財団法人日本ユニセフ協会




イラク南部:略奪された上下水施設と回復のための努力

【2003年5月12日】
 現在、ユニセフはイラク国内に1日67台の給水車を送りこんでいます。この数は、日々増えており、まもなく、100台にまで増やせるだろうと期待しています。

 67台の給水車(およそ1台あたり3万リットル)は、1日に201万リットルの水を運んでいます。これまでにユニセフは2000万リットルの水を運んだことになります。(初日は1日に3台の給水車からスタートしました)

 サフワンとその周辺の地域には、5万人の住民がいます。この人口のうち4万人がユニセフの給水に完全に頼っています。サフワンの人びとの水の状況がこれほどまでに絶望的なのは、不法に水道管から水が盗み取られているからです。中には、大量の水を抜き取って、それを市場や氷工場などに売っている人までいます。

 ユニセフは、水道のパイプの修復をはじめようとしていますが、そのためには同時に住民の理解と法執行をすすめる必要があります。そうでなければ、せっかく修復したパイプは略奪者によってすぐに穴だらけにされてしまうことでしょう。

 バスラにいるユニセフ広報官ジョフリー・キールは、この地域で10万人の人びとに水を供給している最大の水道局のひとつを訪れました。そこは、完全に略奪されており、配線、ドア、窓枠まですべてのものが奪い去られていました。水道局に動力を送っていた巨大なエンジンはすべて持ち去られていました。彼らが着いたとき、略奪者たちはまだそこにいて、エンジンを保護していた巨大な金属製の覆いまで持ち去ろうとしていました。

 ユニセフは、この水道局のチーフエンジニアと会いました。彼は起こったことに怒り狂っていました。どんなにか人びとが水に困っているのか知っていながら、続く略奪のために何もできない。彼は、フラストレーションと絶望を私たちにぶちまけました。多くのイラク人と同じように、彼は、略奪がみなが見ている中で行われているにも関わらず、行動しようとしない米英軍を非難しました。略奪は、目に見えるところで、広く行われているのです。

 また、バスラにはほとんど朽ちかけているような下水処理施設があります。しかし、そこも略奪の被害にあっていました。施設はきちんと機能しておらず、処理されていない汚物のほとんどがそのまま水路に流れ出しています。こうした水路は他のかんがい用の水路に注いでいるだけでなく、そこに住む住民の入浴や洗濯、飲み水にも使われているのです。

 こうした状況下では、バスラの子ども・産婦人病院の患者の80%が下痢にかかっている理由は明らかです。

 ユニセフは、バスラからクウェートに、再充填のために100本の塩素ガスシリンダーを持ち帰りました。また、200トンの塩素ガスをバスラに送ろうとしています。(もう200トンはナシリヤへ届けられる予定です) ユニセフは、10万個の塩素錠剤を病院や基礎保健センターなど用に輸送中です。

 また、ユニセフは、来週から上水道施設や下水施設の修復をはじめるための準備をはじめつつあります。しかし、こうした施設を略奪から守るために、治安が確保されなければなりません。治安なしでは、すべてがまた無に帰することになってしまうのです。

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不衛生な水によって、健康を害する子どもたち

【2003年5月10日 バスラ/アンマン】
 衛生的な飲み水の不足により、イラク南部の無防備な国民は脅威にさらされています。無防備な国民−それは、子どもたちです。

 12年にわたる経済制裁と2度の戦争による長年の援助不足のせいで、上下水施設はひどい状態にあります。そして今回のイラク攻撃直後には、多くの揚水場と浄水場では、必要不可欠な装置類が、手段を選ばず手当たり次第奪っていく略奪者の標的となりました。

 バスラからサフワンへ通ずる道沿いには、水不足のために、不法に水道管を切りつけているコミュニティがあります。「彼らは、水道管のつなぎ目に弾丸を打ち込んだり、たたいて穴を開けたりして水を得るのです」と、バスラにいるキャスリン・アーウィンは言います。この影響で水の圧力が下がり、サフワンにいる人びとまで水が供給されなくなっているのです。

 バスラでは、下水処理施設が適切に機能していません。汚水は処理場で処理されないまま水路を通って砂漠に流れ込みます。「水路を流れる途中で、コミュニティの人びとが飲み水や入浴に使うかんがい用水路にしみ出てしまうのです」とアーウィン。

 彼女は、水の消毒のための塩素ガスが急激に不足しつつあるので、子どもたちの健康をさらに悪化させる危険があると付け加えました。確かに、バスラにある塩素の保管倉庫には、あと2週間分のたくわえしか残されていません。

 バスラの子ども・産婦人病院アル・ガズウィアンでは、大勢の子どもたちが下痢に苦しんでいます。9ヶ月になる男の赤ちゃんが過去数ヶ月の間に15回も下痢を繰り返したのです。その赤ちゃんはひどい栄養不良になってしまいました。私たちは18件のコレラ患者の報告も受けています。「一人を除いて全員が5歳以下の子どもです」と、アーウィンは述べています。
 「不衛生な水の問題は単純な結果をもたらします。幼い子どもは免疫力が発達段階にあり、体重もそれほど重くありません。不衛生な水によって、下痢を繰り返したり、コレラに感染したりしたら、彼らが命を失うのはとても早いのです」。

 ユニセフの給水チームは、毎日清潔な水をタンクにつめて、クエートから1日平均50台の給水車を送っています。技術者たちは、現地の水道技師たちとともに水タンクの設置をしたり、イラクのボロボロになった水道設備のポンプや装置の修理をしています。下痢にかかった子どもたちの治療のために、ユニセフはこの地域に急遽ORS(経口補水塩)を20万袋用意し、さらなるコレラの広がりに対応できるようにしました。

 バグダッドのアルサドゥル・シティ(旧サダム・シティ)の病院では、同じように下痢の症状が報告されています。病院はどこも大変混雑しています。子どもたちはしばしばひとつの病棟に一緒に入れられています。医者は、これは感染症が拡大する理想的な環境だと言います。

 ORS(経口補水塩)250カートンを含むユニセフの支援物資がバグダッドについたのは木曜の夜でした。同じくバグダッドで、ユニセフは、下水網の整備不足によってもれた汚物と排水溝をきれいにするためのポンプ車と契約しています。こうした問題は市内のいくつかの地域で深刻な問題になっており、それは貧困地区に限ったことではありません。また、1日あたり15台のトラックが、特に危険度の高い地域でごみの回収を続けています。

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募金のお願い

 ユニセフによるイラクへの緊急支援を求める発表を踏まえ、日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を開始します。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。