係府省庁、企業、市民社会等が参加する「子どもに対する暴力撲滅行動計画」策定過程に参加しました。インターネット上で子どもたちからの意見を募集した「子どもパブコメ」の結果をふまえて計画づくりが進められました。
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子どもとインターネット
ユニセフ「子どもスマホサミット」の締めくくりに、中高生の代表とICT企業担当者が参加する公開オンライン会議を実施。スマホサミットの成果を日本の子どもたちの提言としてとりまとめ、国連子どもの権利委員会に提出しました。
ユニセフ『オンラインゲーム業界への提言-子どもへの影響をどう評価するか』の日本語版を作成し、業界団体と協力してオンライン意見交換会を実施しました。
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ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
新たに原則に賛同してくださったスポーツ団体のみなさまと「現役アスリートと考える、スポーツの価値」をテーマに、企業のみなさまとは「スポーツを通じたSDGsの達成 ビジネス界への期待」をテーマに、オンラインイベントを開催しました。『ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」実践のヒント』が出版されました。
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ビジネスと人権
政府策定の「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」に子どもの権利や関連の施策が適切に位置づけられるよう、パブリックコメントを提出。当協会意見の多くが反映されました。
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「子どもにやさしいまちづくり事業」に関する取り組み
2018年10月29日より2年間、5自治体(北海道・ニセコ町、安平町、宮城県・富谷市、東京都・町田市、奈良市)の協力を得て実施したユニセフ「日本型子どもにやさしいまちづくり事業」の検証作業が2020年10月28日を以って無事終了しました。各自治体の検証作業完了報告及び今後の展望については、2021年2月16日開催のオンラインフォーラムにて発表されました。ユニセフ「日本型子どもにやさしいまちづくり事業」は2021年4月に正式に開始され、上記の5自治体は今後もこの事業を積極的に推進する意向です。
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子どもの権利条約採択30周年
条約の各条文のアイコンを選ぶ投票への参加呼びかけなど、様々な情報発信を通じて子どもの権利の実現を訴えました。外務省と協力して、子どもの権利条約採択30周年記念行事:「中学生と考える「持続可能な世界」」を開催しました。
国連子どもの権利委員会が公表した日本についての「最終見解」には、当協会が提出した報告書の内容も反映されました。 -
持続可能な開発目標(SDGs)
子どもの課題に適切に焦点をあてたSDGsの推進を働きかけました。外務省と作成したSDGs 副教材『私たちがつくる持続可能な世界 ~SDGsをナビにして~』の全国の中学校等への配布を継続し、教育活動をサポートしました。
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子どもへの暴力をなくす~「子どもパブコメ」
SDGs16.2の達成をめざす「子どもに対する暴力撲滅我が国行動計画」策定のための円卓会議に参加し、子どもたちの意見をインターネット上で広く募集する「子どもパブコメ」をヤフー株式会社と協力して実施、計画づくりに活かしました。
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ユニセフ「子どもスマホサミット」
子どもとインターネットに関わる課題やその解決策を中高生自身が話し合う、ユニセフ「子どもスマホサミット」を各地で開催しました。その成果は、日本の子どもたちの提言として、国連子どもの権利委員会等に提出する予定です。
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ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
2018年に発表した「原則」には、日本サッカー協会(中央競技団体として初めて)、高野連を含むアマチュア野球14団体、日本プロ野球選手会(プロ選手会として初めて)、企業4社が新たに賛同してくださいました。
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「子どもにやさしいまち」
2018年10月から2年間の予定で、5つの自治体が参加するユニセフ「子どもにやさしいまち」日本型モデルの検証作業が継続されています。ドイツ・ケルン市で開催されたユニセフ「子どもにやさしいまちサミット」には、町田市の市長や中高生が参加しました。
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育児支援策
先進国における育児支援策に関するレポート『先進国における家族にやさしい政策』の制作にデータの提供等で協力しました。日本が父親の育児休業制度が最も整っている国であるものの、実際の育休の取得率は低いことを指摘したこのレポートは、大きな関心を呼びました。
【関連ニュース】
アドボカシー活動について

アドボカシー活動は、子どもたちへの支援に欠かせない、ユニセフの活動の柱の一つです。
例えば、ユニセフの活動の中で、最も成果をあげてきた活動のひとつである「予防接種」事業では、ワクチンや冷蔵庫といった物資調達・提供、ワクチンを国の隅々にまで届ける物流、そして、医療スタッフやボランティアへの研修などの人材育成が必要になります。一方で、幼い子どもたちが、確実かつ持続的に予防接種を受けるためには、支援対象国の政府の積極的な取り組みが不可欠です。予防接種を国の保健・医療施策の一つとして位置付け、さらに、予算も付けること。そうしたことを各国政府に働きかける活動も、アドボカシー活動です。
かつて、様々な支援活動が行われている開発途上国の現場を中心に展開されていたアドボカシー活動ですが、1980年代後半、この状況を大きく変える出来事がありました。地球上のすべての子どもを対象にした「子どもの権利条約」の誕生に向けた動きが進み、ユニセフは、世界33の国と地域のユニセフ協会(国内委員会)を含めたすべてのユニセフ・ファミリーによる各国政府への批准への働きかけ、つまり、アドボカシー活動を展開したのです。
「子どもの権利」は、"誰と誰の比較"の中で語られる問題ではなく、子どもたち"ひとりひとり"の問題です。先進工業国や地域の中にも、子どもたちを巡る様々な問題が山積しています。また、開発途上国の子どもたちを巡る様々な問題や国境をまたいだ諸問題の解決に向け、国際社会の共同歩調の必要性もますます高まっています。