財団法人日本ユニセフ協会




イラクの子どもたちのためのユニセフ緊急・復興支援

最新活動報告
2003年9月1〜30日

 

* 治安の悪化により国際スタッフは隣国に一時退避。国内スタッフが水道局や
  NGOと協力して精力的に支援活動を展開

* 困難な状況下でも給水活動が継続され、安全な水が毎日82万5000人のもとへ
* 未接種児100万人を対象とした予防接種を9月に実施
* 栄養不良の子どもへの高たんぱくビスケットの提供
* 10月からの新学期スタートにむけた「バック・トゥ・スクール」の展開
 
 2003年8月19日のバグダッド国連事務所本部の爆弾事件後、ユニセフはイラク国内で活動する国際スタッフ(外国人スタッフ)の数を削減しました。そして9月22日に2回目の爆弾事件が起きたため、国際スタッフは一時的にイラクから引き揚げざるを得なくなりました。
 イラクにおけるユニセフ支援活動の最大の課題は、治安の確保です。こうした厳しい状況のもとでもイラクでの緊急・復興支援を続けるため、ユニセフはこれまで以上にイラクのカウンターパート(水道局などの機関や民間団体など)との協力関係を密接にするとともに、国内スタッフが精力的に活動を支え、ヨルダンの首都アンマンに開設された事務所がバグダッド、バスラ、エルビルで活動する国内スタッフを支援しています。

<活動ハイライト>
■水と衛生
 支援活動の継続が困難な状況下でも、ユニセフは給水活動を続けています。バグダットの断水地域には1日1,100万リットル、バスラには1日平均150万リットルを配給し、現在は1日75万リットルを給水しているモスルでの給水量の拡大を目指しています。これをあわせた、毎日合計1,460万リットルの水が供給され、825,000人の人々が恩恵を受けています。 今日までにバグダッドだけでも約33万7370トンが55のコミュニティに供給されています。また、上下水道設備に必要な燃料、塩素や硫酸アルミニウム、塩素ガスシリンダーといった備品・機材も、イラク水道局がたてた計画数にそって配給が継続されています。浄水場、下水処理場、水道網の復興により、水へのアクセス、衛生状態、子どもの健康とも改善が見られています。

 戦闘で破壊された上下水道を復興するプロジェクトへの支援も続けられ、9月までに6基の施設が修復されました。ユニセフが支援する南部と中央部の15州125プロジェクトによって上下水道が全て修復されると、約100万人の人々が恩恵を受けることになります。また、現在入札を進めているバグダッドの2つの浄水場が完成すれば、バグダッドに住む400万人に十分水が行き渡るようになります。
ユニセフはこういった作業の監視をおこなうモニタースタッフを雇い、ユニセフスタッフの不在によって現地の修復作業の品質が下がらないよう心掛けています。

■保健と栄養
未接種児への予防接種キャンペーンと定期予防接種体制の正常化
 予防接種を受けていない子ども100万人に対する予防接種が9月に実施されました。ユニセフはワクチンや備品の輸送費を提供し、保健省の社会動員キャンペーンを支援しました。

 また6月に再開された定期予防接種を強化をめざし、各州の準医療活動スタッフ500人に研修が行われています。ユニセフは2003年末までに必要なケロシン型の冷蔵庫などのコールドチェーン機材とワクチンといった必要物資の提供を進め、年末までに定期予防接種が完全正常化することをめざしています。

保健・栄養施設の再建と支援
 戦闘によって被害を受けた基礎保健センター(PHC)と分娩室の修復が継続して行われています。これまで40の基礎保健センターが再建され、今後40の修復が予定されています。分娩室の再建も急がれます。
 9月27日、基礎保健サービスのキャンペーンが開始されました。このキャンペーンでは、基礎保健センターなどのスタッフを対象に、母子保健ケア、急性呼吸器感染症、伝統的な助産婦法の5週間の研修が行われます。今後イラク全土1,150の基礎保健センターで実施されることを目指しています。また対象を絞込んだ栄養プログラムへの支援として、地域に根ざした保健機関であるコミュニティー子どもケアユニット、栄養回復センターといった施設に、高たんぱくビスケットなどの供給品が引きつづき提供されています。コミュニティー子どもケアユニットでは、戦闘終了時より5歳未満の子ども延べ40万人の健康状態を調査し、栄養不良が判明した子どもに対し高たんぱくビスケットや栄養強化ミルクを提供しています。

■教育
 教育省などとの連携のもとに、教材の提供と教育管理情報システム(EMIS)・学校の修復活動を継続しています。

バック・トゥ・スクール・キャンペーン
 これまでの調査から必要数を割り出し、教育キット68,247セットが提供されました。キットは学年ごとの違いに配慮し5種類が作成され、バグダッド、バスラ、モスルといった都市を中心に各地に10月初旬から配布開始、4分の3は10月14日までに配布が完了する予定になっています。これにより10月の新学期で学校に戻った子どもたち全員が、10月末までには必要な教材を受け取ることができます。

教科書の印刷と配布、学校の修復
 ユニセフは小学校、中学校、高等学校に加え、職業訓練用、教員研修用などあらゆる教科書の印刷をすすめており、イラク国内での印刷作業もこのほど再開致しました。 戦闘で被害を受けた70の小学校の校舎修復作業も、継続して進められています。

「オフィス・イン・ア・ボックス」:教育省と州教育省への支援
 イラク中部、南部の行政機関では戦闘によって事務所の破壊、焼き討ち、略奪にあい、当面の事務処理に支障がでるほどの損害を被りました。ユニセフは教育分野の主要パートナーである教育省システムの再建を目指して、中央および各州の教育省で当面の事務処理作業に必要な機材や事務用品を10月末までに配布できるよう活動を続けています。

■広報
 イラク国内での活動が困難なため、広報面での活動は、保健教育、母乳育児の促進、地雷注意喚起教育(MRE)、バックトゥスクールキャンペーンなどを各種メディアを通じて行っております。

 イラクの民間防衛組織と共にすすめている不発弾・地雷の現地調査をもとに、よりイラクの現状に即した地雷注意喚起教育が計画されています。スクール・イン・ア・ボックスの配布時にあわせて不発弾に対する注意喚起チラシが子どもたちに提供できるよう、200万部の印刷が進められております。

 保健教育用のテレビ番組が保健省との協働で5本制作され、下痢性疾患の予防、母乳育児の推進、衛生知識の促進、予防接種の推進などの啓蒙活動を進めています。また、BBCワールド・サービス・トラストとともに若者を対象とした「ラジオ番組作りのための研修」を行っています。これは、若者がメディア分野に参加するのに必要な基礎技術を学ぶ研修で、この研修を通じ若者が国づくりに参加できることを目指しています。若者が一番興味のある問題、12エピソードを番組化することが予定されており、このほど事前参加型ワークショップが開催されました。

■子どもの保護
子どもの保護のパイロットプロジェクト
バルト・アル・トーフル(子どもの家):労働省、社会問題省と国際NGOとの協働で、今回の戦闘後に、レクリエーション・教育センターである「子どもの家」を設置しました。このセンターではこれまで国内スタッフの能力開発に力を入れていたため、海外からの支援活動が困難な現状でも、センターの運営は支障なく進められています。
ドロップ・イン・センター:ストリートチルドレンのための施設、ドロップインセンターは治安の悪化により一時閉鎖されていたため、社会問題省と国際NGOとの協働でセンターの再開を進めています。
子どもに優しい空間:「子どもに優しい空間イニシアティブ」のもと、イタリアのNGOとユニセフがアルバヤ・コミュニティーで、サッカー場、バスケットボールコート、コミュニティー劇場、プールなどの再建にあたっています。また子どもの権利の理解促進キャンペーンも進められており、子ども自身によってチラシ20000部が作成され、コミュニティー内に配布される予定です。
若者の家:地元コミュニティーや他のNGOとの協働で、子どもと若者を対象にしたセンターが、アダミヤ地区のアルマグレブ地域に9月18日開設されました。このプログラムに尽力しながら8月19日の爆破で犠牲となった国連スタッフの名にちなんだコーナーがこの家の内部につくられています。


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募金のお願い

 ユニセフによるイラクへの緊急支援を求める発表を踏まえ、日本ユニセフ協会では、今後さらに必要とされるイラクの子どもたちへのユニセフの人道支援活動を支援するため、イラク緊急募金の受付を開始します。多くの皆様のご支援をお願い申し上げます。