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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

≪2005年9月13日掲載≫

HIV/エイズ−ある街の話
<ジンバブエ>


エマのもとに身を寄せる子どもたち

ジンバブエ第2の都市ブラワヨの街外れ。トウモロコシが日照りで枯れはて、墓地では毎日たくさんのお葬式が行われているこの街では、すべてが崩壊しつつあります。穴だらけのさびたブリキで作られた、トイレほどの大きさしかない小屋2棟の中で、71歳のエマは10人の孫と一緒に住んでいます。彼らの親−エマの子どもたち−は全員死んでしまいました。エイズによって無残に引きさかれた家族、できるはずのない重荷を背負わされたおばあさん——ジンバブエのいたるところで、こんな光景がくり返されています。

自分たちで育てたわずかな作物とやせ細った鶏が産む卵、配給食糧に頼って暮らしているエマの家の子どもたちは、ひと目見ただけで全員が栄養失調だとわかります。子どもたちのうち3人はHIVウイルスに感染していると、エマは考えています。母子感染が原因です。

1990年以来、この国ではHIV/エイズによって平均寿命が61歳から38歳まで大幅に下がりましたが、孤児の問題はいっこうにおさまる気配を見せません。いまジンバブエには130万人の孤児がいて、そのうち100万人はエイズが原因で孤児になった子どもたちです。ジンバブエでは、5人にひとりの子どもがHIV/エイズのために孤児になっているのです。そして、そのうちの10人の面倒を71歳のエマがみているのです。

エマを支えてくれる人はほとんどいません。国連機関や非政府機関(NGO)は増える一方の孤児対策で手いっぱい。経済が萎縮する中、政府も保健事業や社会事業のための支出を減らし、海外からの資金援助も事実上ストップしてしまったからです。時おり、コミュニティの団体がトウモロコシを置いていってくれますが、10人の孫たちには足りません。どうすれば孫たちに食べ物や服を与え、学校に通わせることができるのか−エマにとって苦悩の日々が続いています。

「私はこの子たちのためにベストを尽くしています」とエマは2人用のなべで料理をしながら話します。ですが、その気持ちとは裏腹に、彼女の足はどんどん弱くなっています。「でも、私の手には負えないんです」そばでは一番年上で11歳のジャスティスがまきを割り、オスカーが鶏にえさをやり、他の2人の子どもが洗たく物を取りこむのに忙しく働いています。「どうすればこの子たちを学校に行かせられるのしょうか。どうすれば病気にかからないようにできるのでしょうか。でも文句をいっても仕方がないんです」

この5年間、現政権に対する国際的な圧力が高まり、その結果、ジンバブエへの資金援助は大幅に減少してしまいました。2004年と2005年に、ジンバブエは「世界銀行による複数国HIV/エイズプログラム」、「米国大統領エイズ救済緊急計画」、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」といった、HIV/エイズのための主要なイニシアティブからの援助をほとんど受けることができませんでした。

HIV/エイズの影響を最も強く受けているアフリカ南部の地域では、HIV感染者に対するこれら3つの基金からの資金拠出は1人あたり年間平均74米ドルですが、ジンバブエではわずか4ドルにしかなりません。

こうした状況に対して、ユニセフ事務局長は世界のメディアを通じてこう訴えました。「目的を果たすためには他の方法を見つけるべきです。子どもたちを犠牲にしてはいけません」

資金は不足しているものの、状況は少しずつよくなっています。エマの家から車で15分もかからないところで、ユニセフが支援する孤児のためのプロジェクトが始まったのです。毎朝、登校前の子どもたちがここに立ち寄り、弟や妹を預けていきます。まだ小学校入学前の幼い子どもたちは、そこでサラと言うボランティアのお世話になっています。こうして、弟や妹たちの世話をしてもらいながら、親を亡くした子どもたちも学校に通いつづけることができるのです。

クリスティはこの4年間、この託児所を利用しています。両親は幼い妹とまだ赤ん坊だった2人の弟を残して2001年に亡くなってしまいました。現在、クリスティと妹が学校に行っている間、2人の幼い弟は「サラおばあさん」のところで面倒をみてもらっています。

サラおばあさんといっしょに

「わたしたちにはサラおばあさんがいてとても幸運です」とクリスティは言います。「以前は弟たちのお母さん代わりをしなければなりませんでした。でもサラがいてくれるおかげで、学校に行くことができるんです」

英語では学校で一番のクリスティ。そんな彼女も、こうした託児所がなければ他の孤児と同じように、学校をやめなくてはならないでしょう。

「親を亡くした多くの子どもたちの生活に、変化をもたらすことが確かにできます。クリスティは、その力強い一例なのです」ユニセフ・ジンバブエ代表のフェスト博士はいいます。「しかし、クリスティのような子ども全員に手を差し伸べるためには、もっとたくさんの資金が必要です。現在、ジンバブエでは毎日100人の赤ん坊が新たにHIVに感染し、子どもの死亡率も世界で一番早く悪化しています。深刻で複雑な問題ですが、ジンバブエ中の人がHIV/エイズとの闘いに打ち勝とうと強い決意をみせています。しかしそれは、彼らの力だけでできるものではないのです」

ユニセフ・ジンバブエ事務所
ジェームズ・エルダー、2005年3月31日

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