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財団法人日本ユニセフ協会
 



ハイチ地震緊急・復興支援募金 第71報
ハイチ地震から1年
日本人職員 井本直歩子さんの報告

【2011年1月11日】

2010年1月12日、死者およそ22万人を出す大地震に襲われたハイチ。地震発生から1年が経過する今もなお、数十万の人々がテント生活を余儀なくされています。地震被害に追い討ちをかけるように、洪水、ハリケーン、コレラなど多くの自然災害が次々とハイチに襲いかかった現地の状況を、ユニセフ ハイチ事務所で日々支援活動にあたっている日本人職員 井本直歩子さんが、一時帰国中の7日、東京・港区のユニセフハウスで報告してくれました。

度重なる災害・・・子どもたちの笑顔のために

報告会に先立つ昨年末、井本さんが送ってくださった2通のお手紙です。

「暴風雨、そしてコレラ・・・」 12月9日付

 師も走る師走。
 今年は例年よりも師走がさらに早く過ぎていく気がします。
 8月にユニセフ・ハイチ事務所に移って以来、今年1月のハイチ大地震からの復興もままならない中、次々と襲いかかるエマージェンシー(緊急事態)に対応に追われた2010年後半でした。
 9月24日、突然やってきて300余のテントを吹っ飛ばした暴風雨。10月20日から国中をひっくり返したコレラ、そして11月1週目のハリケーン・トーマス。さらに、昨日12月8日は大統領選挙の第1次結果開票日。不正を抗議するデモで町は荒れていて、銃声が聞こえる中、今は自宅待機中です。

 自宅で待機中も、休んでいるわけにはいかないのが現実です。コレラの猛威は、私たちが治安上の理由で動けない間、さらに増していきます。10月中旬にアーティボニト県で発生したコレラは今では全国に広がっており、現在の感染者数は約3万5千人、死者は2000人と報告されています(注:12月24日現在の患者数は63,711人、死者数は2591人)。

 川の水や、食べ物から感染するコレラ。症状は、重度の嘔吐と下痢です。人々は脱水症状になり、すぐに水分を補給できなければ死に至ります。訪れたコレラ治療センターでは、多くの人々が生気を吸い取られたような表情でベッドに横たわっていました。ベッドの真ん中には穴が開いていて、その下に排便用のバケツが置いてあります。患者の半分ほどはまだ小さな子どもたちでした。「大丈夫?」と声をかけると、こちらを見て力なく、コクリと頷いてくれました。

   ユニセフはコレラ治療センターとユニットを国内に70件以上設置し、治療にあたっています。またコミュニティの水の供給源におよそ4500万個の浄水剤を配り、さらに石鹸とポスターを配って手洗いの必要性を啓蒙しています。

 私の所属する教育部門のエントリーポイントは、もちろん学校。ユニセフは全国およそ5000校で、150万人の子どもたちに浄水剤とバケツ、ポスター、石鹸を配り、学校に安全な飲み水を確保し、子どもたちがコレラ予防に必要な知識を理解し、実践するための支援をしています。ユニセフの支援している学校で、「コレラを防ぐのに大切なことは?」と生徒たちに質問すると、「石鹸で手を洗うこと、浄水されている水を飲むこと、食べ物は沸騰した水で煮たものを食べること、トイレを消毒して掃除すること・・・」ときちんと答えてくれました。

 ユニセフは全国の学校のうち、およそ20%の学校を支援していますが、まだ全国およそ1万校が支援を必要としています。そして、まだ、多くの子どもたちが学校に通えないのも現実です。次回の投稿では1月の大地震についてお伝えしたいと思います。

「子どもの教育に望みを託すハイチの人々」 12月30日付

 死者およそ22万人を出した1月12日のハイチ大地震から、およそ1年。
 首都ポルトープランスは、今もまだ痛々しい傷跡を多く残しています。瓦礫の山になった家はまだ多くが残されたまま。まだ100万人近くの家を失った人たちが、避難民キャンプでテント生活をしています。

 ユニセフ・ハイチ事務所は、多くのスタッフが被害を受けた中、地震直後から、保健、水・衛生、栄養、教育、子どもの保護の分野でさまざまな形の復興支援を行ってきました。

 教育分野は、最も多くの被害を受けたセクターのうちのひとつです。およそ5000校が被害を受けました。ユニセフは、地震の直後、いち早く学校を再開できるようにテントや教材を配りましたが、今年の半ばからは最も被害の大きかった学校の中から200校に仮設教室を建設しています。

 

地震直後に配られたテントの学校

 

9月24日の暴風雨によってテントの学校がボロボロに・・・

 10月4日の仮設教室の完成式典の日。元気いっぱいの笑顔 。合計で約2万5千人の子どもたちが蒸し暑いテントの教室から、コンクリートの壁と鉄シートの屋根でできた仮設教室で勉強できることになります。

 

 仮設教室が建てられても、ハイチの子どもたちの環境はまだ厳しいのが現実です。この写真の学校に通う生徒の中にも、キャンプから通っている子どもがいました。

 「下校してから勉強したくても、夜は電気がない」
 「教科書やノートを買うお金がない」

 そして、仕事が見つからない両親を持つ子どもは、学校に行くことさえできません。ハイチでは、公立学校に通う子どもは全体の10%で、他の子どもたちは学費を払って私立の学校に入ります。地震以前の統計では、およそ半分にひとりの子どもが学校に通えないと言われていました。

 ユニセフは、こうした学校にかかる費用の負担を少しでも軽くしようと、10月4日の新学期再開と同時に、72万人の子どもたちに文房具とカバンを配布しています。さらに、教育の質を向上させるため、全国5万人の教師の研修も行っています。

 

 まだまだチャレンジが続くハイチ。それでも、ハイチの人々は子どもたちの教育に大きな望みを託しています。その思いを胸に、私もご両親たち、子どもたちの後押しをしていきたいと思います。

© UNICEF Haiti/2010/Naoko Imoto

枠内写真クレジット全て© UNICEF Haiti/2010/Naoko Imoto

地震が露呈した子どもたちの状況

約38万人の子どもを含む数十万の人々が、いまだに人で溢れた避難キャンプでの生活を送っています。緊急・復興支援活動はいまだかつてないほどの規模で継続されています。しかしながら、ユニセフは、震災から1年が経過し、1月7日に発表した報告書『ハイチの子どもたち:震災から1年−緊急支援から復興までの長い道のり』の中で、復興に向けた活動はまだ始まったばかりであると訴えています。

「特に子どもたちは非常に困難な立場に立たされていましたが、2010年に立て続けに起きた緊急事態によって、さらに大きな影響を受けています。生きる権利、育つ権利、教育を受ける権利、守られる権利が、いまだに十分に守られていないのです。」ユニセフ・ハイチ事務所のフランソワーズ・グルロース-アッカーマン代表はこう話します。

© UNICEF/NYHQ2011-0008/Dormino

「ハイチは、震災に襲われる以前から、制度・体系的に大きな課題があり、緊急支援に対応する以上の支援が求められています。この問題は、ハイチの国家と人々の未来を築くため、更なる構造的な支援を発展・強化するべく、ユニセフを始めとする人道支援団体の必要性がさらに求められているということなのです。」(グルロース-アッカーマン代表)

立て続けに発生している緊急事態に対し、ハイチの人々のための持続可能な解決策を提供する支援活動が必要です。安全な飲料水と適切な衛生施設(トイレ)を利用する人の割合は、震災前から減少していました。適切な衛生施設を利用する人の割合は、1990年は29パーセントでしたが、2006年は19パーセントでした。

みなさまのご支援で

© UNICEF/NYHQ2010-2660/LeMoyne

こうした事態を受けて、ユニセフは、80万人以上の人々のために1万1,300基以上のトイレを設置。毎日、600基以上のトイレが、安全な衛生基準を保つべくユニセフの活動の一環として清掃されています。水と衛生の問題はまだ残されているものの、ユニセフは、水供給システムとコミュニティを基盤とした公衆衛生に力点を置くなど、持続可能な解決策を実行するべく活動しています。

震災直後、ユニセフは、世界保健機関(WHO)やパートナー団体とともに、200万人の子どもたちを対象に、ポリオ、ジフテリア、はしかといった予防可能な疾患に対する予防接種キャンペーンを実施。36万帳の殺虫処理済みの蚊帳を、マラリアが流行している南部の沿岸地域に暮らす16万3,000世帯以上の人々に配布しました。

緊急支援活動において、ユニセフは、パートナーとともに、毎日約68万人の人々に、平均830万リットルの飲料水をトラックで運び提供。また、現在も猛威を振るっているコレラの流行に対して、ユニセフは、首都とその周辺地域の300万人に安全な飲料水を届けるべく、10.9トン以上の塩素と4,500錠以上の浄水剤を提供しています。

ユニセフは、子どもたちの登録と家族と離れ離れになった子どもたちとの再会事業も支援しています。また、国内・国際NGOとともに、被災地全域に9万5,000人近くの子どもたちのために369施設の子どもに優しい空間を設置。ジェンダーを基盤とした暴力、人身売買を防ぐための活動も開始しました。現在までに4,948人の子どもたちが登録され、1,265人の子どもたちが家族との再会を果たしました。

また、パートナーとともに、学校や臨時テントを設置し、教育資材を提供。72万人の子どもたちが授業を再開しました。子どもたちの中には、初めて学校に通う子どもたちもいました。しかしながら、ハイチの子どもたちの半数以上が学校に通っていません。残った瓦礫や保有地に関する問題が、学校建設の課題となったままなのです。

© UNICEF/NYHQ2010-2699/LeMoyne

今回の地震によって、5歳未満児の3人に一人が慢性的な栄養不良であるといったハイチの子どもたちが直面している深く構造的な問題が浮き彫りとなりました。ユニセフは、パートナーとともに、乳児やその母親の特別なニーズに合わせた栄養補助食品を提供しています。今年半ばまでに、107の赤ちゃんに優しいテントのネットワークが整い、栄養に関するアドバイスや母子のカウンセリングが提供された他、安心して母乳を与えられる場所も確保されました。現在までに、10万2,000人以上の子どもと4万8900人以上の母親が、栄養についてのカウンセリングや情報を受け取るなどこうしたサービスを享受しています。

「昨年実施した活動の成果は見られるものの、いまだに大きな格差が存在しています。国連機関、NGO、民間機関、市民社会、そして政府は、更に連携して活動していかなければなりません。ユニセフは、日々の生活にも苦しんでいる農村部の人々や震災でいまだに避難生活を余儀なくされている状況を解決するため、子どもと女性たちのために全力で活動を続けていきます。」「ハイチの子どもたちは、教育を受け、十分な栄養と清潔な水を与えられ、安全な衛生環境で生きる権利を持っています。搾取や病気から守られる権利を持っているのです。信念と支援があれば、回復と発展は可能であり、こうした目標は実現できると信じています。」(グルロース-アッカーマン代表)

1周年レポート

みなさまの温かいご支援により、ユニセフは、地震発生直後から様々な支援活動を展開することができました。しかし、地震発生以前から、様々な困難に直面していたハイチの子どもたちが置かれている状況は、井本さんの報告にもあったように、まだまだ予断を許しません。みなさまのご支援で実現した成果と今後の課題を、ユニセフは「1周年レポート」という形でまとめました。

ぜひ、ご一読いただき、ハイチを子どもにふさわしい国として立て直していくために、復興のプロセスの中心に子どもたちを据えることの大切さを知っていただければ幸いです。

引き続き、ハイチの子どもたちへの息の長いご支援の程、よろしくお願いいたします。