メニューをスキップ
HOME > 世界の子どもたち > ストーリーを読む

世界の子どもたち

≪2001年7月9日掲載≫

「進歩の学校」は、希望の光
<ウズベキスタン>

塩害と水質汚染の進むアラル海周辺では、ユニセフの支援でちょっと変わった学校が運営されています。その学校は、絶望的な状況のなかで唯一、希望の光と呼べるものなのです。

 

ユニセフ・ウズベキスタン事務所のルディ・ロドリゲスは、きっぱりとした口調で語ります。「アラル海は死んでしまいました。もう二度と元の姿に戻りません。しかしこの地域に暮らす人びとは、ここを離れたくないのです。八方塞がりの状況のなかで、わずかに希望の光を与えてくれるのが「進歩の学校」です。

ウズベキスタンのカラカルパクスタン地方は、60年前から実施された旧ソ連邦の計画経済によって、自然がすっかり改造されてしまいました。表土の薄い草原地帯で、綿や米など大量の水を必要とする作物を育てるために、アラル海に注ぐ二本の大河から水を取る灌漑システムが作られたのです。灌漑が進み、浅い地下水面が上昇するにつれて、淡水の塩分濃度が高くなり、土壌の栄養分が流出しました。水が入ってこなくなったアラル海が干上がるにつれて、豊かだった漁業資源も枯渇し、さらには農地の生産性も低下しました。

現在この地方には350万人が住んでいます。乳幼児の死亡率が極端に高く、妊娠可能年齢にある女性が病気にかかったり、出産時に死亡する例も多く見られます。貧血、チフス、呼吸器や消化器系の病気、ガン、肝炎の発生率も突出しており、平均寿命も短くなっています。硬度が高く、塩分が多いため飲用に適さない水を、人びとは毎日飲んでいます。失業率は高く、アルコールや薬物依存者の割合も高くなっています。平均所得は月6ドルしかありません。川の水量を維持するうえで不可欠な雪と雨が少なかったことも、ただでさえ脆弱なこの地域に打撃を与えており、水不足と不作が深刻な状況にあります。住民は食糧不足に苦しみ、飢饉の危険さえあります。

このように想像を絶する過酷な土地ですが、ここにひとりのすばらしい女性が希望の持てる場所を作っています。それは、リリー・ラガジエさんが創設し、運営している「進歩の学校」です。この学校は、カラカルパクスタン地方の首都ヌクスにあります。共和国が成立してまもない1991年に英語学校として出発、現在は「青少年のための最新教育センター」として、語学学校、ビジネススクール、幼稚園、体育学校などを展開しています。貧困家庭から出てきた子どものケア施設も、ユニセフの支援で運営されています。

「この地域は荒廃が進んでいます」とユニセフのロドリゲスは語ります。「そのことは否定できません。しかしここで起こりつつある変化のパワーもまた、否定できない事実です」この学校の中庭では、トルクメンじゅうたんの上で体操チームがスピンの練習をしています。総人口2400万人のウズベキスタン共和国では、ここの体操チームはもちろん「進歩の学校」のことも広く知られています。入学審査は学力よりも人間性重視で、1クラスは10〜15名、旧ソ連圏の学校には珍しく自由な座席配置になっています。ビジネススクールの卒業生は、大きな多国籍企業に就職を果たしていますし、語学学校を卒業後、旧ソ連の一流大学に入学した人もたくさんいます。

実際に学校を訪れると、驚くことばかりです。生徒や教師の活気と熱意が、その表情だけでなく、壁や本、カーテン、ピンボードからも伝わってきます。この学校は愛情の所産です。壁の装飾は、職人や父兄が無償または格安で引き受けてくれたものですし、休憩室を彩るのはウズベキスタン伝統のモザイクです。トイレや娯楽スペースもきれいに磨きあげられています。また、近隣の地域や村々に出かけて、ハンディキャップがある子どもや貧しい子どもを教えるプログラムも行なわれており、それを手伝っているのは上級生たちです。ユニセフの奨学金制度を利用して、今学期はさらに60名の恵まれない子どもたちが語学の授業を受けられるようになりました。

「いちばん大切なのはやる気です」とリリーは語ります。「これまで子どもたちの存在は忘れられていました。アラル海を救えという会議やセミナーはたくさん開かれ、声明も発表されますが、そこに暮らす人びとのことが忘れられています。ここでは子どもたちに対して、生き抜くことだけでなく、現状を変えるために何かできるはずだと教えています。世界はもっと美しくなるはずだと。それを通じて、私たちみんなが学び、変化していくのです」

ユニセフの支援になると、リリーの口調にいっそう熱がこもります。「もしユニセフがなかったら、とうていここまで続かなかったでしょう。たしかにお金も大切ですが、アドバイスやモラル・サポート(精神的な後押し)がいちばん助かりました」進歩の学校には「ユニセフ・ルーム」がありますが、ここは寄付者に見せるための部屋ではありません。コンピュータの端末が置かれ、子どもの権利条約に関する資料も揃っていて、大いに活用されています。「学校と子どもたちは、ユニセフを通じて世界とつながっているのです」とリリー。

トップページへコーナートップへ戻る先頭に戻る