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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたちは今 報告会レポート

WCRP/UNICEF共催シンポジウム
紛争下・後における子ども保護 -宗教者の役割-

© 日本ユニセフ協会/2010

■日 時 2010年5月14日(金) 16:00〜18:00
■場 所 ユニセフハウス1Fホール
主催:国際連合児童基金(ユニセフ)、世界宗教者平和会議(Religions for Peace(WCRP))
協力:財団法人 日本ユニセフ協会

2010年5月14日に、「子どもの保護」における宗教者の協力と具体的な役割について話し合う、シンポジウムが開催されました。シンポジウムには、ニューヨークのユニセフ本部プログラム事業部から、市民社会連携専門官のステファン・ハマー氏、またWCRP国際事務局事務次長の杉野恭一氏、現在すでにユニセフがWCRPと共同で紛争下の子どもの保護の活動を行っているフィリピンの事例に詳しいフィリピンセント・トーマス大学パブリト・ベイバド教授、そして、緊急支援分野における日本のNGOの草分けであるJEN事務局長の木山啓子氏がパネリストとして参加され、実際に「子ども保護」の現場において認識されつつある宗教者の特別な役割について、貴重なご意見をいただくことができました。

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シンポジウム要旨

パネリストによる発表

Religions for Peace(WCRP)Dr.William Ventray国際事務総長(事務局次長 杉野様による代読)、及び財団法人日本ユニセフ協会早水研専務理事からの開会のご挨拶に続き、ハマー氏には、ユニセフをはじめとする子どもの保護の団体がいかにして宗教者と連携していけるのか、その意義について、 ユニセフの担当官の立場からお話しいただきました。

© 日本ユニセフ協会/2010

ユニセフ本部プログラム事業部
市民社会連帯担当専門官
ステファン・ハマー氏

 本日は、UNICEFを代表して、WCRPと共同でシンポジウムを開催することを、大変喜ばしく思います。ユニセフは、早くからすべての市民社会と協力して取り組むことの大切さ、特に宗教コミュニティとの連帯の重要性を認識してきました。

© 日本ユニセフ協会/2010

 すべての主要な宗教は、子どもをケアし、その成長を見守ることが大切であるという点で一致しています。宗教者の皆様は、倫理的道徳観(Moral Authority)の権威として、子ども保護の問題を考え、対話を促し、コミュニティ内で呼びかけることができる立場にあります。ユニセフは、今までにも、世界の多くの宗教者と子ども保護の分野で協力してきました。いくつかの例を挙げると、エルサルバドル紛争下、ユニセフは子どもに予防接種を提供するため、教会と共に、紛争和解を呼びかけました。アフガニスタンでは、イスラム教のイマーム(指導者)と協力して、女子教育の促進を、カンボジアでは、仏教僧とともに、HIV/エイズに感染した子どもの保護の活動を行いました。ユニセフは、20年間の長きに渡り、WCRPと、子ども保護のための力強いパートナーシップを構築してきました。そして、現在、WCRPとともに宗教者の連帯を強化し、紛争下・後の子ども保護に役立てていく新たな取組みを行っていることを、大変誇りに思います。教会やモスクをはじめとした機関は今も紛争下で主要な子どもの保護団体として重要な役割を果たしており、これからもそうした役割が期待されます。

すでにフィリピンでパイロット事業が開始され、今後ケニア、リベリアでもスタートする今回のプロジェクトは、子ども保護のために宗教者と子どもの権利擁護団体が一緒に働く、ユニークな試みです。ユニセフをはじめとする子どもの権利擁護団体と宗教者が協力し、双方が共にその資産を活かすことで、紛争下・後の子ども保護の取り組みをさらに高めていくことができます。

次に、杉野氏から宗教者の視点で、子ども保護の団体と宗教者の連帯の意義についてお話いただきました。

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WCRP国際事務局 事務次長
杉野恭一氏

 宗教、紛争、子どもというテーマについて、近年、紛争の元凶が宗教対立であると言われたり、また宗教と子どもということに関しても、宗教施設内での子どもに対する虐待が、国際的なニュースとなりました。また、宗教の中には、子どもに対して害を与える社会的な慣行を黙認することも行われてきたことが指摘されています。

こうした中、子ども保護における宗教者の役割は新たな段階を迎えています。国際的には、宗教の持つ精神的、道徳的な力、またネットワーク、このような観点から宗教共同体との協力は国連機関が活動する際にも、欠かせないものとなってきています。また、国際政治の舞台でも宗教団体の役割が検証されるようになりました。ハイチでは、地震後、カトリックの大司教及びカトリック人道支援団体カリタスの総裁であるダマッド氏を中心にWCRPとの協力のもとに、諸宗教の指導者が集まって子どもに対する「社会・心理的なケア」の取り組みが始まっています。今回のプロジェクトの趣旨は、教団が母体の人道開発支援団体を含めた宗教共同体のすべてを活かしてユニセフとの協力のもと、子どもの保護を図っていくことにあります。

紛争下のシエラレオネでは、キリスト教徒とイスラム教徒が諸宗教評議会をつくり、この母体は政府側とゲリラ側双方の信頼を得て、和平交渉の仲介役を果たしました。これは、宗教者の持つ社会的信頼性が生かされた事例です。1997年には、諸宗教評議会の女性達がゲリラ側との交渉を行い、当時誘拐されていた57名の子どもたちを無事に保護することに成功しました。また、ウガンダでは北部で紛争があり、少年・少女兵達がゲリラに戦闘員として誘拐され、その後村に帰るのが難しい中、宗教者が村人に’許し’や’和解の精神’を教育していくことで、傷ついた少年・少女兵の社会復帰と帰還に貢献しています。ウガンダでは、さらに、南部でも諸宗教評議会がエイズ孤児の救済プロジェクトに協力しています。

今回、紛争下・後の状況の中で、子どもの保護団体であるユニセフと協力することにより、「戦略的人道支援」*を進めていくことができます。そして、これは宗教系専門NGO団体にとどまらず宗教教団全組織の協力を得ようとする試みでもあります。

* 戦略的人道支援: 紛争下・後に、人道支援を通して意図的に信頼の醸成と紛争の和解を行っていく取り組み

フィリピンからお越しのベイバド教授からは、フィリピンミンダナオでのユニセフとWCRPの共同プロジェクトの事例についてお話いただきました。

© 日本ユニセフ協会/2010

セント・トーマス大学教授
パブリト・ベイバド氏

 フィリピン南部ミンダナオ島の紛争において最も大きな被害を受けているのは子どもたちです。武力紛争が原因で子どもたちの健康で平和的な生活は剥奪されてしまいました。また、国の発展も阻害されています。いまだに多くの子どもたちが、トラウマ、心理的ストレス、勉強に集中できないなどの問題を抱え、住む家を離れ、込み合った避難所センターでの生活を余儀なくされています。健康状態もよくありません。今回、ユニセフとReligions for Peaceの共同プロジェクトには、ミンダナオ中心部の、マギンダナオ州、コタバト州、そしてスルタン・クダラート州を含む、紛争が続いている地域が対象として選ばれました。ここには、イスラム共同体、キリスト教共同体、先住民の共同体、様々な宗教が混在する共同体の、4つのコミュニティがあります。ユニセフのフィリピン事務所とWCRPのフィリピン委員会は、本部の指導のもと、新たに子どもたちを暴力から守るために諸宗教的なアプローチを取り、それによって、紛争の影響を受けた子どもたちを守り、ミンダナオの和平構築に貢献することを考えています。

具体的目標として、2つのことが挙げられます。1つは、諸宗教者の能力を強化し、さらにユニセフのような子どもの権利擁護団体の協力を得ることで、子ども保護のためのアドボカシー、サービスの提供に貢献すること。ユニセフは、子どもを守ることにおいて専門的知識とノウハウを持っています。一方、宗教者はそのコミュニティでの権威として弱い立場にある人々を保護する役割をにない、人々の日々の生活への影響力とアクセスがあります。こうした両者の強みを合わせ、地域の文化的・宗教的な側面にまで焦点をあてて子ども保護の取り組みを向上していくことができます。2つめは、ミンダナオの和平交渉においても、子どもの権利の問題が主張され、さらに子どもたちの声を届けるということです。具体的に、フィリピン共和国とモロイスラム解放戦線の和平交渉の中で、子どもの問題が取り上げられるように特別委員会を設置しようということをプロジェクトの中で行っています。武力紛争の終結なしには、フィリピン南部での子どもへの暴力を撲滅することはできません。

最後に、この場をお借りしまして、フィリピンの子ども保護にご協力いただいております日本の皆様にお礼申し上げます。

最後に、JENの木山様から、日本のNGOとして国際協力の現場でご活躍された経験から、お声をいただきました。

© 日本ユニセフ協会/2010

JEN 事務局長
木山 啓子氏

 JENは、自立ということをサポートしています。今日のテーマは紛争下・紛争後ということで、先日災害地で見てきた、ミャンマーの被災地でのお寺の取り組みについてこうした活動が紛争下・後でもできるかと思い、お話させていただきます。人々の自立のためには、教育が必要ですが、紛争や災害によって教育の機会がうばわれ、技能がないために、貧困に取り残され、自立ができないといった悪循環に陥ることがあります。しかし、学校に行けないからといって、教育が受けられないわけではなくて、宗教者の皆様の信仰の教えを伝えていくノウハウを活用して、子どもたちに教育を与えていくことができるのではないかと思いました。また、教育の機会を失って大きくなった大人たち、紛争や災害によって厳しい状況に置かれている大人たちをサポートし、弱い立場に置かれている人々を勇気付け、心のケアの支援を提供することも、宗教者の方ができる役割ではないかと考えています。

そして、紛争が起きてしまう前にどうしても起こさないことが大切であると思います。JENは旧ユーゴスラビアで、民族間で共に住んでいくことができるようにする平和構築の活動をしました。このとき紛争は「民族紛争」とも「宗教紛争」ともいわれました。その中、紛争後の交流だけではなく、紛争が起こる前からどうしたら宗教が紛争の言い訳にされないかを宗教者の皆様が協力して行っていくことが大切であると考えました。また、祈ること自体が大切で、そして戦争を起こさないための行動を日ごろからおこしていくことが重要であると思います。

本当にすべてをなくしてしまったときに、自分のためには頑張れないけれど、誰か他の人のためだったら頑張れるということが、人々の心にあるということを日々現場で見てきました。人の役に立てることが人の心を豊かにする、その意味でも宗教者の皆様はサポートができるのではないかと思っています。

4名のパネリストの皆様からは、ユニセフを初めとして子どもの保護の分野で活動する団体と宗教者の連帯の意義について、世界各地での具体的な事例とともに、様々な視点から貴重なご意見をいただきました。

さらに、ユニセフのハマー氏からは、宗教者との連帯により、FGM/C(女性性器切除)など、いままで「宗教」に関わる問題とされ解決が難しかった子どもに悪影響を及ぼす慣習の根絶に向けて、新しいアプローチを取ることができると指摘されました。FGM/Cの問題は、今まで「宗教」の問題として取り上げられてきましたが、実は「文化」の問題であるといわれています。宗教者の立場から、こうした慣習が宗教の教義に基づくものではないと明らかにされることは、子どもに悪影響を及ぼす慣習の根絶に向けて大きな一歩となります。また、4人のパネリストからは平和の重要性についての声が聞かれ、子ども保護とともに平和構築への関心の高さが伺えました。

関連記事:

「From Commitment to Action: What Religious Communities can do to Eliminate Violence against Children (コミットメントから行動へ:子どもに対する暴力を根絶するために宗教コミュニティができること)」 (英語版 21.5MB) ダウンロード可

※ このイニシアティブのもと、2006年には、ユニセフと世界宗教者平和会議により子どもへの暴力を撲滅するための宗教コミュニティのためのガイドブックが刊行されました。このガイドブックは、すでに国連事務総長 子どもに対する暴力を根絶するための特別委員会によって活用されています。

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