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公益財団法人日本ユニセフ協会

資料・刊行物 プレスリリース

「お母さんの命を守る」
国連機関の報告書で着実な進展
未だ1時間に33人の妊産婦が死亡

【2014年5月6日 ジュネーブ/ニューヨーク本部発】

生後7カ月になる双子の赤ちゃんと母親。(シエラレオネ)
© UNICEF/SLRA2013-0894/Olivier Asselin
生後7カ月になる双子の赤ちゃんと母親。(シエラレオネ)
子どもたちは重度の栄養不良状態だったが、治療を受けて回復した。

国連の最新データによると、妊産婦死亡率が1990年から45%減少したことが明らかになりました。妊娠・出産中の合併症が原因で死亡した女性の数は、1990年の約52万3,000人から、2013年には約28万9,000人に減少しています。

また、妊産婦の死因における新しい事実が、世界保健機関 (WHO)による研究で判明し、世界的医学雑誌『ランセットグローバルヘルス』で発表されました。WHOの体系的な分析によると、世界の妊産婦死亡原因の4分の1が、もともと患っていた糖尿病、HIV、マラリア、肥満などの病気に起因することが判明しました。これらの病気をもともと患っていた患者が妊娠すると、症状がさらに悪化する可能性があります。この数字は、妊娠・出産時に出血多量で死亡する割合に近い値です。

「これらの最新のデータより、すべての妊産婦への高精度な医療の提供や、病気を患っている妊婦への特別なケアなど、すでに効果が実証されている解決策に重点を置く必要性があることが明らかになりました」と、WHOの家族・女性・子どもの健康事務局のフラビア・ブストレオ事務局補は述べています。

正確なデータの重要性

「1時間あたり33人の妊産婦が亡くなっているというのは、あまりにも多すぎます」と、世界銀行グループ 健康・栄養・人口局のティム・エヴァンス局長は話します。「これらの、悲劇的な死のひとつひとつを、文書に書きとめ、死因を特定し、緊急に是正措置を行っていく必要があります」

着実な進歩

母親の手に抱かれる赤ちゃん(シエラレオネ)
© UNICEF/SLRA2013-0821/Olivier Asselin
母親の手に抱かれる赤ちゃん(シエラレオネ)

1990年から2013年の妊産婦死亡率推計には、2012年発表版には含まれていなかった新しいデータが含まれ、出生数とすべての女性の死亡数を推計するための、改良された算出方法が用いられました。

1990年に妊産婦死亡率の高かった11カ国(ブータン、カンボジア、カーボヴェルデ、赤道ギニア、エリトリア、ラオス、モルディブ、ネパール、ルーマニア、ルワンダ、東ティモール)は、2015年までに1990年の死亡率の75%を削減する「国連ミレニアム開発目標(MDG)」を既に達成しています。しかし、最新のデータによると、多くの低・中所得国はこの目標を達成することは出来ない見通しです。

サハラ以南のアフリカは、妊娠・出産中の合併症で死亡するリスクが、依然として世界で最も高い地域です。

「サハラ以南のアフリカに住む15歳の少女が、生涯に妊娠・出産で死亡する確率は、およそ40分の1です」とユニセフのジータ・ラオ・グプタ事務局次長は話します。「一方で、ヨーロッパに住む同年齢の女の子の、生涯に妊娠・出産で死亡するリスクは、3,300分の1です。地域や国によって、いかにバラつきがあるかは明らかです」

過去20年間さまざまな進歩があるなかで、思春期の妊娠、中絶、妊産婦の死亡、性感染症とHIVの予防に関しては、ほとんど改善がみられません。また、特に低所得国の若者の、包括的な性教育やサービスに対する、利便性や品質、アクセスには大きな格差が存在しています。

「15歳から19歳までの1,500万人以上の女の子が毎年出産しています。女の子の5人にひとりは、18歳になる前に出産します。そしてこれらの妊娠の多くは非合意の性行為によるものです」と国連人口基金(UNFPA)のケイト・ギルモア事務局次長は強調しました。「助産ケアや性暴力の防止・対処など、比較的難しくなく、すでに実施されている方法がさらに普及し、特に避妊具などの技術革新が伴えば、大きな変化を生むことができます」

死因に関する新しい事実

115カ国、6万人以上の妊産婦の死因に関するWHOの研究では、妊娠する前から患っていた病気(糖尿病、マラリア、HIV、肥満など)が、妊娠によって悪化したことに起因する死亡が、全体の28%を占めていたことを示しています。

その他の妊産婦の死因とその割合

  • 出血多量(主に出産中および出産後)27%
  • 妊娠高血圧症14%
  • 感染症11%
  • 停止分娩やその他の直接的な原因9%
  • 中絶による合併症8%
  • 血栓(塞栓症)3%

適切な医療従事者の配置と、適切な機器や医薬品のある施設を持つしっかりとした医療システムは、妊婦と新生児の命を守るための高精度な医療を提供する上で重要です。
「新しいデータは、妊産婦の死因が変化してきていることを示しています。世界中で女性の非感染性疾患が増えていることが明らかになっています。予防可能な妊産婦の死をなくすためには、妊娠合併症の減少にむけた継続的な取り組みだけでなく、非感染性疾患そのものや、非感染性疾患が妊娠へ与える影響に焦点をあてることが必要です。糖尿病や肥満などを患っている女性のための総合的なケアによって、妊産婦の死を減少させ、長期的な健康問題を防ぐことができます」と報告書の共著者の1人で、WHOのリプロダクティブ・ヘルス部門を統括するマルレーン・テマーマン医師が述べています。

命を救うための正確なデータ

健診を受ける妊娠9か月の母親(インド)
© UNICEF/INDA2013-00356/Manpreet Romana
健診を受ける妊娠9か月の母親(インド)

妊産婦死亡に対する取り組みを行う上での大きな課題は、正確なデータが欠如していることです。死亡する女性の数とその死因についてのデータは、精度が良くなってきているものの、まだまだ記録や報告されていないケースも多くあります。多くの低所得国では、特に女性が自宅で亡くなった場合、妊産婦死亡数に含まれていなかったり、死亡原因がはっきりしなかったりして、正しく報告されません。世界中をみても、死亡者のうち記録されているのは、3分の1のみで、WHOの疾病に関する国際的分類を使用して、死因を記録しているのは、100カ国未満です。

政府が提供する国民健康制度では、最も必要とする人に、必要な資源を割り当てることは、しばしば困難が伴います。「女性と子どもの健康に関する情報と説明責任委員会」が、母子死亡に関する正確なデータを求めているのはこのためです。委員会は、「2015年までに、すべての国が出生登録、死亡および死因を登録するシステムの確立に向けて、重要な措置を講じる」ことを要求しています。

すべての女性が高精度の医療を利用できるようになれば、予防可能な妊産婦の死をなくすことが出来る、という世界的なコンセンサスが形成されてきています。妊産婦死亡数減少の進捗状況を追跡することと、妊産婦の健康を守ることが、全世界の開発における優先事項であり続けるために、2015年以降の世界、及び、各国の目標は重要です。

1990年から2013年の妊産婦死亡率推定の動向

  • 妊産婦死亡率は減少:世界の妊産婦死亡率(MMR)は、2013年には、10万人の出生に対して210人の妊産婦死亡でした。1990年には10万人の出生に対して380人の妊産婦死亡(45%削減)でした。
  • より速い進歩が必要:世界的な妊産婦死亡率の年間減少率は、1990年から2000年の間の1.4%と比較して、2000から2013まで3.5%と、改善しています。しかしながら、現在の傾向では、ほとんどの国が、1990年から2015年の妊産婦死亡率の75%削減という国連ミレニアム開発目標を達成できない見通しです。期限内に目標を達成するには、1990年以降、平均で年間5.5%以上の減少が必要です。
  • 最も多い10カ国:10カ国の妊産婦死亡率の合計が、世界全体の約60%を占めます。インド(5万人)、ナイジェリア(4万人)、コンゴ民主共和国(2万1,000人)、エチオピア(1万3,000人)、インドネシア(8,800人)、パキスタン(7,900人)、タンザニア連合共和国(7,900人)、ケニア(6,300人)、中国(5,900人)、ウガンダ(5,900人)。
  • ソマリア、チャドは最も死亡リスクが高い:生涯に妊娠・出産で死亡するリスクは、それぞれソマリアで18分の1、チャドで15分の1、と最も高いです。

■妊産婦死亡率推定について
1990年から2013年の妊産婦死亡率推定の推移は、世界保健機関(WHO)、国連児童基金(UNICEF)、国連人口基金(UNFPA)、国連人口部(UNPD)と世界銀行グループを含む、国連妊産婦死亡率推定に関する機関間グループ(MMEIG)によって公表されています。算出は、シンガポール国立大学と米国カリフォルニア大学バークレー校の大学の学術チームと共同で行われました。

2014年5月2日、『ランセット』は、1990年から2013年までの、全世界、地域、国レベルの妊産婦死亡率と妊産婦死亡原因を公表しました。2013年の全世界の疾病に関する体系的分析です。WHOとパートナー団体は、国連の機関間グループの国連ミレニアム開発目標4と5に関する取り組みが適切に行われていることを確認するため、これらの報告書を歓迎しています。

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