マダガスカル共和国は、アフリカ大陸の南東海岸部からおよそ400km離れたインド洋の沖合に浮かぶ、世界で4番目に大きな島国です。変化に富んだ気候風土で知られており、湿った貿易風の影響を受ける東部には熱帯雨林、首都アンタナナリボを含む中央部には標高1,000mを超える高地、雨季と乾季の差が大きい西側には乾燥林、雨量が極端に少ない南部には半砂漠地帯が広がっています。生息する動植物の約80%が固有種で、さらには石油、天然ガス、ニッケル、コバルトなどの天然資源も豊富です。
こうした多様性豊かな自然環境に恵まれる一方、この国は様々な困難に直面しています。極度の貧困状態下(1日あたり2.15米ドル以下)に暮らす人の割合は8割以上と世界で最も高く、首都アンタナナリボでさえ人口の3分の一がそうした厳しい生活を余儀なくされています。2022年の一人当たりDGP($505)は世界で6番目に低く、国連開発計画による人間開発指数は169位(2015年)から177位(2021年)と、後退傾向にあります。
マダガスカルでは近年、サイクロンや干ばつなどの自然災害が頻発・激甚化するなど、気候変動の影響が深刻化しています。この国のCO2排出量が世界の排出量に占める割合はわずか0.01%にもかかわらず、「子どもの気候危機指数」(子どもへの気候変動の影響を示すランキング)は世界10位です。2020~22年には過去40年で最悪といわれる干ばつに見舞われ、2023年には南半球で観測史上3番目に多い犠牲者を出したサイクロン「フレディ」によって、19万人が直接的な影響を受けました。
こうした災害からの復興の遅れに、エルニーニョ現象やラニーニャ現象などの影響が相まって、南部と南東部では食料危機と栄養危機が長期化しています。2025年1~4月のlean season(食料備蓄が減少する時期)には、食糧安全保障のさらなる悪化が懸念されています。総合的食料安全保障レベル分類(IPC)によると、最も影響が大きい地区では、少なくとも人口の20%が「フェーズ3」以上の深刻な急性食料不安に直面するといわれています 。その結果、およそ36万5,000人の子どもが急性栄養不良に苦しみ、うち85,000人は命を脅かす重度の急性栄養不良に陥ることが予想されます。
危機の長期化は社会・経済構造に影響を与え、国難避難民や、子どもに対する暴力、社会的保護に対するニーズ、退学率の増加につながっています。推定18万8,200人が、ジェンダーに基づく暴力などのリスクにさらされています。干ばつやサイクロンの影響を受けた約63万人の子どもたちが、教育の中断や退学の危機に直面しています。
保健分野では、新型コロナウイルスの影響が今なお尾を引いています。以前から低かった予防接種率は、コロナ後にはさらに低下しました。1歳未満の子どもの29%が予防接種を1回も接種していません。この予防接種率の低さに、適切な水と衛生サービスへのアクセス欠如が重なり、2023年には23県中15県でワクチン由来1型ポリオが流行しました。マラリアの流行も、脆弱なマダガスカルの保健サービスをさらに疲弊させる一因となっています。南部と南東部の6県では、2024年1月からの9か月間で120万件以上のマラリア患者が報告されました。サイクロン被害を受けた地域では、20の保健センターが一刻も早い復旧を必要としています。