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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2000年12月18日 信濃毎日新聞掲載>

勉強と社会復帰支援の「家」
<インド>


子どもたちが激しい身ぶりで駆け寄り、目を輝かせておう盛な好奇心をぶつけてくる。やがて子どもたちが考えた、子どもたちによる劇が始まる。

最初の舞台は、農村の貧しい家庭。父親は時々の日雇い労働で収入は少なく、家族は食事も満足にとれない。母親は水くみ、家事、燃料にする牛ふんやまきの手入れなど朝早くから夜遅くまで働きづめ。子どもは年下の子のお守り、わずかな賃金を得るために地主の家の手伝いで学校へ行くこともできない。

父親は酒を飲み、母親や子どもに暴力を振るいだす。村には都会の情報が入ってくる。大きな家、テレビや映画、にぎやかな繁華街、あふれる商品など華やかなイメージが子どもたちに伝わる。こうして子どもたちが家を出て都会へ向かう。

次の舞台は、都市の路上。都市には出てきたが、守ってくれる家族や知り合いはいない。安心できる家もなく、都市の生活に必要なお金もない子どもたち。路上や空き地が寝床となり、駅や市場で荷物運びなど一日に100円ほどの手間賃をもらい、その日の食べ物を得るだけで精いっぱいの生活。警察官からは追われ、商店主からは嫌われる日々。悪い道に追い込まれる子も出てくる。

そして舞台は「子どもの家」。自由に出入りできる家で、もう追い立てられることはない。ごみ捨て場をあさることもない。初めてする勉強。ソーシャルワーカーが子どもの家族とコンタクトを取り、家に戻る子も出る。

このストーリーは、劇を演じている「子どもの家」に来た子どもたちの実際の話である。「子どもの家」はストリートチルドレンを保護し、子どもたちが勉強と社会復帰の準備を受けることができるセンター。「子どもの家」は決まりごとも、子どもたちが話し合いながら決めていく。

インドのビハール州は人口9200万人。貧困層が住民の53%、小学校に入学しても卒業できる子どもは、男の子で39%、女の子だと5人に1人しかいない。

「子どもの家」は、ビハール州のNGOが、パトナ駅周辺で働いている約3000人のストリートチルドレンのために開設した。ビハール州の児童労働者は90万人といわれているが、小学校に行くことができない子ども1000万人の大半は働いているとユニセフはみている。

「やるべきことは多い」と子どもたちのために16年間働いてきた「子どもの家」の責任者は言う。「子どもの家」を去る時に振り返ると、家の屋根に鈴なりになった子どもたちが、ちぎれるばかりに手を振っていた。

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