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公益財団法人日本ユニセフ協会

モンゴル
明るく暖かい移動式トイレ
ユニセフ・イノベーションの取り組み

【2015年7月22日バンコク(タイ)発】

ケニア・ナイロビに拠点を置くユニセフ・グローバル・イノベーション・センター副所長のタニア・アコーンが、アジア太平洋地域におけるイノベーションの一例を報告しています。

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ブスグル県のゲルの中の幼稚園に通う6歳のウルジチメグちゃん。
© UNICEF/UNI180628/Brake
ブスグル県のゲルの中の幼稚園に通う6歳のウルジチメグちゃん。

イノベーション(革新的技術)は、ユニセフが子どもたちのための前進を加速させる鍵となる重要な方法の一つです。ユニセフはイノベーションを、『付加価値を生む、新たなあるいは異なる手法を用いること』と定義づけしています。したがって単に目新しいだけではなく、影響を与えるものでなければなりません。ユニセフは携帯電話を基盤としたイノベーションの先導者ですが、イノベーションとテクノロジー(技術)を必ずしも同じ意味で捉えているわけではありません。イノベーションには、考え方や取り組みの方法を根本的に革新させることも重要なのです。

イノベーションをゲルの中の幼稚園に

アジア太平洋地域で私が特に注目しているのが、モンゴルで展開されているイノベーションです。モンゴルは11月から3月までの5カ月間冬が続き、気温はマイナス13度〜45度に及びます。

北部の遠隔地にあるフブスグル県で暮らす6歳のウルジチメグちゃんは、ゲルと呼ばれる、断熱された伝統的なテントの幼稚園に通っています。教室は暖かく保たれる一方、トイレに行くためには厳しい寒さの中を100メートルも歩き、暗い汲み取り式のトイレを使用しなければなりません。

多くの幼稚園児がトイレに行くのを避けるために水分を十分にとらなかったり、便意を我慢するなどの不健康な方法をとっていました。私はウルジチメグちゃんと同じ年頃の男の子をもつひとりの母親として、それに驚きはしませんでした。

冬のニューヨークで息子がトイレに出入りする度に何度も不満を漏らしていたことを思い出し、子どもがトイレに行きたくないのは寒さのせいだと考えていました。しかし、子どもたちが外のトイレを使いたくない、もう一つの理由に気が付いたのです。それは、子どもはみな、暗闇を怖がるということでした。

「ウォッシュ・ハウス」

「ウォッシュ・ハウス」を利用するフブスグル県の学校に通う10歳のバルジニャムくん。
© UNICEF/Mongolia/Ward
「ウォッシュ・ハウス」を利用するフブスグル県の学校に通う10歳のバルジニャムくん。

学校において適切な水とトイレ、衛生設備を備えることは、子どもたちの健康と福祉のために必要不可欠です。しかしモンゴルでは、学校に新しい設備を作ったり、古い設備を修復したりするためには高額な費用がかかります。しかし、「ウォッシュ・ハウス(WASH House)」の導入によって事態は大きく変わりました。

このイノベーションは、試行錯誤を経て生まれました。まずユニセフは、他の業界ではどのように運送用コンテナをトイレに使用しているかを調査しました。次に断熱されたコンテナの構造原理を分析し、そこで学んだことを基に5つの異なったモデルを設計し、ユニセフ独自の構造を作り出しました。その結果、再配置可能で教室と連結型のトイレと温水が出る洗面台のある「ウォッシュ・ハウス」が完成しました。「ウォッシュ・ハウス」の中は十分に明るく、また暖かく保たれています。

「ウォッシュ・ハウス」は再配置も可能です。つまり、例えばゲルの中の幼稚園などの教室と一緒にトイレを移動することができるのです。これは遊牧民の子どもたちには重要なことです。「ウォッシュ・ハウス」は、地下水を利用した井戸や下水タンク、または既存の給水設備や下水設備とつないで利用することができます。

「ウォッシュ・ハウス」は倉庫内での生産が可能です。これはモンゴルのように、気候によって外での建築可能期間が制限される国においてはとても重要なことです。「ウォッシュ・ハウス」は組立、輸送、設置において、モンゴルのどの設備よりもはるかに安価です。約1万6,000米ドルで設置が可能な「ウォッシュ・ハウス」は、民間のドナーたちがCSR活動の一環として関心を寄せています。また、ユニセフはこのイノベーションを国全体で取り入れるよう、政府に働きかけています。

これまでのところ、15の「ウォッシュ・ハウス」がゲルの中の幼稚園や通常の教室に導入されており、約1,400人の幼稚園や小学校の子どもたちが恩恵を受けています。10歳のバルジニャム・バドリくんもそのひとりです。

フブスグル県の他の多くの遊牧民の子どもたちと同じように、バルジニャムくんは学期中、寮に住んでいます。バルジニャムくんは以前、週に1度しかシャワーを浴びることができませんでした。でも今は、必要なときはいつでもシャワーを浴びることができるので、とても嬉しそうです。改善されたトイレのある学校の教師たちは、下痢や風邪、インフルエンザにかかる子どもたちの数が減少し、学校を休む生徒も少なくなっていることに気が付きました。

イノベーション・センター

ゲルの中の幼稚園に通う子どもたち。
© UNICEF/UNI180626/Davaa
ゲルの中の幼稚園に通う子どもたち。

過去7年にわたり、ユニセフのイノベーション事業はサハラ以南のアフリカに焦点を当ててきました。ウガンダはその中心地であり、私は毎年数カ月間、女性や子どもたちの生活を改善するために活動する他の機関やドナー、他国のリーダーたちに効果が実証済みのイノベーションを共有するためのサポートを行ってきました。

今年、ユニセフはグローバル・イノベーション・センターを設立しました。グローバル・イノベーション・センターは、ユニセフの内外双方で成功を遂げているイノベーションを特定し、多くの国や地域でこのイノベーションを活用していくための支援を行っています。私は今、アジア太平洋地域での活動に力を入れるため、バンコクに拠点を置いています。

なぜアジア太平洋地域?

アジアはアフリカとは全く異なる背景を持つ地域です。また、アジアは他の地域でも学び、共有すべき新しいアイデアの源でもあり、既存のアイデアを全く新しい方法で実践する機会を与えてくれる地でもあります。例えば一般的に高い水準の発展とインフラの設備が整っている場合、ソーシャル・メディアやチャット・アプリが、若者を活動に巻き込むためにとても重要な役割を果たします。

ユニセフ・アジア太平洋地域事務所では100以上のイノベーションを開発中で、それぞれが各国の子どもたちのための活動の成果と密接な関わりを持っています。その範囲は多岐にわたっており、例えばマレーシアでは、グーグルと協力してデジタル・マッピングを利用し、洪水用の防災マップを制作するトレーニングを行っています。中国では大学と協力して障がいのある子どもたちのためのアプリをデザインしたり、太平洋の離島では教育情報を提供するデジタル端末を用いて、教室の照明や冷房に太陽エネルギーを利用できるようにしたりしています。

これらの例は、この地域でイノベーションを用いて実現可能な、ごく一部の成果に過ぎません。「ウォッシュ・ハウス」のようなモンゴルの寒冷気候の地域でのイノベーションは、専門技術を発展させていくべき分野の一つにすぎないのです。アジア太平洋地域には、人間の知恵という莫大な資源があります。一方、地理的に最も支援が行き届きにくく、取り残されているコミュニティの問題など、多くの課題も残っています。

私はイノベーション分野での取り組みを継続し、子どもたちのために必要不可欠な活動に変化を起こす、実証済みのアイデアを見つけ出し、規模の拡大をサポートすることを楽しみにしています。

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