2024年9月10日東京発
ユニセフが推進している、「子どもにやさしいまちづくり事業」は、子どもと最も身近な単位である市町村等で、子どもの権利条約を具現化する取り組みです。現在、世界で40の国と地域で3,000以上の自治体が参加しています。
2021年に日本でCFCIを正式開始してからちょうど3年となる今年6月、東京都内でシンポジウム「こどもにやさしいまちCFC推進とこども環境」が開催され、日本型CFCI実践自治体として事業を進めている自治体の市長/町長と、若者2人による活発な議論が行われました。
このシンポジウムは、様々な領域の学術研究者や実践者が集まり、学際的に子どもの成育環境について研究する「こども環境学会」の設立20周年記念大会の中で開催されたものです。こども環境学会は、1990年代にユニセフがCFCIの取り組みを進め始めた頃から、各国の専門家や実践者とのネットワークをもち、CFCIの研究や議論を進めてきました。現在も、日本でのCFCIの推進のために、日本ユニセフ協会との協力関係にあります。
■ 開会メッセージ
開会のあいさつで高須幸雄会長は、「今日の国際課題に対処するためには、従来の国家を中心に据えたアプローチだけでは不十分になっています。人間に焦点をあて、自治体ごとに優先課題を可視化し、尊厳のある社会に向けて取り組みを進めていく必要があるのです。多くの自治体で子どもにやさしいまちづくり事業の輪が広がることを祈念します」と述べました。
また、ユニセフ本部の子どもの権利アドバイザー、マニュエル・フォンテーンはビデオメッセージを寄せ、「子どもの権利条約が採択されて今年で35年になりますが、今世界では子どもの権利はかつてない脅威にさらされています。しかし日本では、こども家庭庁の設立やこども基本法の制定に加え、多くの地方自治体が、CFCIをはじめ子どもを中心とした政策や実践を進めていると聞き、とても勇気づけられています。子どもの権利の一層の推進を期待しています」と日本の取り組みへの期待を伝えました。
続けて、こども環境学会の会長であり、(公財)日本ユニセフ協会CFCI委員会の委員長である、大妻女子大学の木下勇教授から、CFCIの歴史や背景、シンポジウムの趣旨が説明され、シンポジウが開始されました。
■ 自治体の取り組み紹介
まず、CFCI実践自治体の市長/町長から、それぞれの自治体の取り組みについて紹介いただきました。
北海道ニセコ町 片山 健也 町長
日本初の自治基本条例である「ニセコ町まちづくり条例」を平成12年に制定し、第11条に子どものまちづくりへの参加権を規定しました。この条例に基づき、子ども議会等子ども参加の取り組みを進めてきましたが、CFCI参加後、さらにその内容を充実させています。
子どもの意見を聞くということは、子どもという"個性"、"属性"からの視点をまちづくりに活かすという点でも非常に重要なものと考えていますし、子どもたちには「あなたがこのまちに必要」というメッセージを伝えたいと思います。
ニセコ町では、CFCI本格実施に伴い教育委員会にこども未来課を新設。子どもに関する事務を一元化し、子どもが健やかに成長する環境を整備しています。
北海道安平町 及川 秀一郎 町長
CFCI本格実施前の検証作業に参加した2018年に北海道胆振東部地震が発生し、町内の中学校が被災しました。学校再建は早急に進める必要がありましたが、学校生活の主体者である子どもたちとともに進めることに重点を置き、多くの子どもの意見を聴くための場を創出して、子どもの声を大切にしながら再建に取り組みました。
そうして完成した義務教育学校は現在も、学年を超えた「対話」によって解決の糸口を見いだす取り組みを継続しています。今後は学校現場だけでなく、町の様々な事業においても、子どもの意見を聴く機会を増やししくみを構築することで、おとなと子どもがパートナーとしてまちづくりを進めていきたいと考えています。
宮城県富谷市 若生 裕俊 市長
市長室には書が掲げてあり、そこには「とみやまちには大きい山がない 大きい川にも恵まれない 海にも接していない 豊かにあるのは子どもたちだ この子らをまちの財産にしたい みんなで育てたい」とあるとおり、CFCIに参加する以前から、子ども施策には力を入れてきました。
CFCIの本格実施に伴い、すべての部署が参加する「富谷市子どもにやさしいまちづくり推進庁内連携会議」を設置。総合計画(後期基本計画2021-2025)に「子どもにやさしいまちづくりの推進」を盛り込むなど、市全体で「子どもにやさしいまちづくり」の実現をめざすための体制づくりを行い、既存の事業の充実を図りながら、子どもにやさしいまちづくりを進めています。
東京都町田市 石坂 丈一 市長 ※ビデオ発表
これまで1996年に制定した「町田市子ども憲章」を礎に、具体的な事業の充実に力を入れてきましたが、それらの取り組みを強化するためにCFCIに参加しました。日本型CFCIモデルのチェックリストの結果をレーダーチャートに表すようにして経年比較し、それをもとに改善しながら事業を進めています。
2023年度には子ども憲章を発展させる形で「町田市子どもにやさしいまち条例」を制定しました。条例制定にあたっては子どもの声を聴くプロセスも大切にしました。さらに子ども参画に関しては、これまでの事業に加え、若者が"やりたいこと"を自らの力で実現できるように、事業PRや補助金の交付など、市が後押しする事業を開始しました。
■ パネルディスカッション
自治体の取り組みの報告の後、高校を卒業して間もない2人の若者が登壇し、市長/町長に質問する形でディスカッションが進行しました。
2022年、日本人で初めて国際子ども平和賞を受賞し、現在留学中の川崎レナさんからは、「それぞれの自治体で、とても興味深い事業が進められていて勉強になりました。まちのトップがワクワクしているかどうかはとても大切だと思います」というコメントととともに、「自分自身も意見を聴いてほしいとは思うけれど、子どもの意見を聴いてそれを政策に反映するのはとても大変なこと。なぜそんなことをするのですか?」と質問が投げかけられました。
それに対しニセコ町の片山町長は、「ニセコ町は大自然に囲まれ海外からもたくさんの観光客が訪れるので、景観を守ることはとても大事。子どもたちの方がごみの分別をしっかりやってくれるし、SDGsについてもよく勉強しているので、特にこういった分野は子どもたちが頼りです。子どもたちの力を借りて、まちを元気にしたい」と答えました。
富谷市の若生市長は、「子どもからの提案で、富谷市にある大きな公園にツリーハウスをつくりました。親子や市民のボランティアと一緒に何度もワークショップを重ねて完成させたので、立派なシンボルを建てるより費用はかからないし、市民にも愛着がわき、公園が元気になりました。おとなとは違う視点で気が付くことがたくさんあります。」と回答。
安平町の及川町長は、「意見を聴いていくと、行政にお願いしたいという意見より、やりたいことを後押ししてほしいと言う主体的な発想の意見がだんだん増えてきていると感じます。今後も子どもたちをパートナーとして、一緒にまちづくりを進めていきたいと思います。」とコメントしました。
それを受けて莇生田さんは、「子どもをパートナーとして一緒にまちづくりを進めていくのはとても良いことだと思います。」と感想を述べたうえで、「役所/役場には毎年若い人が入職してくると思います。ぜひそういう若者の意見も聞いてほしいし、職員のウェルビーイングも高めてほしいと思います」と発言しました。
それに対して、「市長に就任してすぐに着手したことの一つに、世代を超えて話ができるような、風通しのよい職場づくりがあります。今も毎年職員から提案をもらって、庁内の環境も改善しています。」(若生市長)、「堅苦しいイメージのあった役場ですが、庁舎に足を運びやすい環境にしてほしいという子どもからの提言を受け、庁舎内にBGMを流したり、職員の服装にナチュラルビズを取り入れたりしています。子どもの意見が、役場の環境にも変革を起こしています。」(及川町長)とそれぞれの事例が紹介されました。
途中、「最近公務員志望の若者が減ってきている」という話題が出され、市長/町長から、「どうしたら若者が公務員に興味を持ってくれるだろうか」と質問すると、川崎さんは、「安定よりも、自分がどれだけ社会へ貢献できるかを重視している若者は多いと思います。失敗をしても守ってもらえる、挑戦できる環境も必要なのではないかと思います」とコメントするなど、3人のおとなと2人の若者が対等に質問し合い、率直に意見を伝える形で進行しました。子ども・若者の声を様々な場面で聴き、対話をしながらまちづくりを進めていく様子を具体的にイメージさせるような内容となりました。
コーディネーターの木下教授は、若者からの率直な質問によって、様々な話を聞くことができたことに触れ、災害や紛争の最大の犠牲者は子どもたちである一方で、今日登壇の若者のように、世界には社会課題について意見を発信し、行動する若者がいることに言及。正解が見えず先の見通しにくい社会にあって、国単位やおとなだけで持続可能な社会を考えていく限界も指摘される中、「みんなにやさしいまち」につながる、子どもにやさしいまちの活動を広がっていくことを期待して、シンポジウムを締めくくりました。
今回のシンポジウムに先駆け、3月には豊田市でプレ・セミナー「SDGs(持続可能な開発目標)とCFCI(子どもにやさしいまちづくり)―今こどもの声を聴いて未来を確実なものにするために―」が行われました。