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日本ユニセフ協会

報告会レポート

オンライン開催報告
アフガニスタン・イエメン
~深刻化する人道危機の現場から~

2022年1月19日東京

2021年12月17日(金)、日本ユニセフ協会とUNICEF東京事務所は、世界の人道危機下の子どもたちの現状を伝える報告会『アフガニスタン・イエメン~深刻化する人道危機の現場から』をオンラインで開催しました。

本報告会では、ユニセフが12月7日に発表した世界の人道状況とユニセフの支援計画の概要をご説明するとともに、1,300万人以上の子どもたちが生き延びるために人道支援を必要としているアフガニスタンと、6年以上にわたって紛争が続くイエメンより、現地で活動する日本人職員が、子どもたちの今とユニセフの活動をお話しました。以下、概要をご報告します。

ユニセフ議員連盟挨拶

ユニセフ議員連盟副会長・参議院議員 谷合正明 氏

ユニセフ議員連盟副会長・参議院議員 谷合正明氏

© 日本ユニセフ協会
ユニセフ議員連盟副会長・参議院議員 谷合正明氏

本日は、ユニセフの人道支援報告会にお招きいただき、ありがとうございます。私自身、議員となる以前は国際医療NGOにてアンゴラやパキスタンでの難民支援に従事し、国会議員となった後も、人道支援の強化はライフワークの一つとして取り組んできました。日本が国連加盟65周年を迎えた今年、あらためて新型コロナウイルス(COVID-19)対策、気候変動、紛争という大きな3つの地球規模課題の解決のためには、政治への信頼が必要であり、政治がしっかり機能していることが重要だと感じています。

教育・健康などの課題に取り組むユニセフは、人間の安全保障という点でも、国民に一番近しい国連機関の一つです。先日、ユニセフのアフガニスタン事務所職員と会談した際にも、女子教育やポリオの予防などに取り組んでいくことが大切だとお話がありました。人道危機だからこそ、我が国がしっかり貢献していくことが必要です。政府・国連機関・NGO・民間企業など、様々なステークホルダーが協力し合っていくことが、今日の人道支援に必要なあり方だと考えています。

開会メッセージ(全文)

外務省 地球規模課題総括課長 河原一貴 氏

外務省 地球規模課題総括課長 河原一貴氏

© 日本ユニセフ協会
外務省 地球規模課題総括課長 河原一貴氏

本日は、アフガニスタンとイエメンの現場からお話をうかがう貴重な機会にお招きいただき、ありがとうございます。外務省地球規模課題総括課長の河原一貴と申します。私は、10月にこの課に来るまで外務省の中東局にいました。また、アラビア語が専門ということもあり、これまでも中東地域と様々な関わりがありました。

今、アフガニスタンやイエメンで起きている人道危機は極めて深刻であり、人々の命と生活を守るために、国際社会が連携して取り組む必要があります。特に、二国間の援助に制約がある中で、国際機関の役割は非常に重要です。治安情勢が不安定で、十分なインフラも無い国で人道支援を届けるには、日々様々な苦労があると思いますが、現場でしか見えない課題などもあると思いますので、本日現場の声を聞けるのを楽しみにしています。

人間の安全保障の理念に基づき、人々の保護と能力強化に焦点を当てて支援を行う日本にとり、子どもや母子衛生などのために活躍しているユニセフは、重要なパートナーです。ユニセフを通じて、本年3月には、イエメンで5歳未満の子ども10万人と妊娠中・授乳中の女性21万6,000人に対し、栄養不良を防ぐための支援を届けるため500万ドルの支援を行うこととしました。10月には、アフガニスタンの子どもたちがこの寒い冬を乗り越え、質の高い教育を受けられるよう、1,730万ドルをUNICEFに拠出しました。

日本政府としては、今後も、ユニセフを始めとする国際機関との協力を通じて、現地への人道支援を行い、「誰一人取り残さない」社会の実現、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて取り組んで行きます。そのような支援を行うに当たっては、本日御報告いただく現地の邦人職員の皆様に加え、ユニセフ議連やユニセフ東京事務所、日本ユニセフ協会の皆様の御協力が必要です。今後とも連携させていただければ幸いです。

ユニセフ子どもたちのための人道支援

UNICEF東京事務所 副代表 根本巳欧

現在、世界では5億人以上の子どもたち、世界の子どもの約4人に1人が人道危機下にあると言われ、そのうちの8割が紛争地域で暮らしています。長引く武力紛争、気候変動による自然災害の激化、COVID-19のパンデミックの影響が深刻化するなか、より生活しやすい場所をめざす人の移動も加速しています。こうした世界の人道危機を前に、ユニセフは今後1年間で1億7,700万人の子どもを含む、3億2,700万人に支援を届けることを目指す活動計画と資金要請を盛り込んだアピールを発表しました。

たとえば保健分野では、COVID-19への対応はもちろん、ワクチンのためのコールドチェーンの整備やその他の保健サービスにも力を入れていきます。水と衛生分野では5,300万人が安全な水を得られるよう支援します。また教育、性的搾取や虐待からの保護、現金給付支援などの社会的保護の支援も行います。こうした支援を実施する上で、ユニセフは3つの柱:「人道支援の調整能力の強化」、「分野横断的な支援」、「現場のパートナーシップの構築」を掲げています。そしてこれらの支援の実施には94億米ドルの資金が必要であるとし、国際社会に支援を求めています。いまだに予防接種を受けられない、学校に行くことができないといった子どもたちを誰ひとり取り残さないために、引き続きご支援をお願いいたします。

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人道支援の現場から

ユニセフ・アフガニスタン事務所 保健マネージャー 芳野あき

ユニセフ・アフガニスタン事務所 芳野あき

© 日本ユニセフ協会
ユニセフ・アフガニスタン事務所 芳野あき

アフガニスタンでは2021年、干ばつ、COVID-19による失業・経済活動の停滞と流通停止による物資供給の困難化、米軍の撤退とタリバン政権の樹立による国内避難民の増加と各国ドナーからの資金援助停止などの影響で、人道危機が深刻化しました。私が担当している保健分野では、資金援助の停止によって、プライマリーヘルスケアを実施する医療従事者の給料が支払えなくなったり物資が不足するなどして、特に10月頃までは混乱がありました。こうした状況の結果、人口の半数が人道支援を必要とし、870万人が深刻な食料危機に、また来年にかけて人口の97%が貧困に陥ると予測されています。

ユニセフは、プライマリーヘルスケアや保健サービスへのアクセスが難しい人々のために移動式の保健・栄養チームの派遣、COVID-19のワクチン接種の支援、コレラへの対処、急性栄養不良の治療、浄水処理のための物資の提供、中学校以上の女の子が学校に行けるようタリバン政権との交渉、コミュニティ・ベースでの教育支援、メンタルヘルスのケア、現金の支給などの支援を行っています。

2022年も引き続き、現場に留まり、特に人道支援を必要とする女性・子どもを中心に支援を続けていきます。特にタリバン政権となって以降、これまで支援を届けることが難しかったタリバン支配地域にもアクセスできるようになりました。これは、我々人道支援機関にとっては大きな機会です。この機に、最も支援が届いていなかった人々をどうやって支援していくかが、2022年の最大の課題です。

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ユニセフ・イエメン事務所 子どもの保護チーフ 山野真季葉

© 日本ユニセフ協会
ユニセフ・イエメン事務所 山野真季葉

イエメンはまもなく7年になる紛争、食料危機、COVID-19の三重の人道危機により「世界最悪の人道危機」に陥っており、国民の約7割にあたる2,000万人が支援を必要としています。紛争により400万人もの国内避難民が発生し、食料の輸入ルートの断絶や経済状況の悪化で食料を手に入れられない人々が多いため230万人の5歳未満児が栄養不良に苦しんでいます。1,540万人が安全な水やトイレを使用できず、武装勢力による占拠や攻撃で多くの病院や学校が使用できず、また200万人の子どもが学校に行くことができない状況となっています。さらに、すでに1万人の子どもが紛争で命を落とすなど子どもたちが大きな犠牲を払っており、800万以上の人々が心のケアを必要としています。

ユニセフは、栄養ある食事、プライマリーヘルスケア、予防接種、安全な飲み水の供給、トイレの建設、教育の場や教材・学校用品の提供、教員への給料の一部の支援、爆撃のショックや生涯残る怪我を負った子どもたちの手術・治療費の負担、安全な遊び場の確保や教師へのトレーニングを含めた心のケア、地雷回避の啓発活動などの支援を行っています。

残念ながら、イエメンの紛争は終わりが見えない状況です。先日出張で訪れた最前線の街マレブでは、窓からミサイルが落ちていくのが見えるような状況で、現場のスタッフはそうした中で子どもたちに支援を届けようと活動しています。2022年も、イエメンの子どもたちの夢を夢で終わらせないため、みなさまのご支援を力に、一歩一歩活動していきます。

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質疑応答 (敬称略)

〇 アフガニスタンではコミュニティ・ベースで教育支援をおこなっているとのことですが、そのような中でも女の子への支援は難しく男の子が優先されるのでしょうか

芳野:8月以降、教育を継続するには男の子と女の子のクラスを分けなければいけなくなっています。教室を分けなければいけないということで、公教育の場でもいまだに女の子の授業をスタートできていない状況です。

〇 緊急支援が必要なのは、海外からの資金が途絶えていることが大きいのでしょうか?また国民が銀行からお金を降ろせなくなっていることも影響しているのでしょうか

芳野:8月以前は、COVID-19の影響で失業したり仕事に行けずに経済活動が滞っており、8月直前の時期は紛争によって職場に行けないという状況があり、そして8月以降は多くの国からの拠出が停止したことで、必要なサービスが届けられていないという状況です。経済活動の停止によっていちばん大きな影響を受けるのは女性や子どもであることをドナー各国に理解いただいて、資金拠出を継続していただきたいと思っています。

〇 アフガニスタンの治安の状況はいかがでしょうか

芳野:アフガニスタンの治安悪化の原因は政府とタリバンとの紛争でしたので、8月にタリバンが政権を掌握して以降は、驚くほど良くなっています。今まで行くことができなかった地域にも行けるようになり、これからそうした地域をどのように改善していったらよいのかが課題です。

〇 イエメン国内の治安の方はいかがでしょうか?

山野:場所にもよりますが、首都サヌアは、この1カ月ほどは夜間の空爆が多くなっていますが、日中は比較的移動もしやすいと思います。南部は、武装勢力の勢力争いが厳しくなっており、市内の移動には装甲車で動かなくてはなりませんし、市外に出るには警備をつけなければなりません。マレブは紛争の最前線の地域で、国内避難民キャンプにもミサイルが落ちるような状況です。安全には十分な配慮をして移動するように心がけています。

〇 イエメン国内の治安の方はいかがでしょうか?

山野:場所にもよりますが、首都サヌアは、この1カ月ほどは夜間の空爆が多くなっていますが、日中は比較的移動もしやすいと思います。南部は、武装勢力の勢力争いが厳しくなっており、市内の移動には装甲車で動かなくてはなりませんし、市外に出るには警備をつけなければなりません。マレブは紛争の最前線の地域で、国内避難民キャンプにもミサイルが落ちるような状況です。安全には十分な配慮をして移動するように心がけています。

〇 イエメンの物流に関して、支援物資を輸入したり通関を通し国内を輸送するなど物流面の困難性をどのように克服しているのでしょうか?

山野:イエメンへの物資輸入は非常に難しくなっています。特に北部は国際的に認められていない勢力が空港や港を支配していますので、いくつか輸入規制がかかっています。こうした中でもユニセフはコペンハーゲンやドバイに備蓄されている物資を輸入することができ、他機関等と比べてもしっかり対応できていると思います。難しいのは、COVID-19によって世界的に物流が滞っている点で、子どもたちの通学バックが1年待ちというようなことが起こっています。国内や近隣諸国で調達できないかなどを検討しているところです。

〇 最後に、アフガニスタン、イエメンそれぞれの支援の難しさはどんなところでしょうか?

芳野:アフガニスタンならではの難しさは、例えば民間機のフライトがないために物資の輸入もすべてチャーター機に頼っており、物流の難しさが一つの課題です。また、みなさんご存知の通りタリバンは国際社会に認められた政権ではないため、各国からの資金が止まっています。それがいつ再開されるのか、また再開されたときに政府ではなくユニセフなどの機関を通じて拠出されるのであれば、今までなかった資金管理が必要となります。さらに、女性の教育や仕事には様々な規制があります。現政権といかに話し合ってそういった問題に取り組むかが最大のチェレンジであり機会でもあると思います。

山野:南北に分かれた紛争の中で、中立の立場で、スタッフの安全を確保しながら、南にも北にも支援を行き渡らせなければならないというイエメン特有の難しさがあります。人道支援とはいえ、政府からの目は厳しくありますので、支援内容やどのようなニーズ調査をするのかといったことに関しても様々な調整が必要で、紛争国ならではの難しさがあると思います。