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公益財団法人日本ユニセフ協会

「緊急時下の教育」
ユニセフ事務局長 アンソニー・レーク
オスロ教育サミットに先立ち

【2015年7月3日ニューヨーク発】

7月6日〜7日の2日間、「教育と開発のためのオスロ・サミット」がノルウェーのオスロで開催されています。世界のリーダーが集い、紛争や危機、貧困に見舞われた国々で教育を振興するための国際協調努力に対する支援を呼びかけるこのサミットに先立ち、ユニセフのアンソニー・レーク事務局長が海外メディアに次の文を寄稿しました。

原文の記事はこちら(英語)

* * *

私は以前、ヨルダンのザータリ難民キャンプで一人の少女と出会いました。難民キャンプで暮らす他の多くの子どもたちと同様に、彼女の家族も悪化をたどるシリア紛争から逃れてきたのでした。最初にその少女を見かけたのは、立ち並ぶテントの隙間に作られた、急ごしらえの教室でした。その後、私はまた、地面がでこぼこの広場で他の子どもたちと遊んでいる彼女に出会いました。

少女の選択

ザータリ難民キャンプに身を寄せるシリア難民の女の子。
© UNICEF/UKLA2013-01178/Malkawi
ヨルダンのザータリ難民キャンプに身を寄せるシリア難民の女の子。※記事との直接の関係はありません。

私はその少女に、教室で勉強しているのと友だちと遊んでいるのでは、どちらがいいか聞きました。もし私が彼女くらいの歳だったとしたら、答えは当然決まっていました。しかし少女は、教室で勉強するほうを選択しました。彼女の答えは、多くのことを語っています。その少女にとって、シリアに残して来ざるを得なかった多くの物事のうち、教育だけは失うわけにいかないものでした。はく奪、暴力、喪失によって決定づけられる未来から逃れ、医者になるという夢を叶えるためにも。

私は、シリアや世界の様々な緊急事態下にいる多くの子どもたちから、同じように教育を切望する声を聞いてきました。子どもたちは、心の底から学校に行きたいのです。彼女たちの家族もまた、子どもたちに教育を受けさせたいのです。

暴力と不安定な日々の中で、学校は、学ぶ機会を得る場所であり、心身を癒す守られた場所であり、日常を取り戻す場所であり、将来への希望です。教育は、いつか子どもたちが自分自身を守り、よりよい人生を見出すチャンスを増やすだけでなく、彼らが社会を立て直していくためのスキルも与えてくれます。また教育は、いつか紛争が止み悲劇に終わりが来たときに、和解を達成しようとする強い気持ちを子どもたちに吹き込んでくれます。

教育がもたらす利益

授業を受けるシリア難民の女の子。
© UNICEF/NYHQ2013-1418/Noorani
難民キャンプ内の学校で授業を受けるシリア難民の女の子。(イラク)

緊急時下の子どもたちに手を差し伸べ、学ぶ機会を提供することは、人道的なニーズを満たすことと開発目標の達成の双方に貢献します。実際のところ、教育がもたらす利益は、人道面と開発面とで、ほぼ完全に並ぶのです。世界のリーダーたちが、今後15年間の開発努力のロードマップとなる持続可能な開発目標(SDGs)の採択に向けて準備をしている中で、このことはとても重要です。

喜ばしいことに、世代をまたがって続く不公平のサイクルを断ち切り、より強い、安定した社会を築く上で教育がとても大切であるという世界の合意は広がりつつあります。SDGで提案された教育目標は、この合意を反映し、インクルーシブな(誰もが受け入れられ)、公平な教育の機会をうたっています。すべての人の初等教育へのアクセスを掲げたミレニアム開発目標(MDGs)とは違い、SDGでは幼児期から中等教育、さらにその上の教育まで、すべての段階で誰もが学ぶ機会を得られることを目標としています。

新たな教育目標を受けて、私たちはその達成への最初の障壁のひとつについて考えなければなりません。それは、世界で緊急事態の数が増え続けているという点です。海外開発研究所(Overseas Development Institute)の最新の報告書によると、学校に通っていない子どもの3人にひとりは、危機に瀕した国で暮らしています。暴力の影響を最も受けている35カ国では、3歳から15歳までの6,500万人の子どもたちが、学ぶ機会を失う危険に直面しています。

紛争や危機は、幼い子どもたちにとって、教育のスタートを切れないということを意味します。学齢期の子どもたちにとっては、教育が中断され取り戻せないことを意味します。教育が途絶えるまでには至らなくとも、適切な訓練を受けた教員や教材が不足し、教育の質は非常に低下して、読み書きの習得さえできなくなります。

中でも、特に深刻な状況に直面する子どもたちがいます。障がいのある子どもたちです。開発途上国では、障がいのある子どもの多くは、就学することができません。緊急事態下では、その僅かな学習の機会すら、減ってしまいます。「万人のための教育 モニタリングレポート」の最新数値によると、紛争下の地域に暮らす少女たちは、安定した地域の子どもたちに比べ、中等教育を受けられない可能性が90%近くも高くなります。たとえあと1年でも学校を続けられれば、少女たちが収入を得る支えとなり、自分たちの子どもを学校に通わせることにつながることを考えると、これは非常に大きな問題です。

緊急事態下の教育のための資金確保を

テントの学校で笑顔を見せる子どもたち。
© UNICEF/NYHQ2015-0612/Rich
国内避難民のための避難所に設置されたテントの学校で笑顔を見せる子どもたち。(ナイジェリア)

緊急事態の影響を受けている子どもの数はこれまでになく多くなっているにもかかわらず、緊急時下の教育に充てられる予算は、驚くほど低いままです。2013年、緊急支援予算から教育に充てられた資金はわずか2%でした。また、教育は、開発の優先事項とはっきり位置づけられているにも関わらず、同年の教育分野への政府開発援助の中から緊急時下の子どもに充てられた資金は10%未満でした。

教育に関するSDG達成に向けて、私たちの投資は、より不安定な世界の現実に対応するものでなくてはなりません。それは、教育は緊急時下のすべての子どもにとって救いとなる重要な要素であると同時に、将来の社会開発への大切な投資であるという、基本的な事実を受け入れることから始まります。私たちは、このことを踏まえ、予測不可能な緊急事態が発生した際の教育のために、より多くの資金をしっかりと確保できるよう、働きかけなければなりません。

この数カ月間にわたり、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の春季会合や5月の世界教育フォーラムの開催地周辺で、緊急時下の教育のための新たなグローバル基金を設立することを検討し始めたグループがありました。詳細は今後議論が必要ですが、このアイデアは勢いを増しています。私たちもこの機運に乗って動き出さなくてはなりません。

選択が迫られているなか、私たちはどちらかを選ばなくてはなりません。いまこそ、緊急時下の教育により多くの資金を充てるべきなのでしょうか。それとも、荒廃した社会を再建するには不十分な教育しか受けられなかった“失われた世代”と称される子ども世代を生みだし、その代償を払うべきなのでしょうか。 夢を実現するチャンスを得られなかった子ども世代が、自分たちの子ども世代によりよい将来を築くチャンスを与えることは、より困難になるでしょう。この悪循環により生じる長期的なコストは、私たち皆の肩に重くのしかかることになるのです。

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