メニューをスキップ
HOME > 世界の子どもたち > ストーリーを読む
財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

フィリピン:台風24号「ボファ」から数ヵ月・・・子どもたちが栄養不良の危機に

【2013年3月26日 フィリピン発】

© UNICEF Philippines/2013/Bhandari
台風直撃から数週間後、重度の栄養不良による合併症で入院したロングロング君(3歳)。もうすぐダトゥ・ダバオの自宅に戻ります。

大型の台風24号(現地名「パブロ」・国際名「ボファ」)がフィリピンを襲ってから数ヶ月経った今、5歳未満の子ども約6万7,000人が、栄養不良の危険にさらされていると推定されています。社会の貧困層に生きる子どもたちは、特に厳しい状況に置かれています。

ロングロング君(3歳)が、身体を起しています。彼がこうした姿勢を取ることができたのは、この数日で初めてのことでした。お風呂に入ったばかりのロングロング君は、Tシャツとタオルにくるまれて、地区の病院のベッドの上で、鞄にもたれて座っています。

ロングロング君は、むくんだ両足の上までタオルを引っ張り上げ、ブルドーザーの音を真似ながらおもちゃのトラックで遊んでいます。

「彼は今にも死にそうでした」

ロングロング君は、台風の通過直後、全身にむくみが見られました。これは、重度の急性栄養不良(SAM)の兆候のひとつ。彼は、クワシオルコルと診断され、クワシオルコルに伴うことの多い皮膚の変色と剥離による皮膚の炎症も患っていました。

「顔と身体全体がむくんでいました」こう話すのは、保健センターの看護師、ジェシカ・マヒルムさんです。「ロングロング君は苦しんでいました。皮膚は浅黒くなり、皮がむけ、血も出ていました。ひどいやけどのように見えました」

「彼は今にも死にそうでした」

7人家族のロングロング君一家は、先住民族のディババウォン族の出身。コンポステラ・バレー州と南アグサン州の州境にある山間の農村部のコミュニティ、ダトゥ・ダバオで暮らしています。この地域は、台風で甚大な被害を受けました。それにも関わらず、この地域の人々の生活や家畜に壊滅的な影響を与えた台風被害から数ヵ月が経過した今も、ほとんど支援が届いていない状況です。

失った苦しみ

© UNICEF Philippines/2013/Bhandari
ロングロング君の村は、台風で甚大な被害を受けましたが、支援がほとんど届いていません。

「何もかも失いました。家も、とうもろこしやキャッサバ、さつまいもを育てていた1ヘクタールの畑も…」ロングロング君の母親のマリセルさんはこう話します。「子どもたちは元気です。お蔭様で、ここ数週間の雨の影響も受けずに、咳をしたり、風邪を引いたりすることもありませんでした」

この台風で、貧しい農村地域の広い範囲が被害を受けました。これらの地域は、台風の被害を受ける以前から子どもたちの栄養不良率が国の平均を上回り、子どもたちの栄養状況が非常に懸念されていた地域です。台風が襲来した以後、マリセルさんは、米とさつま芋で、なんとかしのいできたのです。

「12月の終わりに、ロングロングの足がむくんでいることに気がつきました。台風の被害を受けてからわずか2週間後のことです」マリセルさんはこう話します。台風の前にも、同じような兆候が村の赤ちゃんにみられていたと指摘します。その赤ちゃんは残念ながら命を落としました。そのために、マリセルさんは、息子の病気の深刻さを知ったのです。

足のむくみがひどくなり、マリセルさんは37km離れたところにある診療所にロングロング君を連れて行く決心をしました。ロングロング君をバイクの後ろに乗せ、夫や他の子どもたちと一緒に泥道の中を3時間かけて走りました。

命を救う看護師

マヒルムさんの迅速な判断が、ロングロング君の命を救いました。彼女は、そのわずか1週間前に、ユニセフとパートナー団体が実施した研修を受けたばかりだったのです。

「研修の時に、ロングロング君のような症状に苦しむ子どもの写真を見ていました。すぐに、その研修を担当されていた医師に、ロングロング君の写真を送りました」マヒルムさんは、その時の様子をこう話します。ロングロング君は、病院に急送され、ロサリア・バタクラン医師のサポートを受けました。バタクラン医師は、各国で用いられている栄養不良の治療プロトコル「急性栄養不良の包括的管理(IMAM)」を、フィリピンの医療専門家に教えています。

「IMAMに馴染みがなく研修を受けていない医師は、こうした症状の子どもたちに点滴を施しがちです。しかし、もし、身体の中に過剰な量の体液があったロングロング君にそうした方法が取られていたら、彼は数時間以内に命を落とすことになったでしょう。」と、バタクラン医師は説明します。

農村地域への支援が急務

過去の経験から、このような規模の災害の後、子どもの栄養不良率が高まることが予測されています。政府機関と国連、NGOをはじめとする開発支援団体によって構成されている台風被害緊急栄養支援チームは、6万7,000人の5歳未満児が栄養不良の危険にさらされていると推定しています。

マリセルさんはじめ44世帯の人々が住むコミュニティは貧しく、また、他の地域から遠く離れた場所にあります。このコミュニティにはトイレがなく、村の人々は、近くの泉から水を引いて利用しています。医療施設もありません。

「台風による甚大な影響を受けた地域の中には、いまだに支援が届いていない場所もあり、深刻な栄養不良の問題が浮上しています」「支援を得るための手段や知識を持っていないコミュニティへの支援が急務です」ユニセフのポール・ザムブラノ栄養担当官はこう話します。

「ユニセフは、緊急栄養支援チームと共に、政府がIMAMプロトコルを迅速に全国各地で実行するよう求めています。すべてのコミュニティで活動する保健員や栄養担当官、看護師、助産師、医師が、ロングロング君のような子どもを発見し、治療し、命を守るための研修を受けることができるのです」(ザムブラノ栄養担当官)

ロングロング君が、ダトゥ・ダバオの自宅に戻る日ももうすぐです。彼は現在、抗生物質を使った治療を受けています。母親のマリセルさんは、重度の栄養不良の子どものための栄養価の高いペースト状になっているすぐに口にできる栄養治療食を一週間分処方されました。ロングロング君は、州病院の財政的支援を受けながら、週に1度、地域の保健施設に通い、経過観察のための定期健診を受け、完全に回復するまで栄養治療食を処方されます。

トップページへコーナートップへ戻る先頭に戻る