
≪ボゴタ 2001年9月30日≫
子どもにやさしい学校をつくろう
<コロンビア>
エドゥアルドとホルヘのお話
エドゥアルドとホルヘは、同じ学校に通う親友どうしです。エドゥアルドは12歳、ホルヘは11歳。二人とも末っ子で、学年もひとつしか離れていません。二人が通っている"エル・ソル・デ・ロス・パストス(パストの太陽)"という名前の学校はパスト市の先住民族グループによってつくられ、コロンビアの先住民のための行政機関"カビルド"が置かれるはずだった場所にあります。
コロンビア南部にあるナリーニョ県の県都、パスト市から2時間ほどの距離にあるガチュカルには、平らな土地はほんの少ししかありません。その貴重な場所に学校はあります。コロンビアの国土を走る3つの山脈は、このあたりの高い山々から北に向かって伸びています。守られるように山々に囲まれた学校の周辺には、小高い丘があり、アヘンを取るためのケシが違法に栽培されています。エドゥアルドをはじめとする学校の子どもたちは、いちばん年上で12歳ですが、みんな家計を支えるためにケシ畑で働いた経験があります。
学校には教室がひとつしかなく、50人近い子どもたちをたった2人の先生が教えています。これ以上先生を雇うお金はありません。それでも何とか授業をするために、1年生から3年生までと、4年生と5年生が2つのグループを作り、教室の右側と左側に分かれて座ります。教室を仕切るものはなく、授業が同時に行われているのです。
教室の外には、広い運動場があります。この学校にある衛生設備といえば、板で囲った粗末なトイレがたったひとつだけです。
エドゥアルドとホルヘが学校に通うのは、友達に会えるし、いろんなことを学べるからです。学校ではまわりの人を大切にすること、挨拶をきちんとすること、礼儀正しくものを頼むことを学んだよ、とホルヘは言います。しかし何より楽しみなのは、友達とビー玉で遊んだり、リベルをして遊ぶことです(リベルとは、鬼がみんなを追いかけ、つかまった子は「洞窟」と呼ばれる場所に閉じ込められるゲームです)。学校の勉強のことや、家の手伝い、将来何をしたいかといったことを、とりとめもなくおしゃべりするのも大好きです。
エドゥアルドとホルヘには、いくつかの共通点があります。2人とも小柄でやせっぽちなので、せいぜい8歳ぐらいにしか見えません。けれども2人の瞳には、強さと、郷愁に似た表情が宿っていて、まるで人生経験を積んだ小さいおとなのような印象を与えます。家の仕事や家畜の世話に追われて、遊びや勉強の時間があまりないことも同じです。「子どもの権利」という言葉は何となく知っていますが、それがどういう考え方なのか、また具体的にはどういうことなのかよくわかっていません。
エドゥアルドが持っているおもちゃといえば、使い古したボールだけです。そのボールを誰にもらったのか、もうエドゥアルドは覚えていません。ホルヘは、姉さんのひとりが遠くで働いているおかげで、もう少しおもちゃを持っています。2人が一番心配していることは、学校で行儀が悪いと先生から親に伝えられることです。そうなると家では体罰が待っています。もっともホルヘは、実際にたたかれることはめったにないと言いますが。
学校の古い建物で過ごす数時間が、2人の少年にとって最高のひとときです。学校にいる間は、家でやらなければならない仕事を忘れることができます。しかし彼らが学校で会う友達の中には、朝食なしで学校に来る子や、家に帰っても食べ物がなく、家族からやさしい言葉もかけてもらえない子もいます。
学校の責任者であるカルロスも、こうした状況を十分わかっています。そこでユニセフの支援を受け、子どもたちのおやつに補助食を配ったり、新しい教室や衛生設備を作るための建設作業をはじめたり、努力を続けています。先住民族の出身であるカルロスは、教師になるための専門教育を終えたあと、最初はボランティアとしてこの学校にやってきました。カルロスは保護者を対象に、子どもへの虐待をなくし、子どもの権利を尊重するための講習会も開いています。
教室と衛生設備の建設は7割ほど終わりましたが、まだ完成とは言えません。ラジオ修理のできる技師になりたい、と将来の夢を語るホルヘに対し、エドゥアルドは目の前の山をだまって眺めています。そしてカルロスも、建築資金をどうやって工面するか、地域の子どもたちの生活環境を改善するにはどうしたらいいか、頭を悩ませています。

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