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お知らせ

音楽を通して、子どもたちの物語を社会へ
ユニセフ・アルメニア国内大使
セルゲイ・スムバティアン氏 来日インタビュー

2026年10月9日東京発

2026年10月5日、ユニセフ・アルメニア国内大使で、アルメニア国立交響楽団の創設者・芸術監督兼首席指揮者を務めるセルゲイ・スムバティアン氏が、令和8年度(第81回)文化庁芸術祭主催公演アジア オーケストラ ウィークのため来日、東京・すみだトリフォニーホールで日本ユニセフ協会のインタビューに応じました。本インタビューは、東京新聞と日本ユニセフ協会が共同で実施したものです。

インタビューに応じるスムバティアン氏(2026年10月5日、東京・すみだトリフォニーホール、以下同)

© 日本ユニセフ協会
インタビューに応じるスムバティアン氏(2026年10月5日、東京・すみだトリフォニーホール、以下同)

 

 

アルメニアは、アジアとヨーロッパの間に位置する南コーカサスの国です。この地域では、ナゴルノ・カラバフをめぐり、アルメニアと隣国アゼルバイジャンとの間で長年にわたって紛争が続いてきました。2023年9月の戦闘激化後、10万人を超える人々がナゴルノ・カラバフからアルメニアへ避難し、その中には約3万人の子どもが含まれていました。住み慣れた家や地域を離れた子どもたちには、教育や保健、子どもの保護に加え、心のケアを含む継続的な支援が必要とされています。

スムバティアン氏は、「アジア オーケストラ ウィーク2026」への出演のために来日。公演前のリハーサルを終えた後、アルメニアの子どもたちが直面する課題や、ユニセフ国内大使としての活動、音楽が子どもの成長や回復に果たす役割について語りました。

子どもたちのよりよい人生は、教育から

「ユニセフ国内大使としてアルメニアを代表できることは、大きな名誉であると同時に、大きな責任でもあります。そして何よりも、これは子どもの権利に関わることです」

2023年からユニセフ国内大使を務めるスムバティアン氏。アルメニアの子どもたちについて世界に最も伝えたいことを尋ねると、まず子どもの権利と教育の重要性を挙げました。

「どの国にも、それぞれの問題や課題があります。よりよい暮らしについての考え方も、国によって異なるでしょう。では、世界をよりよいものにするために何ができるのか。私は、子どもが人生の初めに保障されるべき大切なもの、特に教育に強い関心を持っています。子どもたちのよりよい人生について考えることは、教育について考えることでもあると思います」

 

ユニセフが開設した就学前教育施設で、子どもたちと遊ぶスムバティアン氏(右)。左はクリスティン・ヴァイガント ユニセフ・アルメニア事務所代表(2023年5月、アルメニア・シラク地方)

© UNICEF/UNI426468/Margaryan
ユニセフが開設した就学前教育施設で、子どもたちと遊ぶスムバティアン氏(右)。左はクリスティン・ヴァイガント ユニセフ・アルメニア事務所代表(2023年5月、アルメニア・シラク地方)

 

自身も4歳でバイオリンを始め、音楽家の父とバイオリン教師だった祖母のもとで育ちました。2019年には、才能ある若い音楽家を育成する「Music for Future Foundation」を設立。現在は理事会議長を務め、専門的な教育や学びの機会、活動に必要な資源を提供する包括的な育成プログラムに取り組んでいます。

「音楽教育は、音楽家という職業に就くためだけのものではありません。音楽自体がひとつのことばであり、コミュニケーションの方法です。楽器を演奏することは、現代を生きるうえで、とても大切なことだと思います」

 

避難した子どもたちに、学びを取り戻す

避難を経験した子どもたちとの出会いを振り返るスムバティアン氏

© 日本ユニセフ協会
避難を経験した子どもたちとの出会いを振り返るスムバティアン氏

アルメニアでは、ナゴルノ・カラバフから避難してきた多くの子どもと家族が新たな生活を築いており、住居や教育、心のケアなど、長期にわたる支援が求められています。

「私たちの国には、避難をめぐる非常に悲しい歴史があります。私は、驚くべき才能を持ちながら、避難や紛争の影響によって十分な教育を受けられずにいる子どもたちに会ってきました」

なかには、10歳ほどで生まれながらの優れた音楽的才能を示しながら、それを伸ばすために必要な教育や知識を得られていない子どももいるといいます。

「そのような子どもを目の前にすると、教育や知識の空白を埋めるために、できる限りのことをするのが、今の私の使命だと感じます」

スムバティアン氏によると、自身が設立した「Music for Future Foundation」の活動の一環として、ナゴルノ・カラバフ出身の子どもたちを対象とする「Born in Artsakh」という取り組みを行い、現在は23人に教育の機会を提供しているといいます。

「『子どもたち』とひと括りにするのではなく、一人ひとりの物語に出会うことが大切です。将来、クラシック音楽家になりたい、国を代表する存在になりたいと願っている子どもがいます。その夢に必要な学びを届けなければなりません」

 

音楽が、子どもの物語を社会にひらく

避難や紛争、災害など、困難な経験をした子どもの回復に、音楽や芸術はどのような役割を果たせるのでしょうか。スムバティアン氏は、音楽には子どもの成長に働きかけるだけでなく、子どもが置かれている現実を社会へ伝える力があると話します。

「Music for Future Foundation」の若い音楽家たちは、アルメニア国立交響楽団と同じ舞台で演奏する機会も得ています。財団の公式サイトには、奨学生がオーケストラと共演し、ソリストとして演奏したコンサートの記録が掲載されています。こうした演奏の意義について、スムバティアン氏は、子どもたちの才能を紹介するだけでなく、一人ひとりの物語や子どもの権利に社会の関心を向ける機会にもなると語りました。

 

東京公演でロイヤル・バンコク交響楽団を指揮するスムバティアン氏

©藤本史昭Fumiaki Fujimoto
東京公演でロイヤル・バンコク交響楽団を指揮するスムバティアン氏

 

「社会には、困っている人を助けたいと思っている人がたくさんいます。ただ、どのように助ければよいのかを知る必要があります。音楽は、子どもたちの物語を社会にひらくことができます。そして、子どもたちがオーケストラと一緒に演奏する時間は、社会が一人ひとりの物語や権利について知る機会になります。ユニセフの活動と、音楽を通じた活動は、とてもよい組み合わせだと思います」

また現在、ユニセフと連携し、病院で過ごす子どもたちのために、音楽療法を取り入れたセラピールームを設置する構想も進めているといいます。たんに音楽を聴く場ではなく、医学的な知見や専門的な方法論を組み合わせた取り組みをめざしています。

 

クラシック音楽を、子どもたちの「今」に

スムバティアン氏が力を注ぐもう一つの取り組みが、アルメニア国立交響楽団が2018年から実施する教育プログラム「Symphonic DasA」です。一般の公立学校を訪れ、クラシック音楽の歴史や文化的背景、作品の聴きどころを伝える授業を行い、その後のコンサート鑑賞へとつなげています。

名称の「Das」はアルメニア語で「授業」、「A」はオーケストラが調律に用いる音「ラ(A音)」を表しています。

スムバティアン氏の公式サイトによると、これまでに173の公立学校で6万7,000人以上の生徒が授業を受け、アルメニア国立交響楽団の聴衆はプログラム開始前より30~40%若い層に広がったといいます。

「クラシック音楽については、何を、どのように聴けばよいのかを、きちんと説明する必要があります。一方で、クラシック音楽は過去の歴史ではありません。現実の生活の一部であり、情熱的で、興味深く、学ぶ価値のあるものです」

現在は、3歳から5歳の幼稚園児を対象とするプログラムや大学生向けのプログラムも展開し、年代に応じた音楽教育に取り組んでいます。知識を一方的に伝えるだけでなく、子どもや若者が何を好み、何を理解し、どのようなことに魅力を感じるのかにも耳を傾けます。スムバティアン氏は、従来の演奏会の長さや構成についても、次の世代に合わせて考え続ける必要があると話しました。

「クラシック音楽は、私たちとともに生きる価値です。若い世代の声を聞き、音楽に親しんでもらうために、必要であれば私たち自身も何かを変えなければなりません」

 

世界に暮らすアルメニア人をつなぐ音楽

公演前のリハーサルで、ロイヤル・バンコク交響楽団を指揮するスムバティアン氏

© 日本ユニセフ協会
公演前のリハーサルで、ロイヤル・バンコク交響楽団を指揮するスムバティアン氏

音楽は、アルメニア国内の子どもたちを育むだけでなく、世界各地で暮らすアルメニア人をつなぐ役割も担っています。

スムバティアン氏によると、世界にはおよそ1,100万から1,200万人のアルメニア人がいる一方、アルメニア国内で暮らしているのは約250万人。多くのアルメニア人が、ロシアや米国、フランスなど、世界各地に離れて暮らしています。

「民族と国家は同じではありません。世界各地に暮らすアルメニア人にとって、芸術や音楽、言語は、私たちをひとつに結びつける、とても大切なものです。クラシック音楽は共通の言語であり、私たちを強く保つ共通の価値でもあります」

その象徴の一人として挙げたのが、アルメニアを代表する作曲家、アラム・ハチャトゥリアンです。ジョージアで生まれ、モスクワを拠点に活動しながら、アルメニアの文化と音楽を世界へ届けたハチャトゥリアンについて、スムバティアン氏は「アルメニアの交響楽におけるアイデンティティーをつくった人物」と語りました。

「ハチャトゥリアンの音楽は、人の心に語りかけます。才能は、異なる文化を結びつけることができるのです」

 

肩書ではなく、行動する責任

インタビューの合間に笑顔を見せるスムバティアン氏

© 日本ユニセフ協会
インタビューの合間に笑顔を見せるスムバティアン氏

ユニセフ国内大使という役割について、スムバティアン氏は「大きな名誉」であると同時に、「何よりも責任である」と繰り返しました。

「何を実現したいかを話すだけでは十分ではありません。どのような方法で行動し、自分に何ができるのか、どのような成果につなげられるのかを考える必要があります」

ただ肩書を掲げるのではなく、音楽家として持つ力や仲間とのつながりを生かし、子どもたちのために具体的な行動へ移すこと。それが国内大使としての使命だと考えています。

「一緒によりよく暮らすこと。一緒によりよく演奏すること。そして、一緒によりよく考えること。オーケストラは、社会のあり方にもつながっています」

音楽を通じて、子どもたちの可能性をひらき、一人ひとりの物語を社会へ届ける。スムバティアン氏はユニセフとともに、子どもたちがそれぞれの才能を伸ばし、自らの未来を描くことのできる環境づくりに取り組み続けています。


セルゲイ・スムバティアン(Sergey Smbatyan)

指揮者。アルメニア国立交響楽団の創設者で、芸術監督兼首席指揮者。マルタ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、ハチャトゥリアン国際コンクールの芸術監督も務める。リッカルド・ムーティ、ワレリー・ゲルギエフらに学び、英国のチャールズ3世(当時皇太子)の後援を受け、ウィンザー城でロンドン交響楽団を指揮してデビュー。以後、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団やマリインスキー劇場管弦楽団など、世界各地のオーケストラに客演している。2018年に音楽教育プログラム「Symphonic DasA」を立ち上げ、2019年には若い音楽家を育成する「Music for Future Foundation」を設立。2015年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章した。2023年からユニセフ・アルメニア国内大使を務め、2026年に再任された。

 

東京公演中のスムバティアン氏

©藤本史昭Fumiaki Fujimoto
東京公演中のスムバティアン氏

 

 


本インタビューに基づく東京新聞の記事はこちらからご覧いただけます。

 

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