【2017年12月28日 東京発】
© 日本ユニセフ協会/2017 |
日本ユニセフ協会とUNICEF東京事務所は、「子どもの命を守る」取り組みをテーマにしたシンポジウムを、12月15日(金)、東京・港区のユニセフハウスで開催しました。
日本ユニセフ協会専務理事の早水研は、冒頭の挨拶で、本シンポジウムのテーマである「子どもの命を守る」はユニセフの最優先課題であり、特に幼い子どもへの支援が重要だと述べました。そして、ユニセフの「公平性に基づく支援」は、『誰ひとり取り残さない』という持続可能な開発目標(SDGs)の理念にも沿うものであり、その実現の必要性を強調しました。
また、本シンポジウムは、「すべての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要なときに、負担可能な費用で享受できる世界」の実現を目指すユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をテーマとした国際会議「UHCフォーラム2017」の開催に合わせて企画。日本の経験をどのように活かし幼い子どもたちの命を守っていくかについて、議論と理解を深める機会としたい、と述べました。
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開会の挨拶に立った外務省国際協力局の鷲見学・国際保健政策室長は、日本が、人間の安全保障の観点から長年にわたり国際保健を重視してきたことについて、2016年のG7伊勢志摩サミットで日本が議長国として首脳レベルで初めてUHCの推進を掲げたこと、TICAD VIにおけるUHC in Africaの発表や国連総会等の機会を通じてUHCの重要性を広げてきたことについて述べました。
また、UHCを推進するにあたっては色々な要素が関係すると述べ、そのなかで、現場での強い発信力、現場での高いデリバリー能力、そして地域(コミュニティ)との関係を持つユニセフとの協力を重視し、ユニセフの現在の戦略計画のなかで、保健、栄養、水と衛生、HIV/エイズの分野は特に強くUHCの推進に直結する活動であると述べました。
「UHCフォーラム2017」においては、安倍晋三内閣総理大臣が出席したほか、各国の政府高官や国際機関等の代表が一堂に会し、UHC推進に向けた議論が行われ「東京宣言」が採択されたこと。UHCの取り組みを後押しするため、日本は今後29億ドル(約3,300億円)規模の支援を行うことを表明したと述べました。議論された内容として、サービスがあっても享受できない財政上の問題における各国の財務省と保健省の協力の重要性、基本的な人権という側面、経済成長につながるといった視点等が挙げられ、パイロット国の設定等具体的な実施方法についても話されたことを紹介しました。
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基調講演では、UNICEF本部事業局長補兼保健セクションチーフのステファン・ピーターソンより、UHCとユニセフの保健分野の取り組みについて説明しました。そのなかで、2000年から2015年にかけて子どもの死亡率は大きく改善し、5歳未満児の死亡数は1990年時点の年間1,260万人から2016年の560万人にまで削減された一方で、その半数が生後28日未満の新生児であり、新生児生存率の改善速度が遅いこと。最も裕福な子どもたちと比較すると最も貧しい子どもたちは5歳未満の死亡率が1.9倍であることを指摘しました。
そして、UHCの達成に向けて、U (universal):女性、子ども、不利な状況にある人々をはじめとするすべての人へ、H(health):治療に限らず予防等の対策を、栄養や水・衛生分野の対応とともにマルチ・セクターで、C(coverage):各国の事情に合わせてパッケージ化することが重要であると述べました。
また、子どもの命の多くは地域レベルで守られていることに触れたうえで、母子を取り巻く地域の包括的な保健医療システムが不可欠であると強調。UHC達成のためには、1961年に「国民皆保険」を導入した日本のようなリーダーシップ、市民社会のアドボカシー活動が求められていることに触れ、ユニセフは、各国政府が地域の保健医療システムを形成し、分野横断的なサービスを提供できるよう支援していくと述べ、締めくくりました。
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UNICEF本部事業局保健セクション上席アドバイザーである、デイビッド・ヒップグレイブは、ユニセフの保健分野の活動には以下の3つの重点があると説明しました。
そのなかで、特に新生児死亡率を改善するためには、出産前後のケア、医療・保健施設の質を確保することが重要であり、保健サービスにおける「支払可能な費用」の達成においては、政府が医療費を負担するシステムの構築や、ユニセフによる現金給付支援の実施について述べました。
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コーディネーターをつとめた関西学院大学の久木田純 教授は、地域保健医療の取り組みであるプライマリー・ヘルスケア(PHC)について、「私がユニセフ職員として働いていた頃の最後の赴任地が中央アジアのカザフスタンでした。カザフスタンにあるアルマ・アタで1978年に宣言されたのが、PHCでした」と振り返ります。
日本では、約40年前にアルマ・アタでPHCが提唱されるはるか前から、地域が主体となって保健医療の拡充に取り組んできました。地域のリーダーの意思、地域の人々、それをつなぐ医療・保健従事者の努力によって、日本の多くの子どもたちの命が守られました。これは、まさにユニセフがPHC、そして現在UHCの名の元に世界各国で取り組んでいること、そのものでした。
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基調講演につづくパネルディスカッションでは、まず、佐久総合病院の坂本昌彦 国際保健医療科・小児科医長が、佐久病院の「農民とともに」の精神、そして1945年の故若月俊一名誉総長赴任以来取り組まれてきた活動について説明しました。
坂本氏はまず、当時の農村の背景について、敗戦直前の栄養事情の悪化で乳児死亡率が非常に高かったことに加え、住民は「健康を守る」という考え方そのものが欠如し、病気に気づかない(潜在疾病)、もしくは我慢しながら厳しい労働に従事していたことを説明しました。
そのような中、1945年に出張診療を開始し、病院で患者を待つのではなく地域へ出て診療を行い、診療後は必ず衛生講話と演劇をセットにして、予防教育に力を入れたこと、そして当時の演劇は、今でも佐久病院の病院祭で研修医が来場者向けに行う健康演劇へと受け継がれていることを紹介しました。
また、1959年に始まった八千穂村と共同の全村健康管理活動では、集団健康スクリーニングや定期検診等を行い、住民の中から選ばれた衛生指導員の育成も図られ、この結果、入院件数、国保医療費の減少等が実現し、「予防は治療にまさる」を実証したと坂本氏は説明しました。
「行政・医療機関はもっと地域へ。住民を真に理解し、連携しなければ医療を作ることはできません。」最後に坂本氏は、佐久病院からの提言を述べ、締めくくりました。
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岡山県保健福祉部の山野井尚美 健康推進課長は、愛育委員の活動と保健師教育、県の健康づくり施策について説明しました。
山野井氏はまず、現在の岡山県の施策について、「すべての子ども達が晴れやかな笑顔で暮らす生き活き岡山の実現」を目指していることを述べました。そのうえで、同県において、行政とともに車の両輪となって県民の健康づくりを推進している2つの健康づくりボランティア、母子保健活動を基盤とする「愛育委員連合会」と、食生活を中心とする「栄養改善協議会」について言及しました。
岡山県の保健師と愛育委員の歴史については、昭和初期から看護の知識を生活全般に反映させることを願い、早くから始めた保健師教育が大きく関与していることを指摘。戦後の乳児死亡、妊産婦死亡などの課題に対する地域密着型ボランティア組織育成のため、1950年に同県で愛育委員設置要綱を制定したと述べました。
愛育委員の取り組みについて山野井氏は、「時代は変わろうとも、各地域で、世の光、世の守、世の力となるよう各戸への声かけ訪問をはじめ、地域母子保健の推進、その時代の新たな地域課題の解決のため、ソーシャルキャピタルの役割を担っている」と説明。「今後とも、愛育委員の地域力とともに妊娠・出産・育児の切れ目ない支援が強化できるよう新晴れの国・おかやまを目指した活動を展開したい」と述べました。
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武田薬品工業株式会社の圭室俊雄 CCPA/CSRヘッドは、事業プロセスにおける考え方について説明するとともに、SDGsへのアプローチを紹介しました。まず、SDGsについて、ステークホルダー間の「共通言語」であり、事業活動と社会とが同じ方向を向いたアプローチが可能であると述べました。
事業プロセスにおいては、Patient:患者さん中心、Trust:社会との信頼関係構築、Reputation:レピュテーションの向上、Business:事業の発展、の順に重視し、企業としての活動と企業市民としての活動が、持続可能な企業、持続可能な社会の成長につながるという考え方に基づいていると述べました。
また、グローバル製薬企業として持続可能な価値を創出する(Sustainable Value Creation)ために、医薬品のアクセス向上、EHS(環境・健康・安全)活動の推進、サプライヤー管理やグローバルCSRプログラムに取り組んでいると説明しました。
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パネルディスカッションの最中、たびたび言及された近江商人の心得「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」からなる「三方良し」。地域社会とともに歩んでいくことの大切さを説くこの精神は、それぞれの担い手に通じるものがあるのではないでしょうか。
シンポジウムに参加された方々からも、次のようなお声を頂戴しています。
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