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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

インド・グジャラート大地震から1年 〜続くユニセフの活動〜
<インド>

 子どもたちとその家族が、静かに祈りを捧げています。彼らは、地震で亡くなった人たちとより良い未来のために祈っているのです。1月26日はインド共和国の建国記念日で、昨年までは爆竹を鳴らし、歌やパレードでにぎやかにお祝いする日でした。しかし昨年1月26日、大地震がインドのグジャラート州を襲いました。今年、グジャラートではお祝いはありません。静かな祈りだけです。

 「いまも、何かにつけて母さんのことを思い出すの。去年という年がなくて、時間をその前に戻せたらいいのに」と話すラドハは、地震で母親を亡くしました。

 「地震のことはよく覚えてる。校庭で建国記念日のお祝いをしていたら、突然地面が揺れはじめたんだ。爆弾だと思った。走って逃げようとしたら、先生が『これは地震だ。動いちゃいけない』って止めてくれたんだ。地震がどんなものか知らなかったし、地震という言葉も初めて聞いたんだ。家族といっしょに家に帰ったら、家はすっかり壊れてたよ。でも学校で使うかばんのひもが見えたので、かばんだけはひっぱりだすことができたんだ。」これは13歳のスーサンの体験です。


余震が来たので、私は妹の手を握って逃げ出した

 ヴァンヘイ村の小学校は、地震によって教室が激しく壊され、危ないので3日間閉鎖されました。この学校の先生はハリ・パテル先生ひとりだけで、7学年、54人の児童を教えています。学校がなくても教えることができると考えたパテル先生は、数日後、子どもたちを校庭に集めました。そして子どもたちが受けた心の傷を回復できるよう、レクリエーション活動を開始したのです。「最初は全児童の半分しか来ませんでした。また、地震が起こるのではないかとおびえていたのです。でも続けていくうちに、全員が戻ってきました。いまの出席率は100%です。女の子も含めて全員が毎日登校しています。」とパテル先生は誇らしげに説明します。

 地震の被害を受けたほとんどの地域では、入学する子どもの数も、出席率も上がりました。登録されている児童の70%が毎日きちんと登校しています。クラスの男女比は同じです(ユニセフ・モニタリング結果より)。これは、女の子の教育に重点を置いた、ユニセフの支援による入学キャンペーンの成果です。


ヴァンヘイ小学校は出席率100%を誇っている。村に暮らす6〜14歳の女の子は全員学校に通っている
緊急支援の1年

 地震直後は、子どもたちとその家族が生き延びること、つまり、食料と飲料水、避難所、保健ケアを提供することが最優先でした。ユニセフは地震発生から48時間で医薬品を届けてました。それから数週間のうちに、毛布7万5,000枚、防水シート5万枚、さらし粉398トン、飲み水の殺菌剤を20万錠、調理キット1万2,000個と家庭向けキット5万6,000個、飲料水タンク500個、タンク車50台を提供したのです。

 2月に入ってからは、40万人の子どもを対象に、はしかの予防接種とビタミンA補給キャンペーンを開始しました。さらに1か月後には、妊婦に破傷風の予防接種と鉄分補給をおこない、健康診断も実施しています。

 水を供給するシステムの復旧が進まず、夏が近づくにつれて、飲み水の確保が重要な課題になりました。ユニセフは飲料水タンク3,821個とポンプ50基、簡易トイレ1,000台を提供し、地域の女性団体と協力して飲料水の持続可能な管理にあたりました。

教育を柱に

 こうした活動と並行してユニセフは、6月に学校を通常に再開したいとするグジャラート州政府を支援し、2,300か所の小学校にテント8,000基を届けました。こうして地震発生から5か月もたたないうちに、40万人を超える児童にユニセフから通学かばんが提供され、学校に戻ることができました。通学かばんには、ペンと鉛筆、石板、1人掛け用の敷物、ノートが入っています。またテントには、黒板、地図、地球儀、科学キットなどの教材が完備されていました。楽しむことも必要です。音楽とスポーツ用キットも配布されました。地震で心に傷を受けたたくさんの子どもを手助けするため、ユニセフは教師1,400人とNGOボランティア250名に、カウンセリングの訓練をおこないました。教師やボランティアは、子どもの話に耳を傾けるだけでなく、お話や歌、お絵かきといった作業を通じて、子どもに自分の気持ちを表現させる技術を学んでいます。深刻なトラウマ(心的外傷)を抱えた子どもには、心療内科の専門家を紹介できるようにネットワークを整えました。


ユニセフが提供したテントで学ぶ子どもたち。ユニセフが8,000基のテントを配布したことで、地震から5か月もたたない2001年6月14日に、学校は通常の授業を再開した。

 グジャラート州政府をはじめとする協力者によって、多くの学校は修繕や再建が進んでおり、現在ではテントではなくきちんとした建物が使われつつあります。ユニセフは148の学校に、飲料水タンクとトイレを備えたプレハブ校舎を提供しました。またアンガンワディと呼ばれる母子保健センターにも、176か所でプレハブの建物を提供しています。アンガンワディでは妊婦と6歳未満の幼児を対象に、保健サービスや健康と栄養に関する情報を提供します。また、幼稚園の役割も持ち、ユニセフの母子支援活動の中心となっています。


ユニセフはテントだけでなく、子どもたちが昼間に安心して水を飲めるように飲料水タンクを設置した。夏季に日中の気温が50度を超える地域では、水の確保がとても重要になる。

 ブージ・シティからわずか数キロのところにあるマッハパール小学校を訪ねると、6歳から14歳までの子ども約850名が休み時間を過ごしていました。自分たちの学校には校舎が3つもある、と子どもたちは口々に言います。ひとつは地震で被害を受け、現在は閉鎖されている古い校舎。また校庭には、6月から11月まで教室として使用していたテントのいくつかが残され、子どもたちに日かげを提供しています。そして青く塗られた5つの教室がある、清潔で明るい新校舎もお目見えしました。この校舎も含めて、ユニセフは地震の被害を受けた地域148ヶ所にプレハブ校舎を建設しました。サイクロンの強風や、前回よりさらに強い地震にも耐えられる強度に作られています。ユニセフは建物だけでなく、いすと机、黒板、それにさまざまな教材も揃えました。でも校舎を青く塗ることを決めたのは、教師と子どもたちです。


ユニセフが提供したプレハブの新校舎で学ぶ子どもたち。グジャラート州の地震で倒壊・損壊した校舎に代わリ、148棟の新校舎がユニセフによって建設された。サイクロンや地震にも耐えられる設計になっている。

 ユニセフは、グジャラート州政府だけでなく、国連の諸機関、NGO、地域など現場のあらゆるパートナーと協力しています。地震の規模と被害の大きさから、協力体制が不可欠なのです。

 ヴァンヘイ村では、被害を受けた学校をグジャラート政府が修復しました。ユニセフは地球儀や地図、厚紙、音楽キットや科学キットを提供しましたが、それ以上に重要なのは、たったひとりの教師であるパテル先生に、複数の学年を指導する技術を訓練したことです。ひとりで7クラスを受け持つパテル先生は、子どもたちの興味をそらさないよう、個々のレベルに合わせた指導をする必要があります。また彼は、手近な材料を活用して教材を作る方法も学び、月の満ち欠けを説明するために厚紙で月のモデルを作りました。厚紙で作った月を掲げると、子どもたちは目を輝かせて「アマス、エカム、ビージ……プーナム!」と唱えます。パテル先生が3つの教室を同時に見るのは難しいので、低学年の生徒を教えるときは年長の生徒の助けを借ります。7年生のスーサンは、2年生と3年生を受け持っています。彼は教えることが大好きで、学校でそういう立場を与えられたことを誇りに思っています。でも生徒たちが話を聞いていなかったり、おしゃべりしているときには、大きい声を出さなくてはなりません。「僕も先生になって、生徒が勉強に興味を持てるようにしたい。」とスーサンは語ります。彼は地震からわずか数日後には学校にやってきました。6月には、ユニセフが設置したテント教室に移りましたが、「学校の修理ができたので、そっちに戻ったよ。地震の前より立派になっていて、みんなで色とりどりの花輪を飾ったんだ」

 ユニセフは飲料水の設備と、男女別のトイレも学校に設置しました。グジャラート州は干ばつが起こりやすく、夏には気温が50度に達することもあるので、子どもたちが学校にいるあいだは安全な飲み水を飲めることがとても大切です。また州全体の下水道普及率も21%と低いため、トイレも大切です。「しかし…」とパテル先生は付け加えます。「トイレを設置するだけでは十分ではありません。というのも、地元の人はトイレに慣れておらず、なかなか使おうとしないからです。トイレや衛生施設によって、子どもも含め、自分たちの生活がすごくよくなっていくのだ、ということを時間をかけて説明していくしかありません」そこで、ユニセフはまず学校の子どもたちの教育からはじめることにしました。学校で衛生について学び、トイレに慣れておけば、家に帰って両親に話をするでしょう。こうして少しずつ人びとの行動を変えていくのです。地域社会では、子どもたちが変革の原動力になっています。


トイレから出てくる少年。
このトイレは、ヴァンヘイ小学校の校庭にユニセフが設置した。衛生の知識を広めることも教育の重要な柱のひとつ。

 スーサンをはじめ40万人の子どもたちは、まだ困難な生活を送っています。地震で大きなショックを受け、恐怖心がぬぐえない子どももいます。でも多くの子どもたちは、前向きに生きています。1年前の地震を経験して、生活はひどく変わりましたが、子どもたちにとって学校は安心できる場所であり、欠かせないものなのです。

 教育、保健、栄養、飲料水、衛生といった分野で、大幅な改善が報告されています。ユニセフのスタッフ25名が、支援地域の村々を定期的に訪問してデータを集めています。2001年末の時点で、学校の児童は全員が健康診断を受け、継続的な保健サービスも受けています。2001年12月20日には、グジャラート州でポリオ予防接種キャンペーンが実施されました。州内のアンガンワディは78%が通常の活動を再開しており、子どもの定期的な発育観察が92%のセンターでおこなわれています。73%の村に水道管が敷設され、水の確保の基準となっている50リットルの飲料水備蓄を持つ世帯は97%に達しました。飲料水の用意がある学校は全体の61%、トイレがある学校は70%で、いずれも地震前より高くなっています。授業を再開している学校は94%になり、すべての学校に教師が配置されています。子どもの出席率も上がり、クラスの女の子の数も増えました。心理プログラムの恩恵を受けている子どもは12万4,000人になります。ユニセフは地震で孤児になった384人の子どもを対象に経過観察システムをつくりました。これらのデータはすべて、ユニセフのモニタリング活動で集められたものです。


蛇口から水を飲む少年。ユニセフはヴァンヘイ小学校に水道設備を整えた。真夏の気温が高くなるグジャラート州では、学校で水が飲めることがとても大切。地震によって水道網は分断されたため、学校に来た子どもに飲料水を確保することがユニセフの優先課題のひとつになった。

 現在ユニセフは、グジャラート州での活動を地震復興から通常プログラムに戻そうとしています。それはすべての子どものための質の高い教育、妊婦と子どもたちを対象にした保健サービス、水道と衛生施設、子どもたちへの栄養補給や子どもの保護といったものですが、地震直後から行なわれた努力のすべてが、直接・間接的に通常プログラムにつながっています。グジャラート州の子どもたちを支援するユニセフの活動は、今後も続けられます。

◆ユニセフはグジャラート州で50年以上活動を続けています。地震後、この州にはインドへの緊急支援としては最大額の2,500万米ドルの緊急予算が割り当てられました。

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