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財団法人日本ユニセフ協会

世界の子どもたち

<2002年11月13日掲載>

出生登録証がない子どもは「透明人間」ですか?
<ドミニカ>


「やろうと思えばできるんですよ。名前と国籍を所有する権利は奪うことができない権利なのですから」ドミニカ共和国のサン・ファン・デ・ラ・マグアナの司教、ホセ・グルジョン・エストレヤの言葉。

ラファエル、学校で「名前はラファエル、苗字はロドリゲズだよ、おかあさんと妹と同じようにね」と、戸惑いながら語るのは10歳の少年。父親はだれだか分かりませんが、サマナ(ドミニカ共和国北部の海岸沿いの町)にある農場で生まれたのだと言います。少なくとも母親からはそう聞いています。出生の秘密は、彼にとってはどうでもいいこと。彼は「透明人間」のような存在なのです。
 事実、彼が突然姿を消したとしても、あるいは、彼を知る人たちがこの子のことを忘れたとしても、不思議がられることもなく、この世から消えることになるでしょう。そう、まるで魔法のように。そうしたら、彼の家族以外に、彼のことを覚えていてくれる人はいるでしょうか?

 幸い、ラファエルの場合は、状況が少し変わってきました。今月、彼は初めて学校に登録されたのです。正式には出生を証明してくれる公式な文書はありませんが、少なくとも教育制度上では、彼は存在することになります。彼と同じような男の子や女の子がドミニカにはたくさんいます。法的な保護から外れた子どもたちです。

 2001年に教育省が行った統計調査によると、ドミニカ共和国の児童のうち、63,000人の男の子と女の子が、出生登録されていないことが分かりました。これだけを見ても、ドミニカの子どもたちは大変な事態にあることが分かります。こうした出生登録証を持たない子どもたちの多くは、学校に行くことができないのです。同じ年に行われたMICS調査(複数指標クラスター調査=「子どもたのための世界サミット」の目標を達成しているかどうかを知る調査方法)では、ドミニカ人の両親を持つ5歳未満の子どもの25.4%が、出生登録されていないことが分かりました。

 出生登録証がない事実は、昨年の7月に大きな話題となりました。教育大臣であり、ドミニカ共和国の副大統領でもあるミラグロス・オルティス・ボッシュが、出生登録されていない子どもでも学校に登録することを認めると発言したからです。

 即座に、政治や教育とつながりがある団体を中心に非難の声があがりました。「国家に対する反逆だ」と。つまり、ドミニカ共和国に違法に住みついたハイチの人たちが、どさくさにまぎれて、ドミニカの教育制度に自分の子どもの名前を登録できてしまう、というのが理由でした。再び、不法移民の問題が(そこから引き起こされる差別とともに)、ハイチ人の子どももドミニカ人の子どもも、どちらの子どもの権利も危機的な状態にさらしてしまったのです。

 いろいろなところから上がってくる反対に対して(これらはいまだにメディアで取り上げられ、討論されています)、ドミニカのイポリト・メヒーア大統領は次のように発言しました。 「ハイチ人の両親を持った子どもでも、学校に行くことを拒むことはできません。なぜならば、彼らの人権は尊重されなければならないからです」

 このとき以来(2001年7月)、学校への登録に際しては、あまり難しい条件もなく登録できるようになりました。だから、ラファエル・ロドリゲズには先生がいます。それでも少数民族に関して言えば、まだ出生登録の問題は解決されずに残っています。現政府が「国家的な優先事項」と考えていることに国民全体の合意がとりつけられていないからです。

疎外との闘い

出生登録証がない人たちは、社会制度から外れてしまっています。 名前と国籍を持つ権利は、人権宣言の6条と15条にうたわれています。「人は誰しも法の下においても、人として認められる権利…と、国籍をもつ権利を有する」
 「子どもの権利条約」でも、「子どもは、生まれたらすぐに登録されなければなりません。子どもは、名前や国籍を持ち、親を知り、親に育ててもらう権利を持っています」 と定められています。それでも、世界の多くの子どもたちが、この原則に守られないまま生きているのです。

 ドミニカもこの例外ではありません。だからこそ各種機関や国際組織が、10年以上もの間、ドミニカの人々の権利の推進に努力しているのです。ユニセフ(国連児童基金)は、ラテン・アメリカとカリブ海地域の国々で支援活動を行い、子どもや若者の権利の保護と推進にまい進しています。

 「名前と国籍を持つ権利」キャンペーンが、そのひとつです。これは2000年に始まったもので、ユニセフとコンセイロ・エピスコパル・ラティノアメリカーノ(CELAM)が出生登録の問題に対処するために共同で活動することを約束し、契約を結んだものです。出生登録されていない子どもの数は、ラテン・アメリカとカリブ海地域では、年間に推定120万人にのぼると見られています。

ラファエル、学校で 子どもの出生登録問題を解決する方法として、2001年9月から12月にかけて、12歳未満の子ども5004人(男女双方含む)が登録された、サンファン・デ・ラ・マグアナ司教区の例があります。この5004人全員は、市民になることができ、今日、彼らの名前は、教育省の公式名簿と、彼らが住んでいるコミュニティの公式記録に載っています。

 今まで持っていなかった出生登録証が得られたことで、彼らは、今までに得られなかったチャンスを手にすることができました。ほかの人たちが住んでいる世界にアクセスする権利です。当局者の人たちを前に、以前「透明人間」だった子どもたちが、生身の人間として、権利を与えられて生きはじめたのです。

サン・ファン・デ・ラ・マグアナ、ユニセフ 2002年10月31日
執筆者:タニア・ポランコ(ジャーナリスト)

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