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アフリカ干ばつ緊急募金 第89報
ソマリア:“飢餓宣言”は解除されても・・・

【2012年11月13日 ソマリア発】

イフラ・モハメド・アブディちゃん(生後10ヵ月)は、昨年、国連が“飢餓状態”を宣言したころ(それは、アフリカ大陸で出された約20年ぶりの宣言でした)、イフラちゃんの先祖も何世代にもわたって苦しい状況に置かれて続けてきたいソマリアの村で生まれました。

母親のファトゥマ・ハッサンさんは、自身も極度の飢えに苦しむ中、娘が口にできるものを見つけるのに苦心していました。市場でも僅かながら食材が売られていましたが、高すぎて手が届きません。イフラちゃんは、徐々に衰弱していってしまいました。

しかし、現在、イフラちゃんは元気を取り戻し、笑顔を見せるようになりました。下痢性疾患と肺の感染症に苦しんでいた数ヵ月間。「あの頃のことは、つらい思い出ばかりです」とハッサンさんは語りました。

飢餓の終息が宣言されても・・・

国連は、昨年(2011年)、3年間の雨不足と継続する武力紛争で疲弊していたソマリア南部の数地域が「飢餓状態」であると宣言。その後の状況の変化を受け、2012年2月に「宣言」は解除されました。

しかし、ソマリアに住む200万人以上の人々は、いまだに‘危機的’な状況あるいは‘緊急事態’レベル=人道支援が必要とされる状況にあると考えられています。現在、急性栄養不良に陥っている子どもの数は23万6,000人。うち70パーセントが、ソマリア南部に住む子どもたちです。

今年5月、ハッサンさんは、子どもたちを連れて、ソマリア南部の下シャベル地域南部の村から、首都モガディシュの国内避難民キャンプへの避難を余儀なくされました。

栄養不良の子どもを救う保健センター

© UNICEF Somalia/2012/Pflanz
モガディシュのシガレ緊急総合保健センターで、栄養豊富なペースト状の治療食品「プランピーナッツ」を子どもに与える母親たち。ソマリア南部の保健センターで、ユニセフは、パートナーと共に、栄養不良に対する取り組みだけでなく、保健、水と衛生分野も含む包括的な支援活動を展開している。

モガディシュにあるこの避難民キャンプに着くと、イフラちゃんは、キャンプの中で活動している保健スタッフの手で、すぐにワダジール保健センターに連れて行かれました。この保健センターは、栄養不良の子どもたちを治療するために、ユニセフの支援を受けて、地元NGO(SAACID)が運営しています。

ユニセフは、ソマリア南部全域に1,200箇所以上の保健センターの活動をサポート。過去6ヵ月間に、重度の栄養不良に陥った5歳未満の子ども約9万人の命を救ってきました。イフラちゃんも、こうした支援を受けた子どもの一人です。

「この保健センター以外に、イフラを連れて行けるところはありませんでした」 イフラちゃんの経過観察(定期健診)を受けにワダジール保健センターを訪れたハッサンさんは、こう話します。

「センターの方々がイフラに施してくださった治療のおかげで、娘は一命をとりとめたのです。このセンターの他には、私たちには何もありません。お金もありませんし、娘が口にできるものも、多分手に入れることは出来なかったでしょう」

栄養状態の変化を監視する外来治療プログラム

ユニセフは、外来診療・治療活動も支援。訓練を受けた保健スタッフが、このプログラムを通じ、週一回、子どもたちの栄養状態の変化を監視しています。

この外来で、子どもたちは体重と体温の測定を受け、上腕の腕回りの太さも測られます。この検査は、栄養状態を確認するためのシンプルで効果的な方法です。

栄養不良に陥っている生後6ヵ月以上の子どもの母親には、豊富な栄養素を含むピーナツ・ペーストの治療食も週に一度配布されています。この治療食は、子どもの栄養状態の回復を促すだけでなく、医薬品と併用することで、栄養不良が誘引となる様々な感染症などの発症も予防する一助となります。この特別な治療用食品は、すでにイフラちゃんのような重度の栄養不良に苦しむ数万人もの子どもたちに、大きな変化をもたらしています。

保健と水と衛生−包括的な対策

ワダジールのブリキ板とレンガの壁でできた保健センターでは、看護師たちが、子どもたちに、抗生物質や虫下しを処方。破傷風やはしかの予防接種も行われています。

センターの傍では、母親たちが円座になって、下痢性疾患をはじめとする栄養不良の原因となっている根本的な問題を解決するために、家を清潔に保つための掃除の方法や、生後6ヵ月間母乳だけで育てる完全母乳育児といった重要な習慣を学ぶミニ講習会に参加しています。

「子どもたちの栄養不良問題は、食事を提供するだけで解決できる問題ではありません。包括的なアプローチが必要なのです」ワダジール保健センターの活動を統括している地元NGOのアダン・ハッセン・モハメドさんはこう話します。

ユニセフ・ソマリア事務所のヌル・アリ・モハメド栄養担当官も、栄養、保健、水と衛生の全てを包括的に支援するこうしたアプローチを継続することが非常に重要だと訴えます。

「(ソマリアの)状況は、昨年に比べれば改善しています。しかし、長引く武力紛争の結果、ソマリアが、慢性的な困窮状況にあることを忘れてはなりません」「飢餓状態のような最悪な時に緊急支援を実施しても、状況が改善されたら支援を打ち切ってしまっては不十分なのです。ユニセフが支援している人々の生活は、いまだに非常に貧しい状況です。今なお、毎日、助けを求めている子どもたちがいるのです」