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日本ユニセフ協会

プレスリリース

ユニセフ イノチェンティ研究所レポートカード19ハイライト
~日本の子どものウェルビーイング~

イノチェンティ研究所

本ハイライトは、「レポートカード 19: 予測できない世界における子どもたちのウェルビーイング」(2025年5月発表)で収集したエビデンスに基づいて、イノチェンティ研究所が、日本に関する結果をまとめた報告書です。なお、日本に結果に焦点を当てた追加の分析も含まれています。

1.経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)に加盟する国々の傾向と日本の子どもの状況

 

レポートカード 19(以下、RC19) は、高所得国において子どものウェルビーイング(幸福度)に多様な傾向が見られることを明らかにしています。進展が見られる一方、依然として解決できていない問題や新たに生じた問題も存在しています。子どもの死亡率は低下し教育への支援は強化されているものの、生活満足度や学力は低下し、過体重の子どもは増えています。状況は複雑で、これらの傾向を単一の要因で説明することはできません。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、メンタルヘルス上の問題や、過体重や肥満の増加など、子どものウェルビーイングに影を落としました。同期間中の学校の閉鎖も、子どもの幸福度や学力に影響を与えました。加えて、その影響の度合いは、子どもの置かれている社会経済的状況によって異なりました。

総合順位表の中ほどに位置する日本は、一見平均的な国のように見えるかもしれません。しかし、日本は両極端な結果が混在する「パラドックス」の国でもあります。身体的健康で常に 1 位を維持していることは、この国には並外れた能力と資源、そして適切に機能する制度があることを証明しています。また、日本は(コロナ前の)2018年以降、生活満足度の平均値が向上した唯一の国であり、基礎学力が向上した 3 カ国の一つでした。このことから、日本は新型コロナウイルス感染症の危機管理に成功したまれな国の一つであったとも言えるでしょう。

しかし、この好結果の陰には、日本ではまだ解決できていない重大な問題が潜んでいます。若者(15~19歳)の自殺率は、2018年の10万人当たり7.4人から2022年には10.4人に増加しています。これは、高所得国平均の6.24人のほぼ2倍です。自殺は心の病の最も深刻な結果であり、その発生率は25%増えています。日本には、その卓越した能力を活用して、どのように国民のメンタルヘルスを改善する方法を見出すことができるのか、という課題が残されています。

2.日本の諸統計と順位

 

総合順位表で、日本は 36 カ国中 14 位にランクしています。13位のスロベニアと15位のリトアニアの間で、2020 年のレポートカード16(以下、RC 16)の 38 カ国中 20 位から順位を上げています。精神的幸福度の分野では32 位(RC16 では 37 位)ですが、身体的健康の分野では 1 位(RC16 と変わらず)、スキルの分野では 12 位(RC16 では 27 位)となっています。しかし、10代の子ども・若者の自殺、いじめ対策、子どもがデジタル空間を安全に利用するための支援など、特定の問題については依然として改善の余地があります(表 1)。

精神的幸福度

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  • 日本は、レポートカードの調査対象国の中で、生活満足度が高いと報告した15歳の子どもの割合が増加した唯一の国です。
  • 2022年には、子ども・若者(15歳)の71%が自分の生活に満足していると回答しました(0から10までの段階で5以上)。これは、レポートカード対象国の平均(70%)をわずかに上回っています。
  • 自殺率は徐々に上昇して10万人当たり10.41人となり、レポートカード対象国の平均(非加重平均)である6.24人を上回っています。

身体的健康

スキル

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  • 日本はスキルの分野では中位にランクしています(12位)。
  • 15歳の学力は高く(76%)、2018年の73%から上昇しています。(学力:読解力および数学的リテラシーが基礎的習熟レベルに到達している15歳の子どもの割合)
  • 日本の子どもは2018年から2022年にかけて社会的スキルも向上し、5人中4人の子ども・若者(15歳)が、すぐに友だちを作ることができると感じています。
  • 他の多くの国と同様に、社会経済的背景の低い子どもと高い子どもとの学力スキル格差(数学の平均スコアの差)は、2018年以降急激に拡大しています(表2)。

3.日本の子どもに関する特定の主要課題のさらなる分析

 

3.1 精神的幸福度年齢層とジェンダー別

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  • 生活満足度におけるジェンダー差は顕著で、男の子の方が女の子よりも生活満足度が高くなっています(表3)。これはレポートカード対象の他の国々でも見られる典型的なパターンです。

 

この結果は、日本の子ども・若者(15歳)の生活満足度の高さの決定要因について分析したところ、さらに明確になりました(図1)。

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[1] 本報告書における子どもの「社会経済的背景(SES)」とは、PISA の社会経済文化的背景(ESCS)指数を指します。PISA の ESCS 指数は、親の職業と教育、家族の資産、教育に関するリソース、家庭にある文化的所有物を用いて、生徒の社会経済的背景を測定するものです。詳細については、PISA 2022 調査結果第 I 巻をご覧ください。

[2] 二変量分析の結果、下位4つの5分位層の平均生活満足度は互いに有意な差はありません。図1に示される予測確率は、低位層と高位層の間では異なりますが、中位層と高位層間では差はありません。

 

  • 日本では2018年から2022年にかけて、子ども・若者(15~19歳)の自殺率が上昇しています。これは、国内における心の病気の割合の上昇と一致しています。
  • 心の病気の発症率は、15~19歳の子ども・若者10万人当たり5,063人から6,333人に増加し、有病者率は10万人当たり約1万3,637人から1万5,241人に増加しました。こういった傾向は、10代の子ども・若者の間でメンタルヘルスに関わる精神的な負担が増加していることを示唆しており、自殺率の増加の一因となっている可能性があります。
  • 日本のような高所得国では、自殺はしばしば根底に心の病気との関連がある可能性があります。しかし、経済的不安定や人間関係の破綻、慢性的な健康問題など、危機的な状況下で衝動的に自殺する事例も多いことを認識することが重要です。出典:WHO

 

3.2. 身体的健康:年齢層とジェンダー別

 

  • 5~9 歳および 10~19 歳の両年齢層において、過体重率は一貫して男性の方が女性よりも高くなっています(表 5)。5~9 歳の男の子の肥満率(20.85%)は、同年齢層の女の子(15.13%)よりも高くなっています。

 

  • 死亡率は年齢とともに著しく上昇し、特に15~19歳の男の子で最も高く(1.40)、10代の子ども・若者における男女格差の拡大が示されています(表6)。

3.3 学力:ジェンダー・社会経済的背景別

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  • 2023年の日本の子どもの数学の平均得点は、男の子が平均540点であったのに対し、女の子は平均531点と、ジェンダー間でわずかな差が見られました。
  • しかし、社会経済的背景のグループ間ではより大きなばらつきが見られ、平均得点は最下位グループの494点から、最上位グループの575点まで、社会経済的背景が上がるにつれて上昇しています。

 

付属資料

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