財団法人日本ユニセフ協会




戦争は終わったが、 イラクの子どもたちを守る闘いは勝利から程遠い
子どもたちにとって安全な国を作ることがユニセフの「第一の仕事」

[バグダッド/ジュネーヴ/ニューヨーク 2003年5月2日] 今日、ユニセフは、戦争の終結と急速な国内の変化にも関わらず、イラクの子どもたちの健康と生存は、まだ大きく脅かされていると、警告しました。

 ユニセフは、こうした脅威から子どもを保護することを国家の政策の緊急優先課題としなければ、何千人ものイラクの子どもたちが不必要に死んでしまうだろうと言います−そして、何十万人もの子どもたちが負傷し、病気の犠牲となり、虐待と搾取に苦しみ、あるいは学校に行くことができなくなるのです。

 「私たちはイラク人とイラク社会を形成する勢力双方に、子どもの保護を第一の仕事とするよう求めています」と、ユニセフ事務局長キャロル・ベラミーは言います。「イラクの将来は子どもたちの健康と生存にかかっています。しかし、現在、それが保障できないでいます。子どもたちを最優先に考えなければならないのです−言葉だけでなく、行動でも。そして、率直に言うと、今、子どもたちにとって十分な行動がほとんどとれていないと思うのです」

 ユニセフは、戦争の終結にも関わらず、イラクの子どもたちにまだ忍び寄るいくつもの危険を強調しています:

イラク全土で再び治安が不安定になっており、支援を必要としているコミュニティ、また、緊急支援と復興努力を妨げる略奪が起きているコミュニティに対する人道支援に支障が出ている
イラク国内の給水システムがかなり悪化し、現在、子どもたちは健康上の危機に直面している。下痢の発生、黒水熱、そして他の死にいたる病気が全国で報告されている
子どもの死傷者が毎日報告されており、イラクとその周辺に残された不発弾の数は不明
必要な医療機器の不足や負傷者や病人へ適切なケアができないなど、保健センターや病院に過度の負担が生じている
学校の再開について十分に強調されていない。子どもが道で危険にさらされたり、親は負担が重くなり困惑している
栄養不良が見られる:まだ食糧供給が安定しておらず、5歳未満の子どもの4分の1以上がすでに栄養不良の状態

 「戦争は終わったかもしれませんが、やるべき仕事はまだたくさんあります」ベラミー事務局長は言います。「まだ子どもたちは死んでおり、大きな危険にさらされています。子どもたちの保護を、戦争の終結と同様、包括的かつ緊急の目的としましょう」

 ユニセフは、基礎保健サービス及び給水サービスの回復、そして学校の早期再開の支援が主要優先課題であると言います。また、重度の栄養不良の子どもたちをケアをする制度を再構築するために活動しています。 (イラクの子どもの4人に1人は慢性栄養不良)イラクの人口のほぼ半分が子どもなのです。

子どもと安定

 ベラミー事務局長は、国家の復興努力において子どもを最優先にすることで、人々を奮いたたせ、安定と政治的合意をもたらすことができると言います。アフガニスタン、アンゴラ、その他紛争下にある国々での経験から、子どものニーズに焦点をあてることが、何年にもわたる戦闘と紛争に傷ついた人々に活気を与え、鼓舞する効果を与えることができるのです。

 ベラミー事務局長は、速やかに子どもへの投資が—目に見える結果を伴って—行われるとき、戦後の平和と安定の見通しは大きく改善すると付け加えています。

教室が鍵である

 「学校に子どもたちを戻すことほど、イラクの子どもたちの生存と保護を促すものはありません」ベラミー事務局長は言います。子どもが危機にさらされており、生活の基盤が必要だという親たちの意識を反映して、学校を再開する草の根の努力が国中のコミュニティで見られ始めていると言います。

 「教室は子どもたちに積極的に焦点をあてます。子どもたちは大切な情報を共有することができます。道で生活しなくてすみます。子どもたちを搾取から守ります。そして、親たちは安心し、復興に集中することができるのです」ベラミー事務局長は言います。「ユニセフにとって、できる限り広範囲で早く学校を再開することほど明白かつ緊急な優先課題はありません」

 ユニセフは、地元のコミュニティが教育支援をすぐに行えるよう準備されていた何百もの“スクール・イン・ア・ボックス”(教育資材キット)を、すでに配布しました。追加で数千キットを送る準備ができています。キットには、仮教室で必要な、子どもたちのための鉛筆、紙、黒板、バッグなどの学用品と先生用の教材が含まれます。各キットには、子ども80人分の教材が入っています。

変化の中で忘れられたもの

 「イラクでは、わずか6週間の間に、大きな変化がありました。国家と国民の再建を助けるために、大規模な活動が行われています」と、ベラミー事務局長は述べます。「しかし、こうしたすべての活動の最中に、私たちは子どもたちに焦点をあてることを忘れています。今、この状況を変えていきましょう。すべての決定、行動、発展へ向けたすべてのステップにおいて、イラクの将来に関わるすべての人々に子どもを最優先にするよう訴えます−平和的、包括的に、子どもを最優先させるのです。これを私たちの新たな成功の尺度としなければなりません」

背景

 ユニセフは、1953年よりイラクの子どもたちを支援しています。1983年にはイラクに事務所を開設。現在は、200人以上の現地スタッフと国際スタッフがイラク全土で働いています。

 戦争の終結以来、ユニセフは何十万人もの人々に医薬品や支援物資を届けています。水に関連した資材を送り、不可欠な浄水施設の修理を行っています。何百万トンもの新鮮な水を給水車でイラクに運んでいます。“スクール・イン・ア・ボックス”を送り学校の再開を支援しています。そして、高たんぱくビスケットや栄養補助食を、必要としている子どもたちに配給しています。

 ユニセフは、イラクの子どもたちへの緊急支援のために、1億6,600万米ドルが必要であるとアピールを出しました。現在までに、そのうち約3分の1しか集まっていません。

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募金のお願い

 ユニセフによるイラクへの緊急支援を求める発表を踏まえ、日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を開始します。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。