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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2004年3月18日掲載>

児童のほとんどが親をエイズで亡くしている学校
<レソト>


  レソトの首都マセルから4時間のところにあるマルチ山脈にあるタバ・ツェカ村は、絵のような美しい村です。しかし、ここは観光地ではありません。この村で一番立派な建物は、生きている者のためではなく死者のためのものです。それは、レソト葬儀場です。
 レソトの大地は、一見、緑で潤っているように見えますが、実際は、最後に降った雨も干上がった土地をほとんど潤さず、成長の止まったトウモロコシが干ばつによる不作を物語っています。

 人口220万人ほどの国だというのに、レソトでは、およそ9万3,000人もの子どもたちが、片親や両親をエイズで亡くしています。カトレホン小学校にも、エイズにより孤児になった子どもたちがいます。140人ほどの子どもが片親を亡くし、そのうちの29人は両親をともに亡くしています。多くの子どもが、世帯主として一家を支えています。タバ・ツェカ村は、干ばつの被害が大きかった村のひとつで、地元の人は、干ばつは各地から集まった移住労働者が働いているカツェ・ダムでの高地水道事業のせいだと思っています。そして、今、住民達は、いったん保留にされたマルティ幹線道路が村まで開通したら、今度はHIV/エイズの広まりに拍車がかかるのではないかと心配しています。

 エイズで多くの親が亡くなっていることばかりが原因ではありませんが、カトレホン小学校では、昨年、こうした状況におかれた子どもたちが88人いました。、カトレホン小学校では、意欲と熱意に満ちた先生が団結して、より多くの孤児の子どもを学校へ通わせるように行動を起こしています。小学校は他校のモデルになりました。

 ジュリア・リカマ先生はそんな先生のひとりで、毎年より多くの孤児がクラスに出席してくるのを見てきました。
 「私たちはこのような光景をここ数年、見ませんでした。今は、教育が無料であるおかげで、多くの孤児たちが学校へ戻っています。子どもたちは毎朝、朝食におかゆを食べ、お昼にはパップ(トウモロコシの主食)と野菜、時にはお肉ももらえます」

 学校で孤児たちが大切に世話をされているという話は広がりました。

 リカマ先生は1986年からカトレホン小学校で教えていて、先生は孤児たちの生活の細部まで知っています。なかでも特に先生が気にかけている女の子がいます。16歳のマツィディソ・ラセノコです。彼女は、幼いときに父親を亡くし、母親も2000年に亡くなりました。しかし彼女は、両親は結核で亡くなったと思っています。
 「母親が亡くなって以来、彼女はそう言い続けているのです。彼女はとても頭のよい賢い女の子で、優秀な生徒のひとりでした。だけど、今は成績もあまりよくありません。両親の死はマツィディソに精神的な大きな影響を与えたのです」

 マツィディソは今、お兄さんと一緒に暮らしていますが、収入を得るために人の家の掃除などをしています。その仕事で、彼女は1ヵ月に150ランドの収入を得ます。「それが理由で、彼女は毎朝遅刻して登校するんです」と、リカマ先生は言います。

 マツィディソは人と距離をおき、感情をなくしたかのように見えますが、時に泣いていたりもします。おかしなようですが、“悪いやつらのせいで”彼女は兵士になりたいんだ、と言ったりもします。「孤児はとても繊細なのです」とリカマ先生が言いました。

 孤児は、それぞれが話すべきつらい過去を持っています。ピエキソ・ナペ(15歳)は、学校に行く日は4人のきょうだいと一緒に暮らし、休日にはおばあさんのところへ行きます。ナタビセン・レウタ16歳は、おばさんと一緒に暮らしています。マメロ・パソアネ(19歳)はきょうだいと暮らしています。彼らはみなそれぞれの夢を持っていて、孤児と見られたり、かわいそうだと思われたりしたくないといいます。

 レソトのHIV/エイズ有病率は31%で、世界でも高い割合です。レソト政府はHIV/エイズと勇敢に闘っていると賞賛を受けています。4年前、レツィエ3世国王がHIV/エイズは国家的惨事であると宣言し、大臣たちが「ABC(節制、誠実、コンドームの使用)」を提唱しました。政府が、これに「D」まで付け足したのはやりすぎと言う人もあるかもしれません。政府は、人々がこの「ABC」を守らなかったら「D=死」があると警告したのです。

 レソト、マラウイ、スワジランド、ザンビア、ジンバブエのおよそ300万人の子どもがエイズのために片親か両親を亡くしています。その子どもたちの多くは、年配の親戚に面倒を見てもらっています。また、世帯主となって一家を支えている子どもも多くいます。干ばつ、HIV/エイズ、弱りきった政府の能力という3重苦が引き起こす人道危機を食い止めるために、国連機関によって様々な努力が行われてきました。

 2000年以来、無料となった初等教育がレソトの若者を変えはじめています。ユニセフは、カリキュラム開発の支援を行い、子どもたちは、学校で生活に必要な知識や技術を身に付けたり、HIV/エイズの教育を受けたりしています。また、WFP(世界食糧計画)の支援による学校給食計画を通じて、1日に2食の給食が出ています。

 HIV/エイズが大きな関心事となっているこの国で、マントンタビセン・ラモネ校長先生とその先生たちは、「子どもは学校とコミュニティーの掛け橋だ」と確信しています。そして、実際にそのようになっています。子どもたちはみな、HIV/エイズについてしっかりと認識しています。

 「子どもたちはHIV/エイズについて聞いたときは、とても悲しい気持ちになります。なぜなら、彼らの両親はこの病気で亡くなったと気付くからです」とリカマ先生が言いました。

 特に女の子たちにはHIV/エイズのことがよく知らされています。多くの女子が学校へ通うようになり、ジェンダーの平等に基づいて女子教育運動を推進するユニセフのプログラムが実施されるようになったことがこれを後押ししています。実は、レソトの課題は、男の子を学校へ通わせることです。男の子たちは小さいころから牧草地で働いています。学校が無料であっても(今年は5年生まで)、それは義務教育ではないのです。

 カトレホン小学校の先生たちはアイディアいっぱいで熱気に満ちています。孤児やほかの子どもたちに栄養のことを知らせたり自分自身の食料をつくったりするためのモデル菜園をつくること、劇を通じてコミュニティーにHIV/エイズを知らせること、休日は孤児たちにお弁当を提供すること、中古の服を売ること、銀行口座を開設すること、などなど。

 もし先生たちや国際的なコミュニティーのこうした努力がタバ・ツェカ村で成功すれば、やがては葬儀場ではなく、カトレホン小学校が、村の中で一番立派でもっとも重要な場所になるでしょう。

2004年3月1日
タバ・ツェカ村、レソト(ユニセフ)
ユニセフ・ヨハネスブルグ事務所 広報官 サラ・クロウ

 

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