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世界の子どもたち

<2002年6月24日 掲載>

子ども議会に参加して
内気な少年は明るい未来を夢見るようになった
<モルドバ>


 キシニョフ郡ラゼニ村に住む12歳のヴァシリカ・プーカヌ少年は、小さい肩に苦難の人生を背負っています。体格は小柄で、年齢の割りに背の小さいヴァシリカは、失業中の父親と毎日を必死に生きています。モルドバでは、大多数の住民が同じような境遇に置かれています。

 2年前、英語教師をしていたヴァシリカの母親は、仕事を見つけるためにイタリアに行きました。20ドルに満たない教師の月給では、生活が成り立ちません。そこでヴァシリカの母親は、家族を養うために外国に出稼ぎに行かざるを得なくなってしまったのです。母親はイタリアから仕送りをしてくれますが、それだけでは生活費をまかなえません。

 でも、ヴァシリカは不満をこぼさないように努力しています。彼の頭の中はいろいろなアイディアがいっぱいで、明るい将来を夢見ています。モルドバの人びと、とりわけ子どもたちの過酷な生活は変えることができると信じています。難しく、大変な努力が必要なことかもしれませんが、不可能ではないのです。

 ヴァシリカは「ユニセフ・モルドバ事務所の支援で開かれた子ども議会で議員役をやってからの僕の生活、そしてとりわけ自分の将来についての考え方ががらりと変わったんだ」と話します。

 ヴァシリカは子ども議会で議員役を務めたいと願っていました。「最初は、自分の考えを口にするのがとてもこわかった。でも勇気を出して立ち上がり、自分の生活や、この国の子どもたちの生活について、思っていることを話してみた。今まで胸のなかだけにしまっておいたことを、全部吐き出したんだよ。自分でも、そんなことができるなんて思ってもみなかったけど。」

 人前で話すのが怖かった内気な少年は、直面する問題に前向きに取り組もうとする楽観主義者に変身しました。実際に子ども議会が開かれると、ヴァシリカはさらに積極的になりました。法律の草案をはじめ、彼が出した数々の提案はすぐに仲間たちに承認されました。

 文化・教育・メディア委員会に属しているヴァシリカは、委員会の活動に参加して多くの知識を身につけました。地元の新聞にいくつか記事を書くことになったときも、その知識が役に立っています。

 ヴァシリカは確信しています。社会は変えられるし、人びとの生活は今より良くなるということを。しかし、より良い生活を実現するには、人びとが自分の権利について正しい知識を持ち、政治家の目をこちらに向けさせなくてはなりません。

 彼がとりわけ誇りに思っているのは、同じ学校の7年生に向けておこなった、子どもの権利条約に関するスピーチです。「みんな僕より年上なのに、熱心に話を聞いてくれたし、この問題に興味を持ってくれたから、とてもうれしかった」とヴァシリカは話します。

 最近、彼のアイディアがもうひとつ実現しました。彼の通う学校に「プロ・アクション」というNGOが誕生したのです。このNGOには、生徒だけでなく教師も参加しています。

 遠くに暮らす母親を恋しいと思うヴァシリカですが、勉強もがんばっていて、どの科目も「大変良い」「良い」という評価ばかりです。昨年、姉が隣国ルーマニアの大学に入ったので、いまは父親と二人暮らしです。学校の勉強は父親が見てくれます。

 父親のゲオルグ・プーカヌは、息子は遊ぶ時間が少ないと言います。家で飼っている牛や山羊、羊に餌をやったり、父親が畑を耕すのを手伝ったり、家事をこなしたりと、大人並みの責任がヴァシリカにのしかかっているのです。

 ヴァシリカは12歳にして、もうたいていの料理は作れます。機械にも詳しくて、自転車に取り付ける装置も自分で作っていたと父親は話します。「息子のことを誇りに思っています。子ども議会の一員になってから、あの子は変わりました。独立心や責任感が強くなって、おとなっぽくなりました。人生を真剣に考えているようです」

 ヴァシリカには夢があります。それは弁護士か子どものオンブズマンになって、子どもたちの権利を守る仕事をすることです。この夢を実現するには、大変な努力が必要ですが、最初の一歩はすでに踏み出しています—ユニセフのプロジェクトで経験を積んだからです。「社会が変わると、いちばんに影響を受けるのは子どもです。子どもの暮らしも、いままでと同じではなく、変えていく必要があります。大人は子どもに教育を与えることで、子どもが知識や技術を伸ばすのを手助けすべきなのです。」とヴァシリカは話します。

 ヴァシリカは、子どもをめぐるいろいろな問題には、新しい取り組み方が必要だと考えています。「僕たちの社会のなかで、子どもには新しい地位が与えられるべきです。自分たちの利益を左右する決定に、子ども自身が影響力を持つ必要があります。子ども議会は、まさにそのための努力をしているのです。大人は子どもたちの提言に耳を傾け、支援しなくてはいけません。それが、民主主義の理念を実現するたったひとつの道です。」

キシニョフ、2002年5月27日(ユニセフ)

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