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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

報告会レポート

ユニセフ・アフリカ・ミーティング
今、アフリカで起きていること
〜ユニセフ若手スタッフによるレポート〜【当日の記録】

■日時:2003年9月29日(月) 18:30〜20:30

■場所:ゆうぽうと簡易保険ホール

■主催:財団法人 日本ユニセフ協会

■後援:読売新聞社、ユニセフ(国連児童基金)

ステージ全景

 9月29日、第3回アフリカ開発会議(TICADⅢ)開催に伴って帰国した、アフリカ各国で働くユニセフ日本人スタッフ13名をスピーカーとして招き、日本ユニセフ協会大使のアグネス・チャンさんをコーディネーターとして、アフリカの現状やそれぞれの仕事について語る「ユニセフ・アフリカ・ミーティング」を開催しました。当日は、およそ1500人が集まり、熱気あふれる会場では、普段なかなか触れることのない、アフリカ各国の子どもたちの状況やユニセフの現場での仕事のようすについて、興味深い話がたくさん飛び出しました。当日のようすをご報告します。

■ 開会の言葉:澄田 智  (財団法人 日本ユニセフ協会会長)
澄田会長あいさつ

 本日集まってくださったみなさま、キャロル・ベラミーユニセフ事務局長、日頃からアフリカで活躍されている13名の日本人スタッフのみなさま、そして日頃より献身的にご協力頂いているアグネス・チャン大使に心から感謝いたします。  アフリカは今、紛争、HIV/エイズ、貧困などの多くの問題を抱えております。一方でこれらの問題に対して子どもや若者達自身が積極的に取り組んで成果を上げているのもアフリカの現状です。
 深刻な状況を打開するのは決して容易ではありません。アフリカの人口は世界の人口の12%を占めています。しかし、亡くなる子どもの43%、妊産婦死亡の50%、HIV/エイズ感染者の70%、エイズで親を失った孤児の90%がアフリカに集中しています。  危機にあるアフリカに、平和と安定と持続的な発展をもたらすためには何が必要でしょうか。私たちはアフリカにおける発展のカギはアフリカの子どもたちへの支援であると考えております。本日は、このような状況で働いている日本の若者たち13人に日頃感じていること、経験していることを率直に語ってもらう機会にしたいと思います。

■ コーディネーターから一言:アグネス・チャンさん(日本ユニセフ協会大使)
アグネス大使

 今、TICADⅢが日本政府主催で行われています。この会議に出席するために27カ国のアフリカの首脳が来日しています。アフリカを植民地化した国々はイギリス、フランス、ポルトガル、スペインでした。しかし、21世紀の今、なぜ日本がアフリカを支援しているのでしょうか?
 私は、その答えを、初めて1985年エチオピアに行ったときに見つけました。その時に見た惨状は一生忘れられません。当時、干ばつと内戦で人々は飢え、骨と皮しかない人々がさまよっていました。倒れても子どもを背負って這いずり回って生活している家族。トラックから少しでも麦が落ちると、下にもぐりこんで、砂でも麦でも構わずにじゃりじゃり食べる子どもたち。その子どもたちは、踊って私を歓迎してくれました。子どもたちと出会い、また私の目の前で人が亡くなって、人生が変わりました。アフリカは遠いけれど、私たちと同じ一生懸命生きている人々がいるということを実感したんです。
 その後も協会大使として、スーダンやケニアに参りました。私はアフリカに背を向けることはできません。今日は、現地のスタッフの話を聞かれて皆さんも私と同じ気持ちになってくれるのではないかと願っています。

■ スペシャルゲストより一言:キャロル・ベラミーさん(ユニセフ事務局長)
CarolBellamy

 今日、ここに来ることができ、13人のユニセフ・スタッフを紹介することができることを、うれしく、誇りに思います。アフリカのほとんどの国は、人口の半分が20歳未満と、若い国々です。日本政府や日本のみなさんからのアフリカへの支援にはとても感謝しています。
 国連の中で子どもに対する活動を実施しているユニセフとして申し上げますと、アフリカの子どもたちが多くの問題に直面していることは事実です。非常に高い乳幼児死亡率、HIV/エイズやマラリアの問題、特に女の子たちが学校に行けないこと。子どもの兵士や人身売買の問題。子どもたちの搾取。ここにいる若い日本人スタッフは日々このような問題と闘っています。本を読んだり映画を見たりして知ることもできるでしょうが、ここで直接彼らから話を聞くこと以上のものではありません。彼らは、これから、アフリカにはどのような可能性や問題があるのかを話してくれるでしょう。このミーティングの後、みなさんも私と同じように彼らのことを誇りに思ってくれることと思います。

■ 各スピーカーからのレポート

アグネスさんとの対話形式で、各スピーカーが自分の国での仕事やこれまでの経験を話しました。

釜土 真帆子さん 
(ユニセフ・コンゴ民主共和国事務所‐栄養プログラム担当)

釜土 真帆子さん

 中南米・アジアで働いた後、アフリカに来ました。アフリカは初めてですが、国が大きく、問題もいっぱいあります。しかし、とてもチャレンジングでやりがいのある仕事をしています。今は、栄養のプログラムを担当しています。
 コンゴ民主共和国は、内乱が多く、アフリカの中でも、また世界の中でも、一番貧困の程度が高いところです。その中で栄養の問題をどう改善していくか…。たとえば、ユニセフは、生まれてから6ヶ月までは母乳だけで育てる母乳育児を推進しています。村に行って、母乳育児の教育を受けたお母さんの赤ちゃんはまるまるとして健康なんです。コンゴのような何もない国で、母乳だけで育てることで、子どもは健康で病気をしません。6ヶ月経った後の赤ちゃんには、子どもたちの抵抗力を高めるためにビタミンAを与えます。かなり遠いところまで視察に行きましたが、ちゃんとそのビタミンが届いていました。子どもたちは、2滴口に落としてもらうビタミンを待ち遠しくしていて、遊びのようにして受け入れています。ユニセフはビタミン剤などを飛行機、車、バイクを使って1100万人の子どもに届けています。


西垣 洋子さん 
(ユニセフ・ソマリア事務所‐教育/水/保健衛生事業の計画・進捗・管理・評価担当)

西垣 洋子さん

 アフリカの角と言われるソマリアで、教育、水、保健衛生などの事業の計画、進捗管理、評価などに携わっています。ソマリアは10年以上に渡って内戦が続く国です。ある日視察に行ったとき、本来なら学校に行っているはずの15、16歳の少年が銃を持って自分の地域を防衛しているのを見たとき、「この国に本当に平和は必要だな」と痛感して日々活動しております。
 このようにソマリアの平和作りのためには、平和を大切に思い、他人を思いやり、多様性を尊重できる人が育っていくことが大切です。2年前、ユニセフがリーダーシップを取り20年ぶりに初等教育用の教科書を改訂しました。多様性と寛容性を育てるために、教科書の中に様々なメッセージを盛り込みました。例えば、ソマリアの様々な生活スタイル、都市の生活、農村の生活、遊牧民の生活、漁業民の生活などを教科書の中に描きました。また、現在17歳になる子どもたちは内戦のために学校に通えなかった子どもが多く、ユニセフは青少年育成のプログラムを行っています。そこでは様々な地域出身の子どもたちを集めて、自分と違う意見に対してケンカではなく他の方法で解決する力をつけるプログラムを実施しています。また、教師が偏見を持ったり、力で子どもを服従させようとする姿勢をとっていると子ども達もそれをまねします。ですから、教師のトレーニングプロジェクトを通して、教師は子どもたちが考えることを導く存在であるということを教えています。このような成果が出るのは10年20年かかるかもしれません。将来ソマリアが平和になったとき、「今の活動が実を結んだんだな」と思える日を楽しみに活動しています。

秋山 直子さん 
(ユニセフ・タンザニア事務所‐難民支援担当)

秋山 直子さん

 タンザニアは最貧国のひとつであり、生まれた子どもの5人にひとりが5歳未満でなくなっています。同時に、タンザニアは、東アフリカでは唯一紛争を経験していない平和な国ですが、紛争状態や内戦状態にある国々に囲まれているため、長年数十万単位の難民を受け入れています。現在もブルンジやコンゴ民主共和国から50万人の難民が逃げてきており、これはアフリカで最大の難民です。このうち20万人が子どもたちです。アフリカの難民キャンプの悲惨な状況をテレビで見た方も多いかと思いますが、タンザニアでは難民キャンプが設置されて10年が経っています。食料が配給され、学校制度も整っていて、一見普通の生活を送っているように見えます。
 しかし、紛争から逃れていても、自国の紛争で一番被害を受けているのは子どもたちです。去年の末、ブルンジ難民の子どもたちが学校をやめてしまって、キャンプを出て行ってしまっているという情報がありました。子どもの数を調べたところ、出席簿上は学校に来ているはずの子ども数百人がいないという事実がわかりました。その頃ブルンジ本国で政府と反政府軍が和平協定を進めていましたが、和平を実現する前に領土を増やそうとしようとして戦闘が悪化していました。兵力を増強するために子どもたちをリクルートしていたのです。ショックでした。さらにショックだったことに、これまでは学校に通えない子どもたち、やることのない子どもたちが兵士として取られていくというのが通説でしたが、今回のケースは小学校や、中学校に通っているエリートと考えられている子どもたちまでもが、学校をやめて本国に帰って戦争に加わっていました。このようにあらゆる子どもたちが犠牲になる可能性があり、ユニセフとしてこれから取り組んでいかなければいけない課題であると痛感しました。

西本 伴子さん 
(ユニセフ・ザンビア事務所 副代表)

西本 伴子さん

 ムリブォワンジ!ザンビアに72ある部落語のキリヤンジャで「こんにちは」という意味です。
 私は国連職員として仕事を始めて16年になります。そのうちの14年間アフリカで過ごしてきました。アフリカで就職し、結婚し、出産し、仕事と家庭を両立させています。アフリカが大好きです。アフリカに最初に行った時は、「アフリカを助けてあげるんだ」という意気込みで行きましたが、14年経って今考えてみますと、アフリカという場で、貧困や危機に面していながらも、希望を持って生き生きと生きている人々と接することによってとても重要な人生経験をさせていただいているという感じです。日本で就職して安楽な暮らしをしていたらきっと人間としてこんなに強く成長できなかっただろうと思います。そして悲しみを通じて生まれてくる優しさをというものも感じられなかっただろうと思います。14年経ってみて、アフリカにありがとうという気持ちでいつもがんばっています。今日は、レソトで挙げた結婚式で着たナイジェリアの民族衣装を着ています。
 アフリカに住んでみるとその限りない魅力に毎日驚かされます。アフリカは世界で2番目に大きな大陸です。アフリカは時折、「暗黒の大陸」と呼ばれますが、まったくそんなことはありません。アフリカには自然の美しさ、動物達の持つ驚異、長くて多彩な文化があり、そこは「暗黒」ではなく限りなくカラフルな大陸です。古代文明の発祥の地であるエジプト、南アフリカ共和国でアパルトヘイトに屈せず大統領になったネルソン・マンデラ氏など、アフリカに住んでいると、歴史に残ったものを目の当たりにします。また、言葉も多彩です。世界には2千、3千の言語があるそうですが、そのほとんどがアフリカ発祥と言われています。実際のアフリカは非常に近代化が進んでおります。アフリカの都市は日本や欧米と変わらない規模です。天然資源も豊かで、ダイヤモンド、金など多くのものが採れます。
 しかし、みなさんがお話されているように、様々な問題があるのも事実です。ユニセフの基本財政の約半分はアフリカに注ぎ込まれており、ユニセフ職員の40%はアフリカで働いています。子どもたちの命を救って、安全を守り、そして健康に生活できるように活動しています。

平良 佳誉子さん
(ユニセフ・ウガンダ事務所‐総合幼児開発担当)

平良 佳誉子さん

 ウガンダは、最近では開発の優等生と言われています。投資すればその分だけ成果を出す国であると。1992年のHIV/エイズ感染率は30%でしたが、現在では6.5%まで下げることに成功しました。しかし、ある村で、ひとりのおばあさんが私に言いました。「統計が何を意味するのですか?私の子どもはその感染者の中にいました。そして最近亡くなりました。私にとっては100%以上の悲しみです。」この言葉を胸に刻んでいます。
 私の任務は、0〜8歳の子どもの福祉です。保健・栄養・水と衛生・教育・子どもの保護を促進するために総合幼児開発センターを、保護者、村、中央政府、地方政府と協力して作っています。最初の総合幼児開発センターはマサカ(ウガンダ南西地方)に作られました。プログラムは、マサカ地方政府の保健・教育・農法など様々な分野を担当する25人のスタッフがユニセフよりAIに関するトレーニングを受けることからはじまりました。AIというのはAppreciative Inquiryの略で、評価しながら質問を行うと言う意味です。AIは、まずそれぞれの社会にいる住民の見方、価値、慣例をを肯定的に捉えることを前提とします。つまり、AIを受けた職員は子育てに関する親や住民の見方、価値、慣例を肯定的に捉えて、第2に発見されたものをもとに、子どもの発達を促進する最もいい方法は何かを考えます。第3にその住民の考えを反映させた総合幼児開発センターを作り、第4にその実践を行う。その4段階を住民と共に行うトレーニングを実施しました。このトレーニングの結果、地方政府の方々が親や住民と実現させたもののひとつが遊びの時間です。ウガンダの女の子は家事を手伝います。AIの結果、親は見方を改め、男の子と同じように女の子にも遊びの時間を設けようということになりました。また、親が子どもの衛生に配慮して、小さい子どもでも簡単に手を洗えるようなものを開発しました。この総合幼児開発センターは他の県にも広がっています。

[アグネスさんのコメント]

 ユニセフは、アフリカでどんどん学校を建てるような仕事ばかりをしてるわけじゃないですね。先生がいれば、子どもたちが集まってくる。木の下でも子どもたちは学校をつくっちゃうんです。だから、一番大切なことは、その先生がいるということ。スーダンに行ったとき、学校には、何もないんです。先生と子どもだけ。先生が言ったことを子どもは暗記します。「2+2は4」って。子どもたちは、ただ繰り返しているだけで覚えてないんじゃないかと思って「2+2は5」と言ったら、子どもが「えーっ」って言うんです。ちゃんとわかってるんです。


名取 郁子さん
(ユニセフ・アンゴラ事務所)

名取 郁子さん

 アンゴラで2年半勤務しています。アンゴラには日本の3倍の土地に日本の9分の1(1400万人)の人口が住んでいます。アンゴラでは子どもの4人にひとりが5歳になる前に亡くなってしまいます。
 皆さんに考えていただきたいことが2つあります。ひとつは内戦で逃げ惑っていた子どもたちをどうやって普通の生活に戻せるかということ、もうひとつはアイスクリームをアフリカの奥地まで運ぶにはどうしたらいいかということです。
 最初の質問に関してですが、子どもたちを普通の生活に戻すために、ユニセフは“学校に戻ろうBack to Schoolキャンペーン”を行っています。ユニセフは教材を提供し、アンゴラの教育省は教員を出して、25万人の子どもたちに教育の機会を与えることができました。ビエ州にジョゼベント君という9歳の男の子がいます。内戦中にゲリラに村が攻撃され、家族と一緒に村を追われ、逃げなくてはなりませんでした。そのときに、2歳の弟は銃で撃たれて殺され、お兄さんは違う町へ仕事をしなければいけなくなってしまいました。でも、このキャンペーンで、ジョゼベント君は、9歳になってやっと1年生として勉強を始めることができたんです。この学校で一つ困ったのは、学校には屋根しかなくて、昔勉強をすることができなかったおとなも勝手にいすを持ってきて、一緒に勉強を始めたりしているんです。ま、いいかなということで、おとなの人にも参加してもらっているのですが。
 2つめのアイスクリームというのは実はワクチンのことです。ワクチンは暑さに弱く、冷凍ボックスに入れて運ばなければなりません。ユニセフは、はしかの予防接種の全国キャンペーンを行いました。その結果、700万人の子どもに接種することができました。しかし内戦によって地雷があったり、道路が通ってなかったり、でこぼこだったり、60キロ行くのに1日かかったりします。電気も通ってないので、ワクチンを運ぶのはとても難しく、子どもがえっさほいさと冷凍ボックスを担いで運んだりしているんです。でも、接種率は92%までになりました。

大窪 さおりさん 
(ユニセフ・ガーナ事務所‐基礎教育部門担当)

大窪 さおりさん

 ガーナと言えばチョコレートと国連事務総長のコフィ・アナンさんが有名でしょう。「コフィ」と言う名前は金曜生まれの男の子につけられる愛称から来ています。木彫り人形のアクアバは子どもがほしいと思っている女性が持つと子宝に恵まれます。実は私も去年子宝に恵まれ、現在は10カ月になる男の子の母親として奮闘しています。
 さて、ガーナが直面している深刻な問題のひとつは、乳幼児が置かれている環境の厳しさです。
 コミュニティーレベルで行われているプロジェクトの例を紹介します。市場に働きに出る女性たちは子どもたちを託児所に預けますが、そこは託児所として不十分です。衛生状態が悪いため、子ども達の顔にハエがたかっていました。栄養不良のためにお腹が膨らんだり、腕が細くなっている子ども、青っぱなをたらしている子ども、おもらしをしている子ども、親が恋しくてずっと泣いている子どもがいました。そんな中、世話人をしている人たちやNGO職員がユニセフや地方自治体に働きかけてプロジェクトを立ち上げました。
 まず、選ばれた5つの託児所にバケツ、タオル、石鹸など必要最低限のものが託児所に提供されました。世話人たちや母親に衛生に関するワークショップが定期的に開かれています。住民に特に好評なのが、月に一度行われる子どもの権利について学ぶ集会です。演劇を行い、出生登録や子ども達と遊ぼうというメッセージを伝えています。その結果、子どもたちを取り巻く環境が改善されました。先日、同じ託児所を訪問したときには、子どもたちは世話人の人と一緒に歌を歌っている光景が見られ、とてもほほえましく思いました。まだ改善するべきところがたくさんありますが、一生懸命取り組んでいます。

アフリカにおけるエイズについて
(西本 伴子さん)

西本 伴子さん

 エイズは現在世界で4200万人の人々が感染しており、そのうちの70%がアフリカの人々です。2002年だけでも310万人の人がエイズ関係の病気で亡くなっています。1980年代の中頃からの累積で考えると、エイズで亡くなる人は戦争による死亡者の10倍になります。これがエイズが音のない戦争、声の聞こえない戦争と言われている所以です。銃声も大砲の音の聞こえないし、道端で撃たれて血を流して死んでいる人も見えませんが、5人にひとりがエイズに感染し、5〜7年ぐらいで亡くなっています。こうした人々は、父であり母であると同時に、先生、農民、エンジニア、医師、、技師、看護師でもあります。このような人々がいなくなり、生活のあらゆる面:工業、商業、農業、教育、保健衛生、そういった面で危機と呼べるひずみが出ています。
 一番問題なのは、エイズは恥ずかしいことで、人々がエイズを隠すことです。隠して隠して隠しつづけて、最終的に結核やひどい下痢あるいはマラリアなど、エイズによる合併症で死んでしまうのでエイズで死んだとは言わないんです。でも、みんなそれを知っているんですよね。言わないけれども知っていると。恥ずかしい思いでお父さんお母さんが死んだ孤児は、すごく恥ずかしいんです。悪霊に取り付かれているとか神の罰だとか言われてしまいます。本来、アフリカの伝統では、孤児は祖父や祖母、叔母や叔父が引き取るものですが、うつりたくない、触りたくないなど、親せきのところでも差別を受け、親せきを転々とするうちに、ストリートチルドレンになったり、孤児院に入ったりするようになります。

富田 真紀さん 
(ユニセフ・マラウイ事務所‐教育担当)

富田 真紀さん

 マラウイの大きさは九州と北海道を足したくらいです。1100万人が住んでいます。自然が豊かで湖がきれいです。住んでいるには居心地が良く、すてきな国です。しかし、アフリカの中でも貧困度が高い国で、1988年には平均寿命が48歳でしたが2000年では39歳に下がってしまいました。毎日139人の人が亡くなっています。その結果47万人の孤児が生活しています。これにはすべてHIVが影響していると考えられます。
 マラウイでは、HIV/エイズ感染者が増えており、働き盛りの人びとが減っています。1994年に初等教育が無料化されました。その結果、小学生が190万人から300万人近くまで増えましたが、国の財源が不足していて、ついていけなくなっています。がらんとした教室で、生徒は石の上に座って勉強しています。また、仮設教室では、わらぶき屋根に木の柱だけが立っていて、生徒が地べたに座っていました。雨季には雨が教室の中まで入ってくるので、とても勉強できるような環境には思えません。
 でも、子どもたちに「学校は好き?」と話を聞くと、みんな目をキラキラさせながら「勉強するのは楽しい」「もっと勉強がしたい」と言います。ユニセフは教材の入ったバッグを提供していますが、子どもたちはそのバッグを大事そうに誇らしげに持っています。そのような子どもたちを見ていると、自分もなんとかして改善できる道をあきらめずにやっていかなければ、と思います。

大井 佳子さん 
(ユニセフ・スワジランド事務所‐教育関係担当)

大井 佳子さん

 スワジランドでは3人にひとりが(38.6%)HIV感染者です。新聞の訃報欄には毎日若い人の名前があります。オフィスでは毎週末、必ずスタッフの誰かの親戚のお葬式があり、身にしみてこの問題を感じています。このように多くのおとながHIV/エイズで亡くなる中、子どもたちが取り残され、孤児の数が急激に増えています。
 最近、田舎の方に行ったときに親を失った子どもだけの家族をたくさん見ました。そのうちひとつの家族はセボンヌという15歳の女の子が6人の子どもの面倒を見ていました。彼女はメイドとして月に1000円くらいの給料で働いていましたが、その給料は食費でなくなってしまい、子どもたち全員が学校に行くことはできません。子どもたちは必要なケアを受けることができず、水くみや薪拾いなどすべて自分たちでしなければなりません。このような孤児たちは性的搾取の犠牲者にもなります。そのような孤児を守るために、ユニセフはコミュニティーと孤児のリサーチを行っています。孤児の多さと悲惨な状況を再確認し、デイケアセンターを作ったり、空き地を耕作して、そこから得られる食料を孤児に与えたりしています。
 性的に関わることはだれも話さない文化があるので、ユニセフは子どもの性的搾取に対して知ってもらうため、婉曲的にうさぎの女の子がレイプされて大変なところを村のほかの動物たちが助けたというようなお話を使っています。
 ある時、このワークショップの後、女性が近寄ってきて、自分の夫が孤児として迎え入れた女の子をレイプしていると話しました。しかし、それを警察に通報したら夫が連れていかれ自分たちはこの先生きていけないから、通報できないと言います。言葉を失う事実です。

アグネスさん:マラウイって本当はGNPも高くて美しい国ですよね。一部の人だけが潤っている?
大井さん:そうですね。首都ムババネのショッピングモールでは、こんなにBMWやベンツがとまっているのは見たことがない、というようなようすです。

兼光 由美子さん
(ユニセフ・中東/北アフリカ地域事務所 モニタリング・評価担当)

兼光 由美子さん

 ヨルダンで勤務しています。中東は危ないところと思われがちですが、実際には治安も良く、快適です。週末には文化遺産などを見に行きます。しかし、中近東・北アフリカ地域に紛争が蔓延しているのも事実です。若い人たちに将来の夢を聞くとは欧米に移住したいと答えます。これは海外に対する好奇心が強いというより、自分の国では仕事がないという理由からです。このような若い人たちが自分の国や将来に希望が持てないということがこの地域の一番の問題なのではないかと思います。
 中東/北アフリカ事務所はイランからモロッコまで16カ国を統括しています。北アフリカはエジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、ジプチ、スーダンの7カ国です。これらの国ではイスラム教であり、アラビア語が公用語です。アルジェリアでは、内戦が続いているために兄弟が目の前で殺されてしまった子どもがたくさんおり、その子どもたちをケアする活動をしています。スーダンも停戦の合意はあったとはいえ、不安定な状態が続いています。ジプチはエイズが深刻な問題になっています。
 これらの7カ国で共通している課題は、子どもたちの社会参加が少ない点です。家族をとても大切にしますが、家族以外から学ぶことが少ないのです。クラブ活動やスポーツにもあまり参加しません。生きていく上で必要なスキルを友達から学ぶこともありません。おとなも子どもたちが社会に参加することを重視しない風潮があり、学校ではつめこみ式の教育が行われています。したがって物事を批判的に見る見方を育成したりしません。男女を分ける社会なので、女性の社会参加も低いです。女性が教育を受けても就職の機会が少なく、ホテルやカフェのサービス業なども女性の職業とは考えられていません。女性問題がこれからアラブ社会が越えていかなければならない問題であると思います。最近では、エイズや女性器切除問題も少しずつ語られるようになってきました。社会がゆっくり変化していることを感じます。

大澤 祐子さん 
(ユニセフ・エジプト事務所、FGM担当)

大澤 祐子さん

 エジプトと言えばナイル川やピラミッド、スフィンクスなどの古代遺跡というイメージが強いと思いますが、今回はエジプトがファラオの時代から抱える問題を紹介したいと思います。
 FGM(女性器切除)はアフリカ28カ国以上が抱える重要な問題です。行われる理由は女の子の貞節を守るため、結婚できる体に準備するためなどと言われています。イスラム教を根拠としている国もありますが、イスラム教発祥の地のサウジアラビアでは行われていません。これは、実は、キリスト教やイスラム教が誕生する以前、ファラオの時代から行われている悪しき伝統習慣なのです。現在では10〜13億人の女性がFGMを受けており、毎年新たに2000万人がFGMを受けています。エジプトでは97%の女性がFGMを受けています。
 ユニセフはコミュニティーレベルから政策レベルまでFGM廃絶のために取り組んでいます。エジプトでは若者による若者のためのFGM反対の啓発活動を行っています。現在15歳のサルマちゃんは11歳のときに、母親と祖母に体を押さえられてFGMを受けました。彼女の母親も祖母も受けています。これは娘にFGMをしないと結婚できない、また穏やかな人に育たないという子どもを思う親の愛情から行っているのです。サルマちゃんも女として生まれた義務としてFGMを受け苦しみを乗り越えようとしていたのですが、サルマちゃんの妹のアマルちゃんが12歳のときにFGMのために亡くなったことから、この伝統習慣に疑問を抱き、現在では、啓発活動に活躍しています。
 道のりは厳しいですが、ユニセフはアフリカの政府と一緒になってFGM根絶に取り組んでいます。また、2月6日はFGMに反対する日に設定されました。みなさんのカレンダーにも2月6日に印をつけて頂きたいと思います。

斎藤 鈴恵さん
(ユニセフ・モザンビーク事務所‐開発支援事業のモニタリングと評価担当)

斎藤 鈴恵さん

 ご存知ですか?日本を最初に訪れたアフリカ人はモザンビーク人でした。
 大井さんから孤児が性的搾取の対象になるという話がありました。モザンビークでもそういう事実は聞くのですが、統計は非常に少なく、難しい問題です。
 今日は、実際に虐待され命の危険にさらされた女の子のことをご紹介したいと思います。4歳の女の子(仮名:エルマナ)は祖父、祖母、兄、姉と5人で暮らしていました。両親は南アフリカに出稼ぎに行ったまま、行方不明になって戻ってこなくなり、祖父の微々たる収入でささやかに暮らしていました。祖父母は教育が大切であると考えており、兄も姉も小学校に通っていたので、エルマナちゃんもあと1年で学校に通えるのを楽しみにしていました。
 ある晩、ひとりの男が子ども部屋に忍び込んで、一番小さいエルマナちゃんをさらっていきました。村のはずれの小屋に連れ込んで抵抗するエルマナちゃんを何度もレイプしました。エルマナちゃんは最初は抵抗していましたが、気を失ってしまいました。そして、欲求を満たした男は彼女の性器を切り開いて内臓を取ろうとしていました。幸いにも村人が気づいてエルマナちゃんを救い出したらしいのですが、一命をとりとめたにしても、一生、レイプされ、性器を傷つけられた後遺症に苦しむことになると思います。1年前にも同じ村で同じような事件があり、その時は子どもの内臓も取られてしまって、出血多量でなくなったそうです。その臓器というのは、東南アジアでも問題になっていることですが、先進国の臓器移植のために売買されていると考えられています。犯人はまだ捕まっていません。この悲惨な事例を通して、問題解決の緊急性と重要性をご理解いただきたいと思います。

菊川 穣さん
(ユニセフ・エリトリア事務所‐HIVエイズとFGMを担当)

菊川 穣さん

 先週までレソトで約3年間青少年育成を担当してきました。1998年から2000年まではユネスコで南アフリカで勤務しておりました。アフリカは、ずっと外からの暴力を受けてきました。植民地支配、奴隷貿易、現在の世界経済システムにおける脆弱な地位などです。このようにアフリカの外に問題がありましたが、HIV/エイズだけはアフリカ内部の問題です。このようなアフリカの中で起こっているエイズ問題に取り組んでいきたいと思います。
 (他の皆さんから)ひどい話が続いて、私自身もそのような話を直接聞いたことがあるのでつらいです。無力感を感じますね。でも、様々な問題があり、大変な状況にあるアフリカでも、日本でも行われていないようなポジティブな活動があることを紹介したいと思います。
 例えば、レソトでは、日常茶飯事に起こっている性的虐待を防ぐ子ども保護の法律がありますが、性的搾取まではカバーされていなかったので、政府は、法律改定作業を進めています。ここに、ユニセフなどが支援して、子どもたちが積極的に関わっているのです。ただ委員会で意見を言うだけでなく、村へ行って劇をして、今ある法律では、こういう犯罪が起こったときに何で保護されないのか、なぜ変えなきゃならないのかを説明したりしています。すると、そういった村で啓蒙された人たちがいろんな意見を言うわけです。それを、子どもたちが委員会に伝えます。これは画期的な活動です。
 今いるエリトリアでは、学生の組合、大学の学生連盟のようなものが、FGM問題に対してどのように彼ら自身が取り組めるのかとワークショップを開いて語り合ったりしています。また、エリトリアは、エチオピアから独立する前に30年戦争をして、また独立した後、最近もエチオピアとの国境紛争がまだ終わらないんです。その結果、国じゅうに地雷があります。この問題について、子どもたちが自ら積極的に地雷の危険を知らせるキャンペーンをやったりしています。

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