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ストーリー

スーダン
子どもたちに安全な寝床を
蚊帳でマラリア感染を予防

2025年8月15日ガダーレフ州(スーダン)

蚊帳に守られて手遊びをする子どもたち(スーダン、2025年8月1日撮影)

© UNICEF/Video
蚊帳に守られて手遊びをする子どもたち(スーダン、2025年8月1日撮影)

スーダン・ガダーレフ州にあるハッジ・サイード避難民キャンプで暮らすテンジルさん(9歳)が、母親と一緒に、同キャンプ内にあるユニセフが支援する仮設クリニックを訪れています。

テンジルさんはゆっくりと、か細い声で、高熱と激しい頭痛に苦しんでいることを医師に伝えます。医師は注意深く耳を傾け、症状をカルテに書き留めた後、体温計と聴診器を手に取り診察を行いました。そして症状からマラリア感染を疑い、簡易検査を実施しました。検査結果を待つ間、テンジルさんは母親の膝の上に頭を預け、目を閉じてぐったりした様子です。

「娘は3日間、高熱が続いています。特に夜になると熱が上がり、とても苦しんでいます。食欲もなくて、今日もパンひとかけらしか食べられていません」と、母親のアミナさんが医師に娘の病状を訴えます。

訪れた仮設クリニックで医師に自身の症状を伝えるテンジルさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

© UNICEF/UNI816407/Rajab
訪れた仮設クリニックで医師に自身の症状を伝えるテンジルさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

マラリアはスーダンで広く蔓延しており、特に雨季が近づくと、マラリアを媒介する蚊の活動が活発になるため、感染が拡大します。マラリアはスーダンにおける主な死因のひとつで、なかでも5歳未満児、妊婦と胎児、周縁化されたコミュニティや避難民キャンプで暮らす人々が大きなリスクにさらされています。避難民キャンプは、一般的に排水が悪く、過密で衛生状態に問題があり、蚊の繁殖に最適な環境となっています。

テンジルさんの一家は、もともと首都ハルツームで暮らしていましたが、2023年に武力衝突が始まったため、故郷を離れました。いくつかの場所を転々とした後、現在暮らしているガダーレフ州の避難民キャンプにたどり着きました。しかし、生活環境は非常に厳しいものでした。テンジルさんの一家をはじめ、ここで暮らす多くの家族は、着の身着のままで、避難してきています。蚊帳や殺虫剤といったマラリア対策用品も持ってきておらず、手に入れることもできませんでした。

2分に1人の割合で、世界の子どもたちの命を奪うマラリア

その後、テンジルさんのマラリア検査の結果が、陽性と判明しました。しかし幸い、このクリニックには抗マラリア薬を含む、治療に必要な医薬品が十分に備えられていました。

迅速かつ適切なマラリアの治療は極めて重要です。それは命を救うだけでなく、症状の悪化や周囲への感染拡大を防ぐことにもつながります。テンジルさんには抗マラリア薬が投与されることになりました。治療の効果を確実に得るためには、一定期間、決められた用量を正しく服用し続ける必要があります。

テンジルさんに処方された抗マラリア薬を受け取る母親のアミナさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

© UNICEF/UNI816443/Rajab
テンジルさんに処方された抗マラリア薬を受け取る母親のアミナさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

テンジルさんは抗マラリア薬を口にして、「おいしくない」とつぶやきました。

味はさておき、この小さな錠剤は、命に関わる病気であるマラリアからテンジルさんを救ってくれる、大切な薬です。世界では、2分に1人の割合で、子どもたちがマラリアにより命を落としており、今なお多くの人々がこの病気に苦しめられています。しかし、こうした悲劇は、適切な対策を講じることで防ぐことができます。その有効な手段のひとつが、蚊帳の使用です。

蚊帳でマラリア予防

同じ日、テンジルさんが避難生活を送るキャンプでは、マラリア対策として、防虫処理が施された蚊帳の配布が行われていました。コミュニティーワーカーが子どもたちの保護者を訪ね、蚊帳の効果や正しい使い方を説明し、受け取りにくるように促しています。

テンジルさんの母親のアミナさんは、蚊帳の配布場所へ急いで向かいました。蚊に刺されてマラリアに感染するリスクやその苦しみを、身をもって知ったからです。「ハルツームを離れてからというもの、蚊帳を手に入れることができませんでした。蚊が増えて我慢できなくなったときは、近所の助産師さんから借りていましたが、後で返さなければいけなかったので、蚊帳のことを“ローン(貸し付け)”と呼んでいました」とアミナさんは話しました。娘がマラリアに感染して苦しんでいる今、アミナさんは蚊帳を手に入れるこの機会を逃すまいとしています。

その夜、抗マラリア薬を飲み、少量の食べ物を口にしたテンジルさんは、母親が受け取ってきた新しい蚊帳の中で横になりました。蚊帳に守られて眠りにつく娘を、アミナさんは安堵の表情で見守っていました。

新しい蚊帳の中で眠りにつくテンジルさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

© UNICEF/UNI816445/Rajab
新しい蚊帳の中で眠りにつくテンジルさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

蚊帳を手に入れてほっとしたのは、アミナさんだけではありません。この地域に暮らす他の母親たちからも、安堵の声が聞かれました。

9人の子どもを育てるサフィアさんは、数カ月前に家族とともにハルツームから避難してきました。一家の大黒柱である長男がマラリアに感染して10日間働けなくなったときには、食料を買うお金も底をつき、途方に暮れたと言います。「蚊帳でマラリアを予防できれば、治療費もかかりません。家族みんなが元気でいられます」と、サフィアさんは喜びました。

10人の子どもの母親であるバディアさんも、避難生活が始まって以来、蚊帳のない状態で過ごしてきました。子どもたちが蚊に刺されないよう、シーツやブランケットを蚊帳の代わりに使ってしのいできましたが、十分な効果は得られませんでした。「ある日、娘が高熱を出しました。真昼の暑さの中、『ママ、寒気がする』と言って…。娘はマラリアに感染していました」。

そう語るバディアさんは新しい蚊帳を受け取り、保健について学ぶワークショップにも参加しました。「これでわが家の子どもたちも安心して眠れます。夜中に蚊に刺されて泣くこともなくなるでしょう。蚊帳が私たちの健康を守ってくれます」と話しました。

蚊帳を受け取ったサフィアさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

© UNICEF/UNI816436/Rajab
蚊帳を受け取ったサフィアさん(スーダン、2025年5月30日撮影)

 

新しい蚊帳を寝床に設置したバディアさんと子どもたち(スーダン、2025年5月30日撮影)

© UNICEF/UNI816423/Rajab
新しい蚊帳を寝床に設置したバディアさんと子どもたち(スーダン、2025年5月30日撮影)

 

ユニセフは、スーダンの連邦保健省およびグローバルファンド(世界エイズ・マラリア・結核対策基金)と連携し、ガダーレフ州を含む14州で、約2,800万人に向けて1,560万枚以上の蚊帳を配布しました。また、妊婦と胎児の健康を守るため、産科施設にさらに50万枚の蚊帳を提供する予定です。世界全体では、ユニセフは2024年の1年間で、蚊帳760万枚を22カ国に届けました。

テンジルさんのような子どもたちが、毎晩安心して眠り、健やかに過ごせるよう、ユニセフは活動を続けています。

困難な状況にある子どもたちが、生まれ持った権利を守られ、平和に健やかに成長できることを目指して活動するユニセフ。

その活動は皆さまのご支援によって支えられています。

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※最も支援が必要な子どもたちを支え、ユニセフの様々な活動に役立てられています。

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