日本ユニセフ協会の主な活動—啓発・アドボカシー活動

日本ユニセフ協会が国内で展開する主要な活動の一つが、子どもに関する課題への理解を広げ、子どもの権利の実現に向けて取り組む、啓発・アドボカシー(政策提言)活動です。
1955年に始まったユニセフ学校募金のネットワークを通じた全国の学校への訪問授業や教材の提供を中心とした啓発活動に加え、1990年代初頭からは、ユニセフ本部との連携の下、「子どもの権利条約」批准を日本政府に求めるキャンペーンを皮切りに、子どもの兵士根絶を目指すキャンペーン、子どもの人身売買根絶を目指すキャンペーン、子どもの商業的性的搾取の根絶を目指すキャンペーンなどのアドボカシー(政策提言)活動を実施してまいりました。

現在は、「子どもの権利条約」のさらなる普及を進め、子どもの課題に焦点をあてた持続可能な開発目標(SDGs)の推進を働きかけるとともに、子どもに対するあらゆる形態の暴力をなくすこと、インターネット上の子どもの保護、スポーツにおける子どもの権利の推進等の課題にも取り組んでいます。2020年度は、主に以下の啓発・アドボカシー活動を実施しました。
2021年の活動報告
アドボカシー(政策提言)活動
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子どもの幸福度~「レポートカード16」
2020年に発表した報告書「レポートカード16」で指摘された、日本の子どもの精神的幸福度(well-being)の低さは、政府「子供・若者育成支援推進大綱」(内閣府ホームページ)や「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」(内閣官房ホームページ)などに引用され、引き続き多くの報道でも取り上げられました。「子どもの幸福度」の考え方が広まってきています
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子ども政策への働きかけ
11月に国内外の専門家や国会議員の参加を得てオンラインで開催した「日本子どもフォーラム」などを通じて、子どもの権利を基盤とする子ども施策や「子ども基本法」の実現を訴えました。ユニセフ事務局長からも、日本への期待を示すメッセージが寄せられました。「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」決定に先立つ有識者ヒアリング(内閣官房ホームページ)にも参加しました。
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子どもに対する暴力をなくす
当協会が策定に参加し、8月に公表された「子どもに対する暴力撲滅行動計画」。その「子ども版」の作成にも協力しました。策定過程で子どもたちからの意見を募集した「子どもパブコメ」については、「令和3年度版子供若者白書」で、政策決定過程に子どもたちの意見が反映された事例として詳細に紹介されました。
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子ども参加の推進
「日本子どもフォーラム」には子どもたちが参加したほか、事前に募集した子どもの声を登壇者に届けました。また、ユニセフが21カ国で実施した子ども・若者の意識調査「変わりゆく子ども時代プロジェクト」にも参加するなど、子どもの権利条約が重視する子ども参加の推進に努めました。
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「子どもにやさしいまちづくり事業」に関する取り組み
ユニセフ「子どもにやさしいまちづくり事業(CFCI)」が6月に正式に開始されました。2年間のユニセフ日本型CFCIモデルの検証作業を成功裏に完了した5自治体(ニセコ町、安平町、富谷市、町田市、奈良市)は12月17日付でユニセフ日本型CFCI実践自治体として当協会CFCI委員会から承認を受け、覚書を締結しました。これは、「子どもにやさしいまち」の実現のために、ユニセフの基準に基づき、推奨される手法を実践していることを承認するものです。この承認期間は3年間で、各自治体は、子どもにやさしいまちの実現に向けて様々な取り組みを行います。
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子育て支援策比較レポート、ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
6月に公表された、報告書「先進国の子育て支援の現状」について積極的に広報し、父親の育休制度がもっとも充実している一方で、育休取得が進んでいない日本の現状について、多くの報道で取り上げられました。
競技団体等と連携して、引き続き「子どもの権利とスポーツの原則」の普及に努めました。
関連ページ
啓発活動(学習活動・人材育成)
啓発活動の一環として、学校現場と連携した学習活動や国際協力に携わる人材の育成活動に取り組みました。
全国の学校からの求めに応じて、出前授業/講師派遣/出張授業を実施したほか、年間を通じて、ユニセフ資料の配布や、ビデオ・DVD・写真パネルなどの貸出を行い、ユニセフや世界の子どもたちについての学習機会を提供しました。。
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ユニセフハウス展示見学
©日本ユニセフ協会
ユニセフハウスの1、2階は、世界の子どもたちの暮らしやユニセフの活動に出会える展示スペースとして、一般に公開されています。ボランティア・スタッフによるガイドツアーへの参加でより理解を深めていただくことができ、修学旅行や社会科見学・総合的な学習の一環としても活用されています。
2020年から、新型コロナウイルス感染予防のため、一定期間の休館や完全予約制への移行、見学人数の制限など状況に応じた対応を行いました。また、ボランティアによる対面のガイドツアーに代わり、QRコードとスマートフォンやタブレットを利用した映像による展示案内も導入しました。2021年4月に発出された緊急事態宣言にともない、再度休館としましたが、6月に入って、まん延防止等重点措置への移行にともない、事前予約を前提として、一時の入場者を30名に限った団体見学、また個人の見学も受け付けています。コロナ禍以前のような修学旅行での訪問はありませんが、首都圏内の学校からの訪問が少しずつ入り始め、年間の訪問者数としては961名となりました。
本展示スペースにつては、2022年秋のリニューアルオープンに向け、現在、準備を進めています。
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ユニセフ視聴覚ライブラリー
当協会は、協定地域組織および全国13カ所の機関にご協力いただき、ビデオ・DVD、写真パネルなどの視聴覚ライブラリーの無料貸し出しを行っており、学校やボーイスカウト・ガールスカウト等で国際理解の学習等に活用されています。
新しい映像コンテンツについては、YouTube等を通じたオンラインでの視聴が一般的になっていますが、学校はYouTubeへの接続制限が設けられていることも多いため、2018年以降、毎年学校に配布している資料「ユニセフ活動の手引き」に新しい映像コンテンツを収録したDVDを付属させ、教育現場で活用できるようにしました。なお、2018年以降各年に制作したDVD(3種類)をユニセフ視聴覚ライブラリーの貸し出し教材にも加えました。
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キャラバン・キャンペーン
1979年の国際児童年よりスタートし、当協会職員が全国各地を巡回する『ユニセフ・キャラバン・キャンペーン』。
2021年度ユニセフ・キャラバン・キャンペーンは、春季(山梨県、岐阜県、愛知県、北海道)、秋季(長崎県、佐賀県、福岡県、山口県、島根県、鳥取県)合わせて10県で実施しました。
当協会の協定地域組織がある道県でオンライン実施となった際には、東京のユニセフハウスと現地をオンラインでつなぐとともに、地域組織のスタッフが実際に道県庁や学校を訪問して、知事・教育長にメッセージを直接お渡ししたり、学校で水がめなどの実物を直接紹介したりと、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッドな形で実施しました。
また、教育現場でオンラインでの研修会が普及しはじめていたこともあり、対面での実施となった場合も含め、大多数の道県で教員向けの「ユニセフ研修会」のオンライン開催が歓迎されました。オンライン開催の場合、より参加していただきやすい日程で実施するなど、柔軟な形態で実施しました。その結果、現場のニーズにも合い、より多くの先生方にご参加いただくことがかないました。
学校でのユニセフ教室についても、数校においてオンラインを取り入れる形態で実施しました。今後も対面とオンラインの双方の良い面を取り入れながら実施できるよう、さらに体制を強化したいと考えています。
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学校・教育関係研修会への講師派遣
新型コロナウイルスの感染拡大の懸念から、緊急事態宣言下の講師派遣はオンライン授業に変更して実施しました。通年を通して昨年以上にオンライン授業の依頼が増え、2021年に学校事業部が担当したユニセフ教室の件数のうち64%はオンラインでの実施となりました。
オンラインでの授業が学校現場で広く受け入れられたことを実感し、都内に限らず全国各地、また、海外の日本人学校などからもオンライン授業の依頼が入りました。
<日本ユニセフ協会の実績>
• 講師派遣数:92校(うち、オンライン59校 64.1%)
• 受講者数:10,563人(うち、オンライン6,832人 64.7%)<協定地域組織の実績>
• 講師派遣数:322校(うち、オンライン76校 23.6%)
• 受講者数:24,972人(うち、オンライン6,213人 24.9%) -
ユニセフセミナー、リーダー講座
例年夏休みに、教職員の皆様を対象に開催している「ユニセフセミナー」。新型コロナウイルス禍を受け、2020年度に初めてオンラインで開催し、参加者からは「遠方からも参加ができる」「他県や海外勤務の先生とも交流ができる」「産休中でも研修の機会が得られて助かる」とご好評をいただきました。2021年度も本セミナーをオンラインで開催するとともに、オンラインならではのメリットを生かして機会を拡充し、初めて“セミナーシリーズ”として実施しました。
例年夏休み期間中に、希望の中高生を対象にユニセフハウスで開催していたユニセフ・リーダー講座についても、新型コロナウイルス禍を受け、2020年度に初めてオンライン開催した結果、関心の高い中高生が全国から参加できるという長所を感じられるものとなりました。これを受け、2021年度のリーダー講座もオンラインで開催しました。
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国際協力講座
国際協力のキャリアに関心を持つ学生や社会人を対象に、国際機関、NGO、報道機関などから講師を迎え、国際協力講座を開講しています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、「第20回国際協力講座」はZoomでのオンライン開催とし、途中で中止となった昨年度の内容を再実施しました。
オンライン開催によって、昨年度の再受講希望を含め総勢344名が受講しました。また国際協力のキャリアに意欲のある高校生を初めて受け入れ、全体の内訳は、高校生 21名、大学生/大学院生 158名、社会人等 165名となりました。
全6回のアンケートの提出者のうち希望者に修了証を発行することとし、最終的に53名に修了証を発行しました。最終アンケートによると、「講座が全体として、期待以上に有益だった」との回答が62%、「期待通りだった」という回答を含めると98%を超え、満足度の高い講義となったことがうかがえました。また87%が「オンラインでの開催は参加しやすく、かつ学びやすかった」と回答し、「機会があれば再びオンラインでの参加を希望する」という回答が61%となりました。
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インターンシッププログラム(海外、国内)
海外インターンは、将来、国際協力・国際開発分野での活動を希望する大学院生を対象に、ユニセフの現地事務所でインターン生として実際の業務に携わることができるプログラムです。
2019年度に5名のインターンを決定し2020年度に派遣する予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により現地への渡航が一年延期となりました。その後、5名中2名が進路決定の関係でインターン派遣を辞退し、残る3名が、2021年度中に、タンザニア(リモート)、マラウイ、ユニセフNY本部においてインターンを実施しました。2020年度の募集は中止となりましたが、2021年度は募集を再開し4名が合格、2022年度中に派遣予定です。
また、日本ユニセフ協会における国内インターンも受け入れています。事務などの実務体験を通じて将来の国際協力を担う人材を養成する事業で、インターン生は、実務だけでなく、レポート作成や研修会参加などを通して、ユニセフの支援活動や国際協力に関する理解を深めています。2021年度は、広報・アドボカシー推進室に、1名(弁護士)の受け入れを行いました。
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ユースとの取組み
日本ユニセフ協会・UNICEF東京事務所がサポートし、東京大学の学生を中心とする学生事務局が運営するウェブサイト「ボイス・オブ・ユースJAPAN」の活動は2021年10月10日に3周年を迎えました。2021年は、記事をコンスタントに発信しつづけるだけでなく、SNSを活用した広報にも力を入れ、新規のライターや読者の獲得につなげました。
また、対面でのイベント開催が難しい中で、ウェブサイト上の参加型企画やオンラインの交流イベントなどを実施したほか、事務局の学生たち自身がアクティビストとしても国連をはじめとした様々なイベントに参加し、自分たちの活動を発表しました。
立ち上げから4年目を迎えましたが、持続可能なプラットフォームを目指して、学生事務局を中心に活動が続けられています。
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子どもの幸福度~「レポートカード16」
先進国の子どもの状況を比較・分析するユニセフ「レポートカーシリーズ」の最新刊、「レポートカード16-子どもたちに影響する世界:先進国の子どもの幸福度を形作るものは何か」を発表。日本の子どもの精神的幸福度の順位が最下位に近いという結果は、報道やSNS等を通じて大きな反響を呼びました。
*日本政府が2021年4月6日に決定した「子供・若者育成支援推進大綱」で、レポートカード16で指摘された日本の子どもたちの幸福度(well-being)の低さが、子どもを取り巻く社会状況の課題の一つとして言及されました。
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子どもに対する暴力をなくす
関係府省庁、企業、市民社会等が参加する「子どもに対する暴力撲滅行動計画」策定過程に参加しました。インターネット上で子どもたちからの意見を募集した「子どもパブコメ」の結果をふまえて計画づくりが進められました。
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子どもとインターネット
ユニセフ「子どもスマホサミット」の締めくくりに、中高生の代表とICT企業担当者が参加する公開オンライン会議を実施。スマホサミットの成果を日本の子どもたちの提言としてとりまとめ、国連子どもの権利委員会に提出しました。
ユニセフ『オンラインゲーム業界への提言-子どもへの影響をどう評価するか』の日本語版を作成し、業界団体と協力してオンライン意見交換会を実施しました。
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ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
新たに原則に賛同してくださったスポーツ団体のみなさまと「現役アスリートと考える、スポーツの価値」をテーマに、企業のみなさまとは「スポーツを通じたSDGsの達成 ビジネス界への期待」をテーマに、オンラインイベントを開催しました。『ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」実践のヒント』が出版されました。
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ビジネスと人権
政府策定の「ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)」に子どもの権利や関連の施策が適切に位置づけられるよう、パブリックコメントを提出。当協会意見の多くが反映されました。
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「子どもにやさしいまちづくり事業」に関する取り組み
2018年10月29日より2年間、5自治体(北海道・ニセコ町、安平町、宮城県・富谷市、東京都・町田市、奈良市)の協力を得て実施したユニセフ「日本型子どもにやさしいまちづくり事業」の検証作業が2020年10月28日を以って無事終了しました。各自治体の検証作業完了報告及び今後の展望については、2021年2月16日開催のオンラインフォーラムにて発表されました。ユニセフ「日本型子どもにやさしいまちづくり事業」は2021年4月に正式に開始され、上記の5自治体は今後もこの事業を積極的に推進する意向です。
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子どもの権利条約採択30周年
条約の各条文のアイコンを選ぶ投票への参加呼びかけなど、様々な情報発信を通じて子どもの権利の実現を訴えました。外務省と協力して、子どもの権利条約採択30周年記念行事:「中学生と考える「持続可能な世界」」を開催しました。
国連子どもの権利委員会が公表した日本についての「最終見解」には、当協会が提出した報告書の内容も反映されました。 -
持続可能な開発目標(SDGs)
子どもの課題に適切に焦点をあてたSDGsの推進を働きかけました。外務省と作成したSDGs 副教材『私たちがつくる持続可能な世界 ~SDGsをナビにして~』の全国の中学校等への配布を継続し、教育活動をサポートしました。
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子どもへの暴力をなくす~「子どもパブコメ」
SDGs16.2の達成をめざす「子どもに対する暴力撲滅我が国行動計画」策定のための円卓会議に参加し、子どもたちの意見をインターネット上で広く募集する「子どもパブコメ」をヤフー株式会社と協力して実施、計画づくりに活かしました。
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ユニセフ「子どもスマホサミット」
子どもとインターネットに関わる課題やその解決策を中高生自身が話し合う、ユニセフ「子どもスマホサミット」を各地で開催しました。その成果は、日本の子どもたちの提言として、国連子どもの権利委員会等に提出する予定です。
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ユニセフ「子どもの権利とスポーツの原則」
2018年に発表した「原則」には、日本サッカー協会(中央競技団体として初めて)、高野連を含むアマチュア野球14団体、日本プロ野球選手会(プロ選手会として初めて)、企業4社が新たに賛同してくださいました。
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「子どもにやさしいまち」
2018年10月から2年間の予定で、5つの自治体が参加するユニセフ「子どもにやさしいまち」日本型モデルの検証作業が継続されています。ドイツ・ケルン市で開催されたユニセフ「子どもにやさしいまちサミット」には、町田市の市長や中高生が参加しました。
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育児支援策
先進国における育児支援策に関するレポート『先進国における家族にやさしい政策』の制作にデータの提供等で協力しました。日本が父親の育児休業制度が最も整っている国であるものの、実際の育休の取得率は低いことを指摘したこのレポートは、大きな関心を呼びました。
【関連ニュース】
アドボカシー活動について

アドボカシー活動は、子どもたちへの支援に欠かせない、ユニセフの活動の柱の一つです。
例えば、ユニセフの活動の中で、最も成果をあげてきた活動のひとつである「予防接種」事業では、ワクチンや冷蔵庫といった物資調達・提供、ワクチンを国の隅々にまで届ける物流、そして、医療スタッフやボランティアへの研修などの人材育成が必要になります。一方で、幼い子どもたちが、確実かつ持続的に予防接種を受けるためには、支援対象国の政府の積極的な取り組みが不可欠です。予防接種を国の保健・医療施策の一つとして位置付け、さらに、予算も付けること。そうしたことを各国政府に働きかける活動も、アドボカシー活動です。
かつて、様々な支援活動が行われている開発途上国の現場を中心に展開されていたアドボカシー活動ですが、1980年代後半、この状況を大きく変える出来事がありました。地球上のすべての子どもを対象にした「子どもの権利条約」の誕生に向けた動きが進み、ユニセフは、世界34の国と地域のユニセフ協会(国内委員会)を含めたすべてのユニセフ・ファミリーによる各国政府への批准への働きかけ、つまり、アドボカシー活動を展開したのです。
「子どもの権利」は、"誰と誰の比較"の中で語られる問題ではなく、子どもたち"ひとりひとり"の問題です。先進工業国や地域の中にも、子どもたちを巡る様々な問題が山積しています。また、開発途上国の子どもたちを巡る様々な問題や国境をまたいだ諸問題の解決に向け、国際社会の共同歩調の必要性もますます高まっています。