財団法人日本ユニセフ協会




イラクの子どもたちのためのユニセフ緊急支援

最新活動報告
2003年7月1〜15日

【背景】

学期末の算数の試験を受ける6年生アル・シャルキヤ中等学校にて(2003年7月)

7月13日にイラク統治評議会が開催され、イラク人の大臣任命、憲法の改革、民主的選挙の可能性への希望を高めた。しかしながら、国内の治安状況は相変わらず不安定で、連合軍は毎日のように攻撃の対象となっている。モスルとバスラで起きた、国連施設近くでの出来事により、移動面での規制が強化され、国連スタッフの移動も影響を受けている。南部では、人道支援機関と契約しているトラックがハイジャックされるケースがまだ続いている。

【課題】

すべてのセクターにとっての障害

地域によっては治安が確保できない場所があるため、ユニセフの支援チームはバグダッド以外の地域に出かける許可がおりずに困ることがたびたびある。その結果、人道支援を待ちわびている人たちがいる一方で、本来の事業に遅延が起き、調査もサービス提供も遅れをきたしている状態である。

すべてのセクターにわたって、交通・通信手段が欠如し、事業の円滑な遂行ができないでいる。政府レベルでは、バグダッドにある省庁と、郊外にあるサブ・オフィス(地域事務所)との間でコミュニケーションがうまく図られておらず、プログラムの効果的、効率的実施に支障をきたしている状態である。また、スタッフやメンテネンス(保守管理)チームをプロジェクト実施の場所に送り込むのでさえ、交通手段と燃料が不足しているために高くつき、省庁では頭を悩ませている。

給料の未払いのせいで、基礎的サービスを提供する施設では、職員が出社せず、ユニセフのプログラム支援でも電力供給不足などが大きな支障となっている。

【過去2週間の間のユニセフ優先項目】

水と衛生

・ 給水活動を継続し、浄水剤を供給する
・ 水道網、上下水道の浄水場復旧を計画通りに進める
・ 水質のモニタリングを実施する

保健と栄養

・ 定期的予防接種プログラムを全面的に復旧させる
・ 下痢性疾患を抑制する
・ PHC(プライマリー・ヘルス・センター=基礎保健施設)で母子保健プログラムを再開する

教育

・ 最終試験をバックアップする

子どもの保護

・ NGOの協力のもと、国際機関の間で子どもの保護に関する調査を実施する
・ レクリエーション・キットや地雷危険回避教育用の資材を提供することによりNGOのサマーキャンプを支援する。

【活動

水と衛生

〜給水と水の品質への対処〜

インフラの崩壊、戦災、浄水施設での略奪、並びに電力供給の不安定さの中にあって、給水車を使った給水活動を優先的に行わなければならない状態にある。ユニセフの支援活動を通じて、バグダッドの34の地区には毎日470万リットルのきれいな水が提供されている。

人口のわずか50%にしか水道が行きわたっていないバスラを始め、ウムカスル、ズバイル、サフワン、アブール・カシブ、ファオで、ユニセフは毎日100台の給水車を出し、平均320万リットルを給水している。給水車を導入してから、南部の州では15個の簡易タンク(膨らますタイプの袋状のもの)が設置され、7月には、南部地域での給水活動を円滑に進めるためにさらに6個の簡易タンクを設置した。ユニセフは、国際NGOと合意し、ムタナ州に2カ月の間、毎日55万リットルの飲み水を提供するため、給水活動を始めることにしたが、この活動により10万人が恩恵を受けることになる。

水質問題に対処するため、バグダッドにさらし粉300トンと共に1,000トンの硫酸アルミニウムを供給した。南部のさらに南のほうにまで供給が行きわたるように、ユニセフはバスラ州の浄水場にこうした化学薬品を配送し、そのほか3つの州に化学薬品を提供するためのフォーカル・ポイントとなるよう、バスラ水道局の倉庫マネージャーに資金を提供している。中央・南部の州には、総量700トンの塩素ガスを提供した。

イラク国内で燃料不足が続いていることから、ユニセフでは浄水施設で使用する燃料の購入と輸送の支援を行ったが、これは週に平均150万リットルに及んでいる。

南部の州では、ユニセフ/NCA(ノルウェー・チャーチ・エイド)主催により、携帯型水質検査キットについての研修を行った。南部4州からは、環境局と水道局のスタッフが出席し、各州3つの携帯型水質検査キットが無料で提供された。南部の南のほうにまで配布が行きわたるよう、さらに13キットが追加注文され、到着を待っているところである。これにより水に塩素が含まれているかどうか、また細菌に汚染されているかどうかの正確な検査ができ、化学薬品の添加量も調整できるようになる。

〜水と衛生施設の復旧〜

バグダッドでの復旧事業を実施するための新しい入札が行われたが、これにはバグダッドの2つの主要な浄水場、アル・カルクとアル・カラマの復旧と、市の3つの水道ポンプ局の復旧が含まれている。バグダッドに設置されている50以上のコンパクト・ユニットの復旧に向けて、やはり入札が行われた。

新しい復旧プロジェクトの準備が進む一方、例えば、バグダッドの80以上の下水ポンプ局などですでに開始された復旧事業は今も継続している。また、ユニセフでは、バグダッドのジャドリヤ地区で崩壊した下水パイプを修理。2,000箇所に及ぶ破損個所を修理した。

バグダッド郊外でも修繕・復旧作業は続いている。上述したが、南部地域では浄水用の化学薬品を多量に使用しているが、インフラが老朽化しているために、細菌の繁殖、水の高度なにごりを抑えるには充分ではない。ユニセフはそこで、水道局の9つの修繕チームに対して一通りの道具が揃ったツール・キットを提供した。このチームは水道ネットワークの修繕にあたり、水道水がより多くの人たちに行きわたるよう努力している。水道の漏れや修繕を必要とする個所のマッピング・システムも導入され、プログラムのモニタリングも行われている。今までのところ332個所の漏れが見つかり、78個所が修理された。

ユニセフではバビル、カディシヤ、ナジャフ、ケルバラ州の39の上水・下水プロジェクト並びに、サラジンとメイサン各州での15の上水・下水プロジェクトを復旧させるため、現在工事見積もりをとっているところである。

詰まった下水道を治すキャンペーンが、バグダッドの6つの地区—バラディヤト、カラダ、アル・ラシド、アル・カルク、モンスール、タウラーを含む地区で実施された。

〜近隣の清掃〜

ラサファ、アダミヤ、アル・ラシードの各都市でゴミの収集キャンペーンが続けられた。これは、中央・南部の州の都市部にも拡大されている。ユニセフは、地区やサブ地区でも、同様のキャンペーンを繰り広げられるよう、調査を支援しているところである。

〜電力不足問題に対する支援〜

電力不足が水と衛生のセクターの復旧努力を阻害していることから、ユニセフでは、電力供給システムの復旧にも力を貸すことになった。これには、道具、車の修繕、サブ電力発電所の保守チームに対する支援などが含まれる。ユニセフは、イラク電力供給委員会に対して、必要な支援の詳細を提供するよう要請している。

保健と栄養

〜予防接種、下痢性疾患の抑制、妊産婦保健〜

ユニセフは、ここ2週間、予防接種プログラムの完全復旧に力を注いできた。7月中旬には、今年3月中旬〜6月中旬にかけての予防接種を受けることができなかった子どもたちに向けて、予防接種キャンペーンが始まる予定である。ユニセフは、コールド・チェーン機器、並びにバグダッドと南部の州の保存倉庫の復旧と修繕を続けてきた。定期予防接種が実施できるよう、中央・南部の州のすべてのプライマリー・ヘルス・センターに対してはワクチンが配布されたが、同時に来る3カ月分のワクチンを備蓄できるよう、追加のワクチンも提供された。しかし、予防接種活動にも課題があり、遠隔地の農村部では、治安状況が悪く、親たちが子どもを予防接種に連れて来ることを怖がり、また、移動型の予防接種チームが家庭に来ても、見知らぬ人に対しては、家の扉さえ開けない状態があり、困難を極めている。ユニセフの保健チームは、遠隔地の子どもたちにどう予防接種するかを検討しているところであるが、治安問題が改善されるまでは、なかなか難しそうである。

ふたつ目の優先事項は下痢性疾患の抑制のプログラムを実施することであった。下痢性疾患を抑制するため、バグダッドと南部の州には170万袋のORS(経口補水塩)が配布され、病院のORTコーナーを設置し直すため、機器が供給された。一方、保健員や新たに採用された医者に対する下痢性疾患に関する研修や、既存の医療スタッフに対する同様の研修にも力が入れられた。

保健面での第三の優先事項が、プライマリー・ヘルス・センターでの母子保健プログラムの復興である。母子保健プログラムは1980年代半ば以来、イラクでのユニセフ・カントリー・プログラムの主要な要素となっており、妊産婦死亡率を下げることを目的としている。この事業の焦点は、保健員や医者による母子保健サービスを向上させ、能力開発を行うことにある。2002年からは、母子保健プログラムに、妊産婦の緊急ケアも組み込まれている。

定期予防接種の復旧と下痢性疾患の抑制が順調に進んでいる中で、ユニセフは母子保健プログラムの復旧に取り組み始めており、中核となるトレーナーの研修の実施から始め、順次、プライマリー・ヘルス・センターの保健員へと拡大して行く予定である。

〜栄養〜

栄養面では、コミュニティ・子どもケア・ユニット(CCCU)の復旧への努力が継続されている。7月の終わりまでには、さらに300以上のCCCUが機能し始め、これらのCCCUを運営する1,000人以上の保健員やボランティアが研修を済ませることになっている。

さらに、1,5000トンの高タンパク・ビスケットを国内中のPHCやCCCUに配給し、3,400トンが注文され、到着を待っている。栄養不良を治療するための強化ミルクも20トン注文された。

マスコミそのほかのチャンネルを使って、ユニセフの全国母乳育児推進キャンペーンが活発に行われている。

栄養セクターの主導的な機関として、ユニセフはWFP、WHO、ケアと協働して、
供給品、プログラム基準、地理的な面での適切な配給を可能にするための合意を取り付けている。

教育

治安が不安定な中にありながら、約550万のイラクの子どもたちがユニセフの支援を受けて、最終試験に臨むことができた。戦闘中、あるいは治安の悪化の中で、2カ月の間、学校に行くことができなかった子どもたちの状況を考えると、最終試験が実施できたことは、イラク教育省やユニセフは言うに及ばず、子どもたちにとっても、家族たちにとっても大きな業績だと考えられる。

ユニセフは教育省を陰ながら支え、試験実施を通し、戦争の被害がこれ以上子どもたちの生活に影響を与えないようにした。ユニセフ支援は試験用紙の印刷と、試験の問題集、文具、ボールペンの全国的な配布の形で行われた。ユニセフはまた、コンピュータとコピー機を教育省に提供。試験に間に合わせる形で子どもたちを学校に戻すためのラジオやテレビ・キャンペーンを製作した。中部・南部の1,000校については調査が進行中で、100校の復旧が行われている。学校の復旧に関しては、初等教育のほかの面と合わせて、ユニセフが主要な調整役となっており、全国から集まって来るデータや情報を主要な関連パートナーに提供している。また、教育省の教育管理情報システム(EMIS=Educational Management Information System)の立て直し支援への努力も始まっており、イラクでの教育プロセスを元に戻す意味で重要な支援となっている。

徐々に状況が正常に戻るに従い、ユニセフは近い将来、「子どもに優しい学校」、若者向け<特に女の子>の学校外教育(非公式教育)、教師向けの研修プログラムを再開したいと思っている。これらの活動は、復興だけでなく、内容的にも事業実施範囲としても拡大される予定である。

子ども保護

ユニセフは、保健省、労働・社会問題省、イラク医学会、NGOといった主要なパートナーを巻き込んで、心理社会プログラムの創設に着手した。これは、戦争とその後の混乱の中で、強い心理社会的なストレスにさらされた子どもたちを保護するための処置である。心理社会的な支援は、子どもたちが普通の生活を取り戻す助けとなり、戦争中体験したストレスを少しでも軽減することができる支援なのである。

ユニセフが主導的な役割を担い、5つのNGOが参加して行っている子どもの保護に関する全国的な調査も精力的に始まった。5つのNGOチームはイラクの子どもたちが直面している主要なリスクについてのデータ収集や家族やコミュニティに存在する受け入れメカニズムについての情報を集め始めている。こうした情報は1年を通して集められ、年末には国が発行する子どもの保護報告書にまとめられる予定である。

ユニセフの支援のもと、ダル・アル・ラーマ・センターに住み込んでいたストリート・チルドレンたちは、新しくなった「チャイルド・ホーム」に引越し、より良いケアと心理社会的な支援が得られるようになった。ストリート・チルドレンを支援するために、NGOの協力のもと、イラク国内では初となるドロップ・イン・センターがバグダッドに作られた。バグダッドでは、NGOとの協働で、「子どもに優しい空間」も作られており、コミュニティの熱狂的な反応を得ている。

地雷危険回避教育(MRE)は、南部の州で実施されており、何千ものチラシ、ポスター、「危険物報告書」の書式が、バスラ地域の人たちに配られた。
ユニセフは5歳から18歳の子どもを対象にしたサマーキャンプを支援しているが、これは9月の初めまで続けられる。ユニセフはレクリエーション・キットと地雷危険回避教育に使う資料を提供している。サマー・キャンプは1週間単位で行われ、子どものレクリエーションのほかに、衛生教育、地雷危険回避教育、芸術、工芸、スポーツなどの活動を提供する。

【影響】

イラクの人たち自身が、戦闘の影響から立ち上がり、子どもたちの教育を通して未来に向けて歩み出そうとする決意のもと、6月終わりに始まった最終試験は今週、成功裏のうちに終わった。国レベルで行われたこの試験の成功は、イラクの子どもたちのために実施されるそのほかの国家事業を円滑に進めるのに役立つと言える。

定期予防接種は順調に実施されており、下痢性疾患を抑制するための活発な支援を考えれば、流行も抑えられ、一定の線に納まるものと思われる。これはイラクの保健システムの回復に向けて、段階的に向上が見られている証拠であり、ユニセフと保健省が、「妊産婦の安全な出産」に関するプログラムの復興など、新しい復興事業に取り組める可能性を示唆しているものである。

イラク国内は未だ治安面での障害が残っているが、水と衛生施設の復興などで、新たなプロジェクトが次々と始められている。

2003年7月15日現在の財政状況

緊急支援要請 (2003年4月〜12月)
目標: 182,700,000 米ドル
  拠出が約束された額 拠出額 総計l
米国   23,000,000 23,000,000
日本   15,285,822 15,285,822
英国   11,146,520 11,146,520
ECHO   6,461,963 6,461,963
カナダ   6,085,910 6,085,910
オーストラリア   5,834,420 5,834,420
ノルウェー 1,655,172 2,040,100 3,695,272
オランダ   3,000,000 3,000,000
フランス 2,152,853   2,152,853
イタリア 656,620 958,023 1,614,643
ベルギー   1,179,328 1,179,328
アイルランド   1,087,060 1,087,060
スペイン   1,076,430 1,076,430
デンマーク   1,014,510 1,014,510
韓国   1,000,000 1,000,000
フィンランド   753,501 753,501
スウェーデン   600,250 600,250
ルクセンブルク   460,828 460,828
AGFUND 300,000   300,000
ギリシア   200,000 200,000
ポルトガル   109,769 109,769
トルコ   100,000 100,000
スロバニア   72,143 72,143
アンドラ 65,862   65,862
リトアニア   31,791 31,791
       
小計(政府) 4,830,507 81,498,368 86,328,875
       
国内委員会      
日本ユニセフ協会   7,000,000 7,000,000
ドイツ   5,575,950 5,575,950
アメリカ   2,346,000 2,346,000
イタリア   2,254,286 2,254,286
英国   1,817,509 1,817,509
フランス   1,600,418 1,600,418
オーストラリア   1,139,678 1,139,678
カナダ   905,981 905,981
デンマーク   590,840 590,840
オランダ   484,394 484,394
スペイン   460,838 460,838
ホンコン   448,603 448,603
ベルギー   388,097 388,097
フィンランド   325,055 325,055
韓国   300,000 300,000
アイルランド   250,000 250,000
ノルウェー   227,778 227,778
ポルトガル   215,286 215,286
オーストリア   137,142 137,142
スロバニア   114,842 114,842
       
小計(国内委員会)   26,582,697 26,582,697
       
国連機関   96,600 96,600
その他   430,169 430,169
       
総計 4,830,507 108,607,834 113,438,341

イタリア 公式に約束されたが、まだ拠出として受領していない額 $656,620


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募金のお願い

 ユニセフによるイラクへの緊急支援を求める発表を踏まえ、日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を開始します。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。