2025年11月19日東京発
2025年10月29日、ユニセフハウスにて、「アフガニスタン現地報告会」を開催しました。ユニセフ・アフガニスタン事務所で活動する小川亮子 プログラム専門官が、現地での支援活動の最前線から、アフガニスタンの女性や子どもたちをとりまく状況と、ユニセフの取り組みについてお伝えしました。報告の最後には、小川専門官をはじめ、アフガニスタン事務所のスタッフが支援活動を行う上で大切にしている2つの言葉を紹介しました。
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アフガニスタンの現状:女性や子どもたちが直面する複合的な危機
アフガニスタンは南アジアに位置し、周辺にはパキスタン、イラン、トルクメニスタン、タジキスタン、ウズベキスタン、そして中国が隣接しています。人口は約4,400万人で、歴史的には「文明の交差点」として知られ、多様な民族と言語を有しています。
アフガニスタンでは、紛争、経済危機、自然災害、そして政治的な不安定さが重なり、それらが子どもたちの生活に深刻な影響を及ぼしています。人口の54.5%が18歳未満の子どもであり、2025年時点で、人口の半分ほどにあたる約2,300万人(うち53%の1,210万人が子ども)が人道支援を必要としています。自然災害について言えば、繰り返される干ばつや洪水、地震などがあります。今年8月末にも東部で発生した地震により、大変大きな被害がありました。地震に対して、日本のような耐震構造のある建物などはなく、その結果、人命が失われたり、多くの人が家を失い、避難を強いられたりしています。

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また、人権・子どもの権利の迫害という問題もあります。特に、2021年のタリバン政権の復権後、女性と女の子に対する深刻な人権侵害が起こっています。2022年には、小学校6年生より上の、中等教育以降の女子教育が全面的に禁止されました。男性の肉親が付き添わなければ家の外に出られないなど、女性の行動や就労も厳しく制限され、NGOで働くことすら困難な状況です。2024年には、それまで唯一可能であった女性に対する医療系教育も禁止となりました。アフガニスタンの文化的・宗教的な考え方では、女性や女の子が家族以外の男性に肌を見せることができないので、病院に行った際、男性の医師に診察してもらうことはできません。女性の医療従事者がいないと、女性は医療を受けることができないということです。つまり、女性に対する教育が禁止されることで、新たな女性の医療従事者がいなくなれば、将来、女性が何の医療行為も受けられなくなることを意味します。
貧困・経済的困窮も大きな問題となっています。70%の子どもが貧困にさらされて生活しているとされ、貧困率は世界ワースト4位です。そうしたなか、350万人の子どもたちが栄養不良を含む低栄養の状態にあり、脳の発達や生命が脅かされる事態となっています。
さらに、教育へのアクセス・質も課題です。小学校の就学年齢の子どものうち、210万人が学校に行っていないと言われています。前述のとおり、2022年に女の子の中等以降の教育が全面的に禁止されましたが、男の子の中等以降の教育についても、就学率の低下が見られ、2019年と2024年を比較すると、40%低下しています。教育の質については、例えば、10歳の子どもの90%が簡単な文章を読むこともできず、学校に行っていても、識字すら広まっていないという、非常に深刻な状態です。アフガニスタンの識字率は37%で、男性が52%、女性は27%にとどまります。

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ユニセフのアフガニスタンでの支援活動

© 日本ユニセフ協会
報告を行うユニセフ・アフガニスタン事務所の小川亮子 プログラム専門官
ユニセフは1946年に、第二次世界大戦によって荒廃した国々の子どもたちに緊急の食料を提供し、健康管理を行う目的で設立されました。当初は、緊急人道支援を目的としていましたが、その後、開発支援機関として発展し、緊急人道支援だけでなく、開発途上国の子どもや母親に対する長期の人道援助や開発援助も行っています。1989年に国連で採択された「子どもの権利条約」が活動の指針です。
ユニセフ・アフガニスタン事務所では、2025年10月時点で約600名のスタッフが働いていて、世界中のユニセフの事務所の中でも有数の規模です。スタッフの約80%はアフガニスタン人スタッフです。首都カブールにある事務所を含めて、アフガニスタン全土に13のオフィスがあります。
支援分野は多岐にわたり、「教育」、「保健・栄養・ポリオ」、「水と衛生」、「子どもの保護」、「緊急人道支援」など、それぞれの専門のチームの下で、子どもたちの命と権利を守るための活動を行っています。また、これらのプログラム全体を支援するために、コーディネーションや資金調達のほか、アドボカシーやコミュニティ啓発、データ分析・プランニング、セーフガーディング・リスク管理を行うチームもあります。

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以下では、アフガニスタン事務所の支援活動の例をご紹介します。
女の子・女性への支援:女性が学び、働きつづけられることを目指して
タリバン政権復権以降、女性の行動や教育、就労が制限されるなかで、ユニセフは、女の子たちの学びの灯を絶やさず、女性たちが働き続けられるよう、支援を行っています。たとえば、17,500名の女性教員が研修を受け、15,700名の女性がコミュニティ保健員として教育を受けて活動しています。また、コミュニティの中で母子保健に関する支援を行うグループとして「おばあちゃんグループ」が結成され、1,205名の女性が参加しています。さらに、アフガニスタンの女の子や女性に支援を届けるためにも、ユニセフ・アフガニスタン事務所や提携団体の女性スタッフが働き続けられるよう、必要なサポートも行っています。
保健・栄養・ポリオ:命を守る支援
アフガニスタンの乳幼児死亡率は1,000人あたり55.5人(日本は2.4人)*にのぼります。栄養不良も深刻な問題で、85万7,000人の乳幼児が深刻な栄養不良に陥っていると推定されています。ユニセフは、2,300人の栄養カウンセラーを育成し、地域での栄養指導や母乳育児の支援を行っています。また、ポリオの根絶が達成されていない数少ない国の一つであるアフガニスタンにおいて、予防接種の普及にも力を入れており、そのためのコミュニティの啓発活動にも取り組んでいます。
*UNICEF Data 2023年
緊急人道支援:地震の被災地に支援を届ける

© UNICEF/UNI862985/Azizi
地震で被災したクナール県の避難民キャンプに設置されたユニセフの「子どもにやさしい空間」で笑顔を見せる、9歳と6歳の女の子たち(アフガニスタン、2025年9月9日撮影)
2025年8月末にアフガニスタン東部で発生した、マグニチュード6.0を超える地震では、1,992人が死亡、50万人以上が被災しました。ユニセフは地震発生から24時間以内に緊急支援物資と人材を現地に派遣し、現地政府や他の支援組織とのコーディネーションを行いながら、保健、教育、子どもの保護、水と衛生など、幅広い分野で支援を行いました。被災者が避難生活を送るキャンプでは、子どもたちが安心して過ごせる「子どもにやさしい空間」を設置し、教育や心理社会的ケアを提供しました。被災した山間部では、奥の方は車で行けず、細い山道を8時間歩かなければ支援物資を届けられない、という状況もありました。
人道危機への対応:帰還民支援

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イランから帰還し、イスラムカラ国境に設置されたテントの中で母親と過ごす5歳のホザイマちゃん(右から二番目)と兄弟たち(アフガニスタン、2025年7月2日撮影)
アフガニスタンから隣国のパキスタン、イランに出稼ぎに行ったり、避難したりしていた人々が、近年、両国で「強制退去」の方針がとられるなかで、強制的に帰国させられています。そうした多くのアフガニスタン人が東と南の国境に押し寄せ、2024年の夏には、その数が1日あたり何万人を超えるという状況になりました。帰還民の60%が子どもで、イランやパキスタンで生まれた子どもも多くいます。ユニセフは、他の機関とも連携して、国境における帰還民支援として、アフガニスタンにおける登録や、家族と離散した子どもの保護、家族との再会支援、保健・衛生の支援などを行っています。
資金援助削減の影響:支援継続に立ちはだかる壁
2025年2月に米国政府による資金援助の大幅な削減が発表されるなど、空前の資金難が課題となっています。ユニセフ・アフガニスタン事務所では即時約 60名のスタッフが契約終了を余儀なくされ、その後も大規模なリストラが行われて多くの職員が職場を去りました。他の欧州諸国でもODA(政府開発援助)の比率が下がり、支援の継続が危ぶまれる状況です。
この影響により、支援分野や規模の見直しが迫られ、活動の優先順位を選択せざるを得ない場面も増えています。一方で、アフガニスタンにおける支援ニーズは拡大しており、資金と人材の確保が急務となっています。
ユニセフ・アフガニスタン事務所の「約束」:No Regret Choice(後悔しない選択)
小川専門官をはじめ、ユニセフ・アフガニスタン事務所のスタッフは、「No Regret Choice(後悔しない選択)」の精神で活動に取り組んでいます。想像を絶するような過酷な状況にあるアフガニスタンの人々のため、支援する側にも多くの制限がかかる中でも、たとえ完璧な正解ではなくともその瞬間にできる最善を尽くしながら、命を守る支援と地域のレジリエンス(回復力)強化を両立させる活動をする、というものです。そしてもうひとつ、「Stay and Deliver(現地にとどまって支援を続ける)」。困難な状況の中でもアフガニスタンの人々と一緒に働いていく、ということを念頭に、日々、活動を続けています。

© 日本ユニセフ協会
小川 亮子

© 日本ユニセフ協会
東京都出身。民間企業に勤務後渡英して国際開発及び教育の修士を取得。NGO, 在タジキスタン日本大使館ならびに外務省での緊急人道支援・開発事業担当を経て、2014年2月より国連ボランティアとしてユニセフ・中央アフリカ共和国事務所で、子どもの保護専門官として勤務。以来マリ共和国、イエメンを経て、2023年8月より、ユニセフ・アフガニスタン事務所で、セーフガーディング分野のプログラム専門官として現職。


























