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ストーリー

スーダン
絵で感情を表現し、心の傷を癒す
ユニセフによる子どもの「安全な居場所」

2025年12月4日アトバラ(スーダン)

© UNICEF/UNI871016/Dawod
「マカンナ」での心のケアのセッションで描いた絵を見せるハーリドさん(スーダン、2025年9月23日撮影)

スーダン北東部のアトバラには、「マカンナ」と呼ばれる場所があります。現地で話されるアラビア語で「私の居場所」を意味するこの場所は、ユニセフの支援で設置された子どもたちのための安全な居場所で、子どもたちは絵を描くことを通して、トラウマや苦しみを和らげる心のケアを受けています。ここには、スーダンの別の地域から避難してきた家族と、以前からこの地域で暮らしている家族の双方の、何百人もの子どもたちが通っています。その一人ひとりが、2023年4月からスーダンで続く戦闘の影響を何らかの形で受けています。「マカンナ」では、子どもたちは学び遊ぶだけでなく、研修を受けたファシリテーターによる心のケアのセッションに参加して、言葉にできないほどのトラウマや心の傷を、絵に描くことで少しずつ表現し、癒していきます。

絵での感情表現を通して、子どもたちの心の傷を癒す

絵を通した心のケアのセッションを担当するのは、アニメーション制作者でソーシャルワーカーでもあるメナドさんです。セッションにおいてメナドさんは、子どもたちがどれほど戦闘による影響を受けているかを直接目にしてきました。なかでも、ハルツームやダルフールから避難してきた子どもたちが、深刻な状況にありました。

心のケアのセッションを始めた頃を振り返り、メナドさんは次のように話します。「最初はセッションがなかなかうまくいきませんでした。ほんの小さな物音でも、子どもたちはパニックに陥っていました。一斉に教室に駆け込み、机の下に隠れて、『また戦闘が始まったの?』と尋ねるような状況でした」。

セッションでは、子どもたちが恐怖や不安に対処するための方法として、メナドさんは、自分が感じたことを絵にするように勧めています。当初は鉛筆を持ったり、色を塗ったりすることさえ困難な子どもも多くいましたが、メナドさんが気持ちに寄り添って励ますうちに、子どもたちは次第に感情を絵で表現しはじめました。描かれた絵を通して、メナドさんは子どもたちの感情や心の痛みを読み取り、必要な心理社会的ケアを提供しています。

© UNICEF/UNI871015/Dawod
描いた絵を見せながら話すハーリドさんと、心のケアのセッションのファシリテーターを務めるメナドさん(スーダン、2025年9月23日撮影)

戦闘で家族と離ればなれになったハーリドさん

ハーリドさん(10歳)は、「マカンナ」に通う子どもたちの中で、戦闘の影響を最も深刻に受けているひとりです。2年前におじと一緒に、ハルツームからアトバラに避難してきました。両親と離ればなれになったことが、ハーリドさんをずっと苦しめています。「もう2年もお父さんとお母さんに会っていません。避難するために家を出たときはとても悲しくて、たくさん泣きました」。

ハーリドさんは避難先でも学習を続けたいと、学べる場所を探していたときに、ユニセフが支援する「マカンナ」に出会いました。「マカンナ」に初めて来たとき、ハーリドさんは人との交わりを避け、殻に閉じこもっていました。ひとりぼっちで過ごし、ほとんど話さないなど、極度の精神的苦痛を抱えていることが見て取れました。しかし、少しずつ、絵を描くことでハーリドさんに変化が見られました。

「ここに来たときに最初にしたことが、お絵描きだったんだ」とハーリドさんは「マカンナ」での初日を振り返ります。ユニセフの支援で届けられた紙や鉛筆、色鉛筆を使って絵を描きながら、「今日は新しい家と花を描いているんだ。家が恋しくて、帰りたいから」と話します。そして、描いた絵を指さして、「これがハルツームにあるぼくたちの家で、これがお父さんの車。家を描くときにはいつも、帰ったらどうやって家を修理しようかなって考えながら描くんだ」と説明してくれました。

© UNICEF/UNI871022/Dawod
「マカンナ」に通う他の子どもたちと一緒に絵を描くハーリドさん(スーダン、2025年9月23日撮影)

装甲車から花へ:心の状態を映し出す絵の変化

ハーリドさんが描く絵の変化は、心の状態の変化を映し出していると、心のケアのセッションを担当するメナドさんは言います。「以前は、兵士を乗せた血まみれの装甲車を描いていましたが、徐々に花やハートなどを描くようになって、心のケアの成果が出ていると感じています」。

ハーリドさんは心の傷を抱えつつも、今では自信を持って話ができるようになりました。「マカンナ」での朝礼で挨拶をしたり、他の子どもたちとバレーボールをして遊んだりするなど、積極的な行動も見られます。「怖くなったときには、お母さんがよく言っていた言葉と、メナド先生が毎日ぼくにかけてくれる「心配しないで」というフレーズを思い出して、自分の気持ちを落ち着けるんだ」と、ハーリドさんは照れくさそうに笑って言います。

ハーリドさんが描いた「将来」についての絵。そこには、大きな家とお父さんの車、そして、家の中にいる自分自身とお母さん、きょうだいの姿がありました。

ユニセフは、ここで紹介したアトバラのほか、スーダン各地に「マカンナ」を開設して、戦闘の影響を受けている子どもたちが安心して学び、遊び、感情を表現して心の痛みを吐き出し、子どもらしく過ごせる居場所を提供しています。「マカンナ」での絵やアートを用いた心のケアを通して、ハーリドさんをはじめ、スーダンの子どもたちは、希望を見出し、レジリエンス(回復力)を高め、前に進んでいます。

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「マカンナ」に通い始めた頃に描いていた装甲車などの絵を見せるハーリドさん(スーダン、2025年9月23日撮影)

 

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ハーリドさんが描いた家を中心とした絵。右の写真にある当初の絵と比べ、心の状態の変化を映し出している(スーダン、2025年9月23日撮影)

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