タマヌーン・ヴェジャクル（14歳）
いじめから救ってくれたサッカー〈タイ〉

激しい雨のなか、タマヌーン・ヴェジャクルとチームメイトは、試合前にピッチに出て対戦相手と握手するために整列しました。

「今日の相手はそんなにうまくないんだ」とタマヌーンが言うように、試合はそれほど接戦にならないと予想されました。それでもコーチから言われたように、だれもがベストをつくすつもりです。

チームメイトと同様、タマヌーンも真剣です。この悩み多い10代の若者にとって、それは試合以上の意味を持っているのです。サッカーがなければ、彼は別の生活に踏み込んでしまう可能性があったからです。タマヌーンのトラブルとは、今の学校に転校する前に通っていた国立の寄宿制学校で始まりました。彼はそこで、ほかの子どもたちからひどいいじめを受けていました。

たくさんの心配ごと

タマヌーンの母親ジンダ・ヴェジャクルはこう言いました。「タマヌーンのために良いと思って、その学校に行かせました。けれども息子はいじめられ、なにもかも盗まれてしまったのです。制服から下着まで・・・すべてです。」

母親はその状況からタマヌーンを救うため、タイ南部のカオラックにある家からほど近いバーン・バン・ムアン・スクールに彼を転校させました。

しかしその直後、父親が仕事中の事故で亡くなり、彼は家事の手伝いをしながら、経済的な手助けのために臨時の仕事もしなければならなくなりました。そのうえ、地元の暴走族が彼に目をつけて、仲間に入るように強要しはじめたのです。

ちょうどそんなころ、タマヌーンはサッカーの力を見出しました。

「ぼくはずっとサッカーが好きでした。でもそれだけでなく、暴走族が誘いに来るとき、サッカーを理由に断れることに気づいたんです。サッカーをするからと言ったら、彼らは帰っていきます」とタマヌーン。

サッカーは手本となる人を提供してくれる

学校でミッドフィルダーとしてサッカーをするうちに、タマヌーンの生活にも変化が現れました。「サッカーをしているときはとても楽しいんだ。不安なことやストレスを忘れることができるから。」

彼の先生ナタニー・リムサクルも、それに同意しています。「サッカーはすばらしい活動です。それに、悪い仲間に加わる必要もなくなります。」彼女は、サッカーが10代の若者たちに良い変化をもたらした例をこれまでも見てきたと付け加えました。

タマヌーンはサッカーをすることで、ティーンエージャーをターゲットにしている暴走族メンバーに立ち向かう力をもらいました。最近、いじめにあっている年下の男の子を助けてあげたばかりです。「それがどんなに嫌なことか、ぼくはよく知っています。そんな思いをだれにもしてほしくないんです」とタマヌーンは話してくれました。

またサッカーチームには暴走族よりも、はるかにすばらしいお手本となる人たちがいます。「チームにはほかの少年たちも男性のコーチもいて、母親と話しにくいことも仲間やコーチと話すことができるのです」とリムサクル先生は言います。

雨が降り続くその午後、バーン・バン・ムアン・スクールの少年たちは、相手を負かすことに夢中で、こちらと話をする暇もありませんでした。相手チームのゴール周辺でプレーが展開し、試合は3対0でタマヌーンのチームが勝ちました。背番号14のタマヌーンもこの試合で中心的存在の選手でした。

サッカー大好きのタマヌーンが一番好きなチームは、アーセナル。彼にとって大切なことは、フォワードがゴールできるようにすることだそうです。「ストライカーがゴールを決められるようにボールをうまくパスできるときが、一番気持ちが良いんです。そしてそういうときが最高に幸せだと思います。」

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