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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

子どもである喜びを分かちあおう
ジェニンで苦難に耐える子どもたちのための
21日間の「お楽しみデー」
<ヨルダン川西岸とガザ地区>


ジェニン、2002年4月29日(ユニセフ)
マイケル・アーセナルト(Michel Arseneault)

 パレスチナ難民キャンプからイスラエル軍が徹底してから1週間もしないある日、予防接種を受けるため、800名以上の子どもたちが親に連れられて地元のパレスチナ赤新月社にやってきました。しかし赤新月社では予防接種を行なっておらず、ちょうど子どもたちのための一連の「お楽しみデー」が始まるところでした。それを知らされた親たちは、自分たちも参加させるよう求めました。赤新月社のモハメド・ダハーは、「もし全員を入れなかったら、暴動になっていたでしょう」と語ります。

 イスラエルによる3週間にわたる軍事行動は激しい論議を巻き起こし、大規模な破壊の傷跡を残しました。難民キャンプはあちこちでがれきとなり、600世帯が家を失いました。それでも、軍による厳しい外出禁止令がようやく解かれたいま、多くの親たちはわが子を存分に遊ばせたいと思っています。

 ユニセフは、子どもたちのためのお楽しみデーを企画する赤新月社を支援して、お絵描き道具、風船、粘土、子ども向けのメークアップ道具などを提供しました。パレスチナ自治区でユニセフのプログラム担当官を務めるバートランド・バインベルは、「これは、3週間の試練に耐えた子どもたちが、子どもらしい喜びを分かちあう機会なのです」と語ります。またフランス人心理学者で、ユニセフのためにジェニンで働いているシルヴィー・マンソーも、「パレスチナの子どもたちも、楽しい時間を過ごす権利がある」と付け加えます。赤新月社の庭では、大勢の子どもたちが手を叩き、飛んだり跳ねたりして大騒ぎしながら「大将ごっこ」をしています。お絵描きをする一団もあれば、椅子取りゲームで遊んでいる子どもたちもいます。みんな顔に思い思いのメークをしていて、ほっぺたに花を描いた女の子もいれば、あごに黒いひげを描いた男の子もいます。

 長いカールした髪が特徴の12歳のモハメドは、粘土遊びに夢中で、花や飛行機、戦車を作っています。彼は6人の兄弟姉妹、それに親戚たちと、2部屋しかない家に3週間閉じこもっていました。叔父さんが負傷して、出血が3日間止まらなかったのがいちばんつらかったと言います。でもモハメドは、何も怖くないそうです。「ぼくは神様以外は何も恐れない」と昔から代々続くアラブの言い回しで彼は語ります。

 モハメドやほかの子どもたちは、1年半ものあいだひどい暴力にさらされてきました。家から出られない生活によって、常にのしかかるストレスや不安、心の傷に耐えようとする子どもたちもいます。そのため攻撃的になったり、またモハメドのように周囲を拒絶する子どももいます。

 ユニセフのバインベル担当官は、多くの子どもが心に傷を抱えていると話します。「兵士たちが家を壊し、近所の人たちを一斉に捕まえていったことを絶対忘れない、と小さな女の子が言うのです。」しかし同時に、人びとのたくましい回復力にも驚かされます。「誰もが取り乱し、泣き崩れていると思っていました。ところが実際はみんな穏やかで、威厳を保っています。それぞれがドラマ顔負けの逸話を背負っているのですが。」

 キャンプに暮らす人びとの多くは、水や食料がほとんどない状況で、家から一歩も出られないまま3週間過ごしていました。そのうえイスラエル軍は、キャンプの中心部をほぼ完全に破壊してしまいました。「子どもたちは、自分の家が軍隊によって壊されるのを目の当たりにしました」と赤新月社のダハー氏は話します。「たくさんの死体も見ています。真夜中に、はだしで家から逃げ出さなければならなかった子どももいるのです。」

 赤新月社のホールに入ると、そこは外より静かです。太鼓とオルガンが、かつてレバントと呼ばれていた一帯で古くから伝わってきたダブケという舞曲を奏でます。子どもたちは手をつなぎ、自分たちの足元に気をつけながら、長い列を作ります。腰をおろしてリズムに合わせて手拍子を取る子どももいます。踊りをリードするのは、ボランティアたちです。

 お楽しみデーを支えているのは、18〜25歳の300名以上のボランティアです。ダハー氏によると、ボランティアはすぐに集まったそうです。「必要なら1,000名でも集められましたよ!みんな手持ちぶさたで、何かやりたくてしかたないのでしょう。地域のため、とりわけ赤新月社のような大切な組織のために役に立ちたいと思っているのです。」

 お楽しみデーは、心に傷を負った子どもを見つけることが主な目的ではありません。パレスチナの子どもたちが、友達と遊んだり、希望や恐怖や夢を表現する場を提供することが最大のねらいです。しかしボランティアは、子どもたちが見せる徴候を見逃しません。深刻な問題を抱えている子どもは、心理学者や精神科医に診てもらうことが望ましいのですが、パレスチナ自治区で専門家の助けを得ることは難しいとシルヴィー・マンソーは話しています。

 ユニセフには、心理社会的なケアをしようとする人への訓練や、現在すでに活動している人びとへの支援という大きな仕事があります。ユニセフはジェニンの地域パートナーや、エルサレムの心理社会支援組織と提携して、長期支援プログラムの策定に取り組んでいます。すでにヨルダン川西岸およびガザ地区で、3,000人を超えるソーシャルワーカーや幼稚園の先生、スクールカウンセラーに心理社会的カウンセリングの基礎訓練を行ないました。また、親が子どもに与えられる簡単な心理的サポートを解説したカラー刷りのパンフレット作りにも携わっています。このパンフレットは、非政府組織や食料品店を通じて、また新聞の折り込み用として約10万部が配布されました。

 ユニセフの支援でテレビのスポット広告も13本製作され、地元パレスチナのテレビ局だけでなく、視聴者の多い外国のアラビア語衛星チャンネルでも放送されました。ユニセフと国連難民救済事業機関(UNRWA)は地域のパートナーと協力して、ジェニン難民キャンプにある2つの学校の再開に向けて努力してきました。現在ひとつが再開にこぎつけましたが、通ってくる子どもはほとんどいません。キャンプ内で不発弾が爆発し、児童が犠牲になることを恐れているからです。パレスチナ側の発表では、これまでに少年ひとりが死亡し、子ども6人を含む16人が負傷したと発表しています。これを受けてユニセフは、爆発物の危険を知らせる活動も始めました。

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