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日本ユニセフ協会
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ユニセフ現地報告会
ロヒンギャ難民危機から2年
子どもたちを失われた世代にしないために

【2019年11月5日  東京発】

公益財団法人日本ユニセフ協会は、2019年10月7日(月)にユニセフハウス(東京都港区)にて、ユニセフのバングラデシュ事務所、ミャンマー事務所の両代表によるロヒンギャ難民支援報告会を開催しました。両代表の報告の要旨は以下の通りです。

* * *

報告① ロヒンギャ難民支援-成果と課題
ユニセフ・バングラデシュ事務所代表 穂積智夫

©日本ユニセフ協会/2019

ユニセフ・バングラデシュ事務所代表 穂積智夫

ロヒンギャ難民の背景

ロヒンギャ難民危機は、昨日今日始まった問題ではなく、長い歴史があります。近現代だけを見ても、1977年~1978年に20万人以上の難民が流出し、次いで1991~1992年、2016年にも7万人規模で流出。いずれにも共通するのは、ミャンマーのラカイン州でのロヒンギャの人々への差別や暴力、そしてその根底にあるロヒンギャの人々の国籍・市民権の問題です。

2017年8月に始まった今回の危機は、74万5,000人の人々が3~4カ月の間に流入するという、未曽有の規模で起こりました。それ以前からバングラデシュで暮らしていた難民を含めると91万人となります。これだけの規模の難民を受け入れているコミュニティへの影響は甚大で、コミュニティの人々を含め合計120万人が、この危機の影響を受けていると考えられます。そのうち57%が18歳未満の子どもです。

南東部コックスバザールには、合計34カ所の難民キャンプがあります。最も大きいクトゥパロン難民キャンプには61万人が暮らし、現在世界最大の難民キャンプです。2年前の危機の当初は難民歓迎のムードがあったこれらの地でも、例えば渋滞、物価の上昇、社会サービスのひっ迫など受け入れコミュニティの生活への影響が大きくなるにつれ、難民とコミュニティの間の緊張が高まってきています。さらに、自然災害の多いバングラデシュは毎年サイクロン等に襲われており、そういった災害に脆弱な難民キャンプでは、感染症の発生などが心配されています。

ユニセフの対応

© UNICEF/UN0158189/Sujan

ユニセフの学習センターに通う子どもたち。(2018年1月2日撮影)

2017~2018年は、まずは大量の難民の命を守り感染症の流行が起こらないように、”生存“のための支援を行ってきました。2019年は、”Beyond Survival“というスローガンのもと、生存のその先、ロヒンギャの子どもたちがきちんとしたカリキュラムに則った持続的な教育を受けられるようにする支援を強化しました。教育が、子どもたち一人ひとりの将来に必要であるだけでなく、この危機の持続的な解決の糸口になると考えているからです。

同時に、受け入れコミュニティも含めた地域全体への支援もおこなっています。コックスバザールは、バングラデシュの中でも貧しい地域で、元々支援を必要とする地域です。短期的な緊急支援から持続的な開発支援につながるように進めています。具体的には、安全な水やトイレの提供、21万人の子どもたちへの教育支援、カウンセリング、ジェンダーに基づく暴力の予防や対応、また予防接種や栄養改善の支援も継続しています。

出口の見えない危機―直面する課題

© UNICEF/UN0333578/Nybo

バングラデシュの難民キャンプで暮らす、ロヒンギャ難民のモハメッドくん(14歳)

今も様々な課題があります。まず、難民の人々は正式に労働することができず、援助に頼らざるを得ない生活が続いています。政治的に難しい状況の中、解決への道筋も不透明です。限られた土地の中でいかに過密を軽減するかも、支援をするにあたって考えていかなければなりません。

また初等教育などが整備される一方で、15歳~24歳の若者の80%以上が教育も職業訓練も受けることができていないという問題があります。将来が見えないというのは、大きなフラストレーションになり、若者が希望を失う原因にもなります。その結果、良くない道に進んでしまうことも考えられ、いかにこうした若者への職業訓練などを拡充していくかが課題です。

モンスーンやサイクロンなど自然災害への対応や病気の予防も必要です。こうした中でも、とくに支援が届きにくいのが、10代の女の子や障害のある子どもたちです。また、過酷な生活の中で家計の負担を減らすために児童労働や児童婚、最悪の場合には人身売買といった事態が増えていくことも懸念されています。

いまバングラデシュではロヒンギャ危機に対し130ほどのNGOとおよそ20の国連機関が活動していますが、ユニセフの予算だけでも1億5,200万米ドルの規模で展開しています。日本からは、日本政府から29億円の支援、さらに日本ユニセフ協会を通じて10億円を超える支援をいただいています。そうしたご支援は、保健、衛生、教育、保護などの活動に役立てられています。

発表資料(PDF)はこちらからダウンロードいただけます>>

 

 

報告② ロヒンギャの子どもたちへの支援―ミャンマーにおけるユニセフの支援
ユニセフ・ミャンマー事務所代表 功刀純子

©日本ユニセフ協会/2019

ユニセフ・ミャンマー事務所代表 功刀純子

ミャンマー事務所の代表に着任したのは、この危機が始まった直後で、およそ2年になりますが、この2年間は私のユニセフでのキャリアの中でももっとも難しく厳しい、しかし心動かされる時間だったと言えます。

ミャンマーの現状

ミャンマーは、独立以降、常に紛争の影響を受けている国です。非常に長い間内戦が続き、現在も20もの紛争、対立を国内に抱えています。2010年頃を境に、ミャンマーは国として大きな変革期を迎え、紛争から平和へ様々な課題を抱えながら進んでいます。また、独裁政治から民主政治へ、閉鎖経済から開放経済へと向かっており、そうした背景のもと日本企業の参入も非常に増えました。一方、紛争だけでなく非常に自然災害の多い国でもあり、いくつもの災害と紛争という複数のリスクを抱えた地域がたくさんあります。

ロヒンギャ危機が起こったラカイン州は、ミャンマーの中でもっとも貧しく、子どもたちのリスクがもっとも高い州のひとつです。310万人ほどの人が暮らしていますが、水が手に入れられない、学校に通えないといったことに加え、紛争に子どもが使われたり地雷など爆発物によって死傷したりといった子どもの権利の侵害が続いています。また、ラカイン州には無国籍状態の人が60万人いますが、そのほとんどがロヒンギャの人々です。無国籍かつ国内避難民キャンプに身を寄せる12万8,000人のほとんども、ロヒンギャの人々です。避難民は、ロヒンギャとラカイン州の住民との間で大きな衝突がおこった2012年以降キャンプで暮らしていますが、決して環境は良くありません。自由な移動は制限され、ユニセフなど国際的な支援によって提供されるサービスに頼って生きなくてはならず、将来への希望を持つことができません。紛争の影響を受け、人道支援が必要な人は71万5,000人にのぼり、そのうち36万人以上が子どもです。

失われた世代にしないために―教育支援の重要性

© UNICEF/UN0276540/Htet

子どもにやさしい空間で遊ぶロヒンギャの子どもたち(三ヤンマー・ラカイン州)

人道危機であり、開発の危機でもあるラカイン州の状況においては、その解決策としても教育支援が非常に重要です。子どもたちが学校にいけない背景には、無国籍の国内避難民ということでキャンプからの移動が制限されていたり、学校に行く交通費すらない貧困状態、公式、非公式いずれの教育施設も足りないといった状況があります。いまバングラデシュのコックスバザールに避難している18万人の子どもたちに対し、学習レベルを測る調査を行ったところ、94%が小学校2年生くらいの学力しかありませんでした。これはラカイン州では初等教育の機会が非常に限られていたことを意味します。失われた世代とは言わずとも、取り残されていた世代と言えるでしょう。

人々の帰還のための環境を整えるためにも、十分に学べなかった子どもたちが遅れを取り戻すための非公式の教育を整備する必要がありますが、まだラカイン州中心部の一部でしか行えていないため、拡大するための投資を呼び掛けています。教育省などはより役割を果たすようになってきましたが、政府からの投資は不足しています。ユニセフは、キャンプの外に通学できるよう交通手段を提供したり、高等教育を受けられるようにする支援をしています。また、イスラム教のコミュニティでは女の子の就学率や修了率は国の平均を大きく下回っており、女子教育も課題です。すでにラカイン州にある大きなニーズに応え、帰還への準備も進めなくてはならず、ラカイン州全体の教育分野の計画を整備する必要があります。

前向きな変化も起こっています。教育省は、避難民キャンプを含むラカイン州のすべての子どもたちに教科書を作って配布し、キャンプの中で教えているロヒンギャのボランティア教員への給料も支払い始めています。

日本の支援

© UNICEF/UN0284214/LeMoyne

学習センターを訪問し、子どもたちと触れ合うヘンリエッタ・フォア事務局長。

ユニセフがおこなう教育事業には、日本から大きな支援が寄せられており、非常に感謝しています。日本からの支援によって、学校の建設や修復、10の行政区での非公式の教育プログラムの実施、教育物資の提供や教員のトレーニングなどを行っています。またバングラデシュ事務所と協力して教材の提供、教育専門家の派遣などの支援を行うことができています。また、インターネットを活用した教育というものへも挑戦しようとしていますが、インターネット環境が十分にないため、ビデオパッケージやラジオプログラムなど日本の技術協力をも得ながら、遠隔教育を進めていきたいと考えています。

加えて、人道支援に対して日本ユニセフ協会を通じて日本のみなさまから非常に大きな支援をいただいたことをあらためてお礼申し上げたいと思います。そうした支援のおかげで、保健、栄養、水と衛生、子どもの保護、心理社会的支援、就学前教育といった複数の分野での活動を支えていただいております。また、民間ドナーとのパートナーシップとして例えば立正佼成会様の協力を得て様々な宗教の指導者とともに安定した平和な社会を築くための取り組みを進めています。ミャンマーでは、ロヒンギャだけではなく、長きにわたって少数民族が差別や分断、不平等に苦しみ、それが何十年も続いています。サービスの改善だけでなく、文化的社会的な面を改善し、バングラデシュに逃れた人々が安全で安定していると感じられる環境を整備しなければなりません。

今後に向けて

前進していくために何が今後必要になってくるかという点については、まずこの複雑な状況への理解、そして変革をもたらすための継続的な支援がとても重要です。何十年も続いている状況の変革には時間がかかります。あいにく、期待するようなスピードで変化はみられていませんが、安定的でレジリエントな社会を築いていくためには、失望せず支援を継続していかなければなりません。非常に目まぐるしく状況が変わっている中、必要なところに重点的に資金が投じられるような柔軟な体制も必要だと思います。

日本は、最も信頼されるミャンマーのパートナーの一つです。日本の支援は広く知られており、日本政府や日本のみなさまからの支援に、ミャンマーの人々は非常に感謝しています。重ねて、みなさまのご支援にお礼申し上げます。

発表資料(PDF)はこちらからダウンロードいただけます>>

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