2025年1月22日アダナ(トルコ)発
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2014年に内戦下のシリアから一家で避難し、トルコのアダナで暮らすテイムッラーさん(トルコ、2024年11月13日撮影)
「ぼくはいつも興味津々なんだ」。トルコのアダナで暮らすテイムッラーさん(13歳)は言います。「新しいことを学べば学ぶほど、さらに興味が湧いて、どんどん質問して、もっともっと知りたくなるんだ」。テイムッラーさんにとって、勉強は単なる時間つぶしではありません。夢に向かう道のりなのです。
テイムッラーさんの家族は2014年に内戦下のシリアを逃れ、避難先のトルコのアダナで新しい生活を始めました。シリアで仕立屋をしていた父親のマフムードさんは、一家を支えるため、トルコでも同じ仕事を行っていました。しかし、2023年2月にトルコを襲った壊滅的な地震で被災し、一家の経済状況は更にひっ迫しました。
そうした苦難が重なるなかで、テイムッラーさんの体調が悪化し始めました。当初、両親は単にビタミン不足によるものだろうと考えていましたが、医師の診察を受けたところ、ずっと深刻な状態であることがわかりました。テイムッラーさんは腎臓病と診断され、週に3回の透析が必要となりました。それからは毎週火、木、土曜日の3時間、透析センターに通い、長い透析の間、本を読んで過ごす日々となりました。
病気とその治療のために、テイムッラーさんの足は学校から遠のきました。教室のような人混みは、健康を脅かすリスクとなります。好奇心旺盛なテイムッラーさんは学び続けたいと思っていましたが、病状から、学校に通うことが叶わなくなりました。
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ベッドの上で数学の勉強をするテイムッラーさん(トルコ、2024年11月13日撮影)
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テイムッラーさん(右から2番目)と父親のマフムードさん、妹のジュディさんと2人の兄(トルコ、2024年11月13日撮影)
通院と学習を両立できるように
テイムッラーさんの病気が分かった後、父親のマフムードさんは、シリア難民の子どもたちの就学支援プログラムをユニセフと連携して実施しているパートナー団体に連絡をとりました。必要な支援を受けられるかを確認するためでした。一家は、テイムッラーさんが通院している間、就学支援プログラムの面談を受け、事情を話しました。面談を担当した職員は言います。「子どもたちにとって、健康が一番大切なのは言うまでもありません。そして、健康が保障されれば、次に大切なのは教育です。教育を受けられなければ、子どもたちの未来はどうなりますか?教育はどんなときでも重要です。子どもたちが夢を実現するための鍵となります」。
同プログラムでのテイムッラーさんへの教育支援が決まり、学校を欠席しても、授業内容を板書したノートをプログラムの職員が家に届けてくれることになりました。テイムッラーさんが自宅で学習できるように、学校の先生が授業内容に関する本やノートを送ってくれるようになったのです。また、健康上のリスクを最小限に抑えるため、テイムッラーさんが通学するのは試験のときのみで良いという特別な許可が下りました。
それからしばらくして、テイムッラーさんの家族から再び、就学プログラムの職員に連絡がありました。テイムッラーさんが家での自主学習のみで授業についていくのに苦労している、とのことでした。これに対し、テイムッラーさんを担当する支援チームは、他にできる支援方法を検討し、教師が定期的に家庭を訪問することで個別指導が受けられる、訪問教育を家族に提案しました。そして、テイムッラーさんがこの教育を受けられるようになるために、家族が病院と学校から必要な書類を集めて手続きを行う上での支援を行いました。支援チームの尽力によって、テイムッラーさんの申請は許可され、訪問教育を通して、自宅に居ながら学習を続けられることになりました。
さまざまな困難に直面しながらも、必要な支援を受けて教育を受け続けることができたテイムッラーさん。ある科目について話すときには特に熱がこもります。「まだはっきりとは分からないけれど…数学が大好きなんだ。数学には終わりがないように感じられて、学べば学ぶほど、新たな問題や方程式がどんどん出てきて面白いんだ」と興奮した様子で話します。将来を思い浮かべ、目を輝かせてこう続けます。「お父さんは僕に薬剤師になってほしいみたい。それもいいのだけれど、僕は数学の教授にもなれるかなと思う。いや、きっと両方なれるはず!」
父親のマフムードさんは微笑みながらそれを聞いていました。教育こそがより良い未来への入り口となると常々信じてきました。薬剤師にも数学の教授にもなりたいと話す息子の姿に、諦めない気持ちを持ち続けたことで、ここまで来ることができたのだと実感しました。「テイムッラーが元気で幸せに暮らしてくれたら。どんな夢であれ、夢を追いかけてほしい」と話します。
妹のジュディさん(11歳)が学校から帰ってくると、テイムッラーさんは宿題を手伝います。「特に算数を教えるのが楽しい。ジュディの部屋にあるホワイトボードに書きながら教えてあげるんだ。僕が先生役で、妹が生徒役。将来、僕が数学の教授になったら、最初の生徒は妹のジュディだったとみんなに話すかもね」。
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お父さんお手製のブランコで遊ぶテイムッラーさんと妹のジュディさん(トルコ、2024年11月13日撮影)
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ホワイトボードに書きながら、妹のジュディさんに算数を教えるテイムッラーさん(トルコ、2024年11月13日撮影)
難民の子どもたちへの教育支援――個々の事情にも配慮して
ここで紹介したテイムッラーさんのストーリーは、ユニセフがパートナー団体とともにトルコで実施している就学支援プログラムの取り組みの一例です。2019年以降、同プログラムでは、難民となった子どもや、地震で被災した子どもなど、支援を必要とする子どもたちに教育の機会を提供しています。2024年10月時点で、このプログラムによって13万2,000人以上の子どもたちが学校に通えるようになりました。極めて困難な状況のなかでも子どもたちが教育を受けられるよう、支援を続けています。
また、テイムッラーさんのような特別な事情を抱える子どもたちに対して、プログラムが取り組むのは、単に学校に通えるようにすることだけではありません。そうした子どもたちが、学び、成長し、夢を持つ権利を取り戻すことなのです。教育支援を通して、子どもたちが元気に明るく、可能性に満ちた将来への希望を持ち続けられるようになることを目指しています。
数学者になって難しい方程式を解く。薬剤師になって病気の人を助ける――。その両方を夢見るテイムッラーさんにとって、教育は夢への架け橋です。これからの人生、困難な状況に直面することもあるかもしれませんが、貪欲に学び、試練を乗り越え、夢を叶えようとするテイムッラーさんに、限界は存在しません。
「これからも勉強を続けます」と話すテイムッラーさんの声は希望に満ち溢れています。
「いつか偉業を成し遂げられると思っているから」。
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テイムッラーさんと家族は、カメを含め、自宅でさまざまな生き物を飼っている(トルコ、2024年11月13日撮影)
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自宅の庭で飼っている鶏に餌をあげるテイムッラーさん(トルコ、2024年11月13日撮影)