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ストーリー

「一杯のコーヒーの向こうに」
ウガンダ:児童労働をなくす
コーヒー生産地の取り組み

2025年9月16日カルング県(ウガンダ)

カルング県のコーヒー農園で収穫される、赤く熟したコーヒーの実(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

© UNICEF/UNI820633/Abdul
カルング県のコーヒー農園で収穫される、赤く熟したコーヒーの実(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

ウガンダ・カルング県にあるスワイブ・カクーザさん(58歳)のコーヒー農園では、収穫の季節を迎えています。夜明けとともに、農園労働者がかごを手にして12エーカー(約4.9ha)の農園に集まり、赤く熟したコーヒーの実を摘み取っています。

ウガンダ中央部に位置するカルング県は、国内有数のコーヒー豆の産地で、全世帯の90%以上がコーヒー栽培に従事しています。そうしたなか、特に収穫期には安価な労働力への需要が高まって、コーヒー農園に子どもたちも労働力として駆り出され、子どもたちの教育や将来が脅される事態となっています。この地域の小学校の副校長を務めるパウリナ・ナマトヴさんによると、収穫期には児童の欠席や遅刻が30%以上増加するといいます。

「子どもの学費は、家族で収穫したコーヒー豆で賄うのだと、率直に話す保護者もいます。収穫作業のために午後2時に登校したり、1カ月間授業を欠席して試験だけ受けに来たりする児童も珍しくありません」とナマトヴ副校長は付け加えました。児童労働の件数は深刻な水準に達しており、保護者は経済的困窮を理由に、子どもを学校に通わせる代わりにコーヒー農園で働かせて、生活費を稼ぐケースも少なくありません。

児童労働をなくすための支援体制づくり

2024年6月、ユニセフはカルング県において、国際労働機関(ILO)、国連食糧農業機関(FAO)、国際貿易センターと連携し、コーヒー豆の生産現場や供給網での児童労働の根絶を目的として、「CLEARサプライチェーン・プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトでは、地域に根ざした取り組みを通じて、児童労働が生み出される根本的な原因への対策に取り組んでおり、単にコーヒーが消費者に届くまでの一連の事業活動において児童労働や若年労働者の雇用をなくすだけでなく、子どもの保護のための強固な支援体制を構築することにも力を入れています。

プロジェクトでは、主な取り組みとして、児童労働がウガンダのコーヒー輸出に与える影響について、地域社会の意識を高める活動を行うとともに、農家やコミュニティリーダー、子どもの保護に携わる関係者を対象として、児童労働のリスクとともに、子どもの権利や子育てについても学べる講習会を実施しています。

また、子どもたちが将来を築く上で教育が重要であるということを地域の人々に伝え、青少年へのライフスキル教育を行っています。そして、児童労働のケースが報告された際には、児童労働を強いられていた子どもたちに対して、復学をはじめ、必要な支援を行っています。

地域単位で設立された「子どもの福祉委員会」の会合(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

© UNICEF/UNI820798/Abdul
地域単位で設立された「子どもの福祉委員会」(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

 

児童労働の根絶に向けた取り組みや課題を共有し合う、パラ・ソーシャルワーカーほか、連携する地域の人々(ウガンダ、2024年8月14日撮影)

© UNICEF/UNI820800/Abdul
児童労働の根絶に向けた取り組みや課題を話し合う、パラ・ソーシャルワーカーほか、連携する地域の人々(ウガンダ、2024年8月14日撮影)

適切な支援へとつなぐ、パラ・ソーシャルワーカーの活動

「CLEARサプライチェーン・プロジェクト」の取り組みで最も大きな成果を上げているのが、地域単位で新たに設立された「子どもの福祉委員会」による支援活動です。この活動を支えているのが、専門の研修を受け、村々で活動する130人の「パラ・ソーシャルワーカー」と呼ばれる地域のボランティア人材です。彼らは、児童労働などの問題を抱える家庭や子どもを特定し、専門家につないで必要なサポートを提供する役割を担っています。

例えば、カルング県のルワベンゲ郡とキャムリブワ郡では、パラ・ソーシャルワーカーの活動により400件以上の児童労働の事例が確認・調査された後、解決に至りました。その結果、110人以上の子どもたちが学校に戻り、学習を継続することができました。また、170人以上の子どもたちが職業訓練などのさらなる支援を受けました。

児童福祉司の家庭訪問を受けるマリアさんと3人の子どもたち(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

© UNICEF/UNI820805/Abdul
児童福祉司の家庭訪問を受けるマリアさんと3人の子どもたち(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

これまで複数のコーヒー農園で働いてきたマリア・ゴレット・ナイガさんと子どもたちの生活も、地域のパラ・ソーシャルワーカーを通じた支援を受けて、大きく変わりました。双子の娘たちと幼い息子を残して父親が家を出て行って以降、一家は家賃や学費を払えないほど困窮していました。子どもたちは学校に通えず、母親のマリアさんと一緒にコーヒー農園で働いていました。特に、16歳になる双子の娘たちは、幼い弟を学校に通わせたいとの一心で、人一倍の作業量をこなす日々でした。その姿を見て、なんとか現状を変えたいと決心した母親のマリアさんは、地域のパラ・ソーシャルワーカーに相談しました。パラ・ソーシャルワーカーは、マリアさん親子のケースを児童福祉司に照会し、更なる支援へとつないだ結果、双子の娘たちと息子は地域の学校に入学することができました。

パラ・ソーシャルワーカーによる各家庭への支援が大きな成果を上げているという声は、地域のあちこちで上がっていました。小学校の校長であるファウスティン・ムタシングワさんは、プロジェクト開始以降、学校に入学する子どもの数が増えたのは、パラ・ソーシャルワーカーの地道な活動のおかげだと評価しています。「パラ・ソーシャルワーカーの活動により、児童労働のさまざまな問題や、子どもの学業成績に与える悪影響について、地域社会の認識は大きく高まりました。プロジェクトの開始以降、私の学校では104名の子どもたちが新たに入学し、35名以上が復学しました」と話します。

児童労働の根絶を訴える絵を描く、地域の小学校の児童(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

© UNICEF/UNI820806/Abdul
児童労働の根絶を訴える絵を描く、地域の小学校に通う子ども(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

 

地域の小学校で授業を受ける児童(ウガンダ、2025年6月11日撮影)

© UNICEF/UNI820811/Abdul
地域の小学校で授業を受ける子どもたち(ウガンダ、2025年6月11日撮影)

 

2024年6月から8月にかけては、「子どもの福祉委員会」を中心とした支援体制の下で、1,699件を超える事例が報告され、適切な対応が行われました。また、地域や学校で社会福祉に携わる534名の人材が研修を受け、合計20,981人以上の住民に対して、必要な情報や支援サービスを提供しました。

パラ・ソーシャルワーカーの活躍に支えられた「子どもの福祉委員会」の取り組みや、冒頭に登場した農園主のスワイブ・カクーザさんのように、児童労働反対を訴えて連携する地域の人々の存在により、カルング県はウガンダにおける児童労働根絶のモデル地区として注目されつつあります。

自分が描いた児童労働の根絶を訴える絵を見せる、地域の小学校の児童たち(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

© UNICEF/UNI820751/Abdul
自分が描いた児童労働の根絶を訴える絵を見せる、地域の小学校の子どもたち(ウガンダ、2025年6月10日撮影)

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